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第152話収穫祭02

そしてついに迎えた祭りの当日。

おそらく一日では収まらないだろうということで、二日間にわたって行われることになった祭りの会場に一応、領主らしい式服を着て向かう。

そして、昼を少し過ぎたくらいに壇上に立つと、

「この領でもやっとこんな大きな祭りが出来るようになった。みんな、ありがとう。しかし、まだまだこれからだ。これからこの領の発展はみんなの頑張りにかかっている。今日と明日は多いに飲んで食ってくれ。そして、これから迎える冬に備えてまたみんなで一緒に頑張ろう!」

と挨拶をしていよいよ祭りが始まった。

初日は村の代表者や子供たちによる歌や踊り、田舎芝居なんかが次々と披露される。

領民はそれぞれに弁当を持ってきてそれを見たりしながら、わいわいと楽しみ、私たち家族もちょっとした貴賓席のようなところでその様子を楽しく見させてもらった。

笛や太鼓の音に合わせて子供たちが楽しく踊る。

コユキやライカもそれに合わせて楽しそうに体を動かし、まるで子供達と一緒になって楽しんでいるようだった。

昼を過ぎると今度は酒が振舞われる。

衛兵隊は大きな塊肉を焼き、ピザや揚げ芋なんかの酒のつまみをどんどん配り始めた。

私たち家族もエリーを中心にカレーを振舞う。

意外だったのは「旋風」の連中がうどんを振舞ってくれたことだろうか。

なんでもザインがうどん打ちが得意らしく長屋のご婦人方も手伝って、うどんの屋台を出してくれた。

それを見た私は当然カレーうどんを提案し、この領にまた美味しい料理がひとつ生まれる。

子供も大人もその味にみんなが夢中になり、カレーもうどんもあんなに用意したにもかかわらずあっと言う間にはけてしまった。

かがり火を焚いて酒盛りは夜更けまで続く。

ジェイさんたちドワーフがおおいに飲み、領民もそれに触発されたのか、おおいにはしゃいで、最終的には歌と踊りの輪が幾重にも連なった。

(ははは。まるで盆踊りだな…)

と妙な前世の記憶を思い出しつつ、その踊りの輪を慈しむように眺める。

そんな私の隣でエリーが、

「うふふ。よかったですわね」

と言って、私の方にいつもの柔らかい微笑みを見せてくれた。

「ああ。これもエリーが手伝ってくれたおかげだ」

と素直に感謝の言葉を伝える。

そんな言葉にエリーは、

「いいえ」

と軽く首を横に振り、

「みなさんのおかげですわ」

と言って心の底から楽しそうに笑ってくれた。

さらに祭りは続く。

しかし、私たちはその熱気を肌で感じ、高揚した気持ちを抱えつつもコユキとライカが眠そうにし始めたのを見て、なんとも惜しいような気持ちで屋敷へと戻っていった。

その日の夜はなかなか寝付けず、ひとり困ったような笑みを浮かべてベランダに出る。

すると、離れにも小さな灯りが灯っているのが見えた。

(ははは。エリーも同じか)

と思うとなんとも微笑ましい気持ちになってくる。

私は、そんな微笑ましい気持ちを抱えたまま秋の澄んだ空に浮かぶ大きな満月を見上げ、

(明日もいい天気に恵まれそうだな…)

と思いながら、晩秋の冷たくなり始めた風に当たり、ほんの少し高ぶり過ぎた心と酒で火照った体を鎮めるように、

「ふぅ…」

と大きく深呼吸をした。


やがて、

「きゃふぅ…」

というどこか楽しそうなコユキの寝言に誘われてベッドに入る。

私は、

(さて。明日も忙しくなるな…)

と楽しい気持ちで目を閉じ、冷めやらぬ興奮をなんとか鎮めつつ、祭りの一日目を無事に終えた。


翌朝。

少し寝不足気味の体を抱えつつも早朝から起き、会場に向かう。

会場に着くと、衛兵隊や村のご婦人方を中心に人が集まり始めていて、さっそく二日目の屋台の準備に取り掛かっていてくれた。

「おはよう。今日もよろしくな」

と、みんなに挨拶をしながら私たち家族も準備に取り掛かる。

父やバティス、エマやマーサは大量に作ったおもちゃを配る準備を始め、私とミーニャ、そしてエリーはさっそくドーナツを揚げる準備にとりかかった。

ちなみに、ジャックには明日まで休みを与えて故郷の村で自由に祭りを楽しんでもらっている。

私はそんなジャックもこの村の子供達同様、楽しんでくれているのだろうか?と思いつつ、ウキウキとして準備を進めていった。

やがて、会場に人が集まり始める。

その面々を見ているとどうやらご婦人と子供達が中心のようだ。

私は、

(ははは。男どもは飲み過ぎたな…)

と、おかしく思いつつ、さっそくやって来た子供達に、

「こっちは蜂蜜のかかったおやつだぞ!」

と声を掛ける。

すると、子供達だけでなく大人も、

「蜂蜜!?」

と喜びの声を上げて、私のいる屋台の方にすごい勢いで向かってきた。

「おいおい。順番に並んでくれ。たっぷり用意してあるから、きっと全員に行き渡るぞ」

と苦笑いで声を掛ける。

そして、私は額に汗しつつも、子供たちの、

「ありがとう!」

とか、

「あっまーい!」

という声を心から嬉しく聞きつつ、次々とやってくる子供たちにドーナツを渡していった。

気が付けば会場にはかなりの人が集まってきている。

それを見て、私は、

(ああ。みんな楽しみにしてくれていたんだな…)

と思うと自然と胸が熱くなるのを感じた。

やがて、昼を少し過ぎた頃。

ようやく屋台に並ぶ子供達の列がなくなる。

私たちはそこで軽くお茶を飲みながら、ドーナツをつまみつつ風車を片手に走り回ったり、竹とんぼ合戦に興じる子供達を見つめた。

「可愛らしいですわね…」

とつぶやくエリーにミーニャも、

「はい!とってもかわいいです!」

と嬉しそうに続く。

私は、

(この子達がこうして笑顔のまま育てる領にしていかないといけないんだな…)

という責任を感じつつ、

「ああ。あの子達はこの領の宝だ」

と言って目を細めた。

そんな私にエリーが、

「うふふ。ルーク様は本当に真面目な方なんですね」

と言っておかしそうに微笑む。

私はそれに少し照れて、

「何かおかしなことでもいっただろうか?」

と言うと、今度はミーニャが、

「ルーク様は最高のご領主様です!」

とかなり恥ずかしいことを言ってきた。

「おいおい。それは言い過ぎだ」

と笑いながらつっこむ。

しかし、ミーニャは、

「いえ。本当のことです!」

と言って、なぜか自慢げに胸を張った。

「ははは…」

と苦笑いを返す。

そんな私たちのやり取りにエリーが、

「うふふ。ルーク様はとっても慕われてらっしゃるんですね」

と嬉しそう微笑みながらそう言った。

「ははは。そうだといいんだがな…」

と、また照れて頭を掻きつつそう答える。

そんな私たちの間にはなんとも長閑な空気が流れ、幸せという言葉が何よりも似合うゆったりとした時間が流れた。

その後、家族全員で弁当を食べ、村の子供達と楽しく遊ぶライカやコユキを眺めて楽しい時間を過ごす。

そして日が西に傾き始めたのをきっかけに私たちはなんとも残念な気持ちで後片付けを始めた。

大まかな片付けを終え、後のことを衛兵隊や大工の連中に託す。

そして、道具を積んだ馬車でぼちぼちと屋敷に向かいながら、

「終わってしまいましたね…」

と寂しそうに言うエリーに、

「来年もあるさ」

と、そう言葉を掛けた。

「うふふ。そうですわね。今から楽しみですわ!」

と微笑みながら答えるエリーの言葉を聞いて、私はふと、

(いや。来年の今頃エリーは…)

ということを思い出す。

これまでのことがあまりにも楽しくて、私はエリーが単に我が領に預けられている身分だということをすっかり忘れてしまっていた。

いや、正確に言えば考えないようにしていたと言った方がいいのかもしれない。

私はそんなことを思い出すと、とてつもなく寂しい気持ちになり、

「なぁ、エリー…」

と、何を聞くわけでもなくエリーに呼びかけた。

「はい。なんでしょう?」

と聞き返してくるエリーに、

「あ、いや…」

と、何を聞いていいものか戸惑いついつい言葉を詰まらせる。

そんな私の態度をおかしく思ったのか、エリーが、

「どうかなさいましたか?」

と心配そうに声を掛けてきた。

「ああ、いや。その、なんというか…」

と、またはっきりしない言葉を返す。

するとエリーはなぜか、

「うふふ」

と微笑んで、

「私、この領がとっても好きになりました」

と唐突にそんな感想を伝えてきてくれた。

私は少し戸惑いつつも、なんとか微笑んで、

「それは良かった…」

と答える。

そんな私にエリーはもう一度微笑んで、

「はい。とってもいい出会いだったと思っているんですよ」

と嬉しそうにそんな言葉を掛けてきてくれた。

私はその言葉が嬉しくもあり、また、寂しくも感じて、

「…ああ」

と言ったきり次の言葉を失ってしまう。

私はなんとも気まずいような心持になって、

(こんな時、私はなんと言うのが正解なのだろうか…)

と必死に次の言葉を探った。

そうやって焦る私の手にエリーが手を重ねてくる。

その行為に私はハッとして、エリーを見つめた。

「うふふ。来年も楽しみですわね」

とエリーが微笑みながら語り掛けてくる。

私は、なぜだかよくわからないが、その言葉に妙な勇気をもらったような気持ちになって、

「ああ。楽しみだ」

と微笑んで答えた。

夕暮れの田舎道を馬車が進む。

私はその道の先にある温かい我が家を思い、

(私はなんとも恵まれているな…)

と、なぜか不意にそんなことを思った。

「うふふ」

と、またエリーが微笑む。

私はそれがことのほか嬉しくて、

「ふっ」

と小さく笑うと、私の手に重ねられたエリーの手を優しく握り返した。


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