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第156話警戒巡視03

いつものように野営を挟み村に戻る。

まずは衛兵隊の拠点に寄り、隊長のエバンスに現状を報告して明日詳しいことを打ち合わせることを決めた。

それから屋敷への道を急ぐ。

屋敷に着いたのは夕方前。

さっそくバティスに風呂を用意してもらってコユキと一緒に冒険の垢を落としてからいつものように腹を空かせて食堂に入った。

「おかえりなさいませ」

と嬉しそうな表情で出迎えてくれるエリーに、

「ただいま」

と笑顔で言葉を返したところでやっと我が家に帰ってきたという実感が湧いてくる。

私は心の中で、

(ああ、こういう幸せがこれからもずっと続いてくれればいいのに…)

と思いながらいつもの席に着いた。


その後、トロトロに煮込まれた豚の角煮で思う存分米を食い、いつものように楽しい夕食が終わる。

そして、食後のお茶の時間。

私は少し居住まいを正してみんなにまたすぐに森に行くことを告げた。

「あの…。大丈夫なのでございましょうか?」

と心配そうな表情で言ってくるエリーに、

「ああ。大丈夫だ。今回は大所帯で行くことになるだろうからな。心配無いさ」

と少し気安い感じで安心させるような言葉を返す。

そんな私の横から父が、

「ああ。エバンスに聞いたが、最近、衛兵隊の連中の士気がずいぶん上がってきているらしいからな。安心して任せているといい」

と言葉をつぎ足してくれた。

その言葉を聞いたエリーは少しほっとしたような表情で、

「そうなんですね…」

と言いつつも、すぐに表情を引き締めて、

「それでも、十分に気を付けられてくださいましね?」

と念を押すような言葉を掛けてくる。

私はその心配がなんとも嬉しくて思わず微笑みながら、

「ああ。無事に帰ってくるから美味しいカレーを用意して待っていてくれ」

と少し軽い感じで返事をした。

「まぁ、ルーク様ったら…」

とエリーがおかしそうに微笑みながらわざと呆れたような言葉を返してくる。

そんなやり取りでその場の空気は少し和み、そこからはいつものように楽しい食後のお茶の時間が続いていった。


翌日。

朝から役場にやってきたエバンス、ハンスと調査の打ち合わせをする。

今回はオークとの連戦やさらなる異変との遭遇もあると想定して三十名ほどで臨むことにした。

群れと遭遇した場合には遠距離からの牽制できる弓隊が重要であることを確認したので、あとの具体的な戦力の配置は現場の判断に任せる。

そして出発の日を明後日に定めると打ち合わせは午前中のうちに終わった。


そして、迎えた出発当日。

早朝からエリーも含めた家族全員の見送りを受けて屋敷を発つ。

コユキは相変わらず楽しそうにしているが、ライカは前回の反省もあるのだろう、どこか気合の入った表情をしていた。

そんなライカの首筋を軽く撫でてやりながら衛兵隊の拠点へと向かう。

拠点に着くと、そこにはすでに準備を整えたみんなが勢ぞろいして待ってくれていた。

敬礼するエバンスに軽くうなずき、ライカから降りてみんなの前に立つ。

「みんな。今回の調査では我が衛兵隊の底力が試される。気を引き締めてかかってくれ」

と、ひと言挨拶をすると、みんな拳を振り上げて、

「おう!」

と大きな声を返してきてくれた。

そんなみんなの声とやる気に満ちた表情を頼もしく思いつつ、

「よし。じゃぁ、さっそく出発だ!」

と声を掛けて再びライカに跨る。

そして、私の、

「よろしく頼むぞ」

という声に、ライカが、

「ひひん!」

と嘶いたのを合図に私たちは気合たっぷりに森を目指して進み始めた。


大所帯にもかかわらず順調に行程を重ねていく。

みんなそれぞれの役割をきっちりと果たし、連携がとれている証拠だ。

私はそれをなんとも頼もしく思いながら、なんとも嬉しい気持ちで森の奥へと歩を進めていった。


やがて、先日オークと邂逅した場所に到着する。

ここからは私とハンスそれぞれが隊率い、二手に分かれて行動することになった。

「じゃぁ、自分たちは東側から調査していきますんで、二日後にこの地点で落ち合いましょう」

「わかった。無茶はするな。いざと言う時はすぐに撤退してくれ。合流地点で一日待っても相手が到着しなかったらとりあえず今いる場所まで撤退してくることを徹底してくれ」

「了解っす」

と地図を見ながら最終確認をして、それぞれの隊を指揮し準備を整える。

私は、

「じゃぁ、いってくるっす!」

と言って出発していくハンス隊を見送ると、自分に付いてきてくれるみんなに向かって、

「じゃぁ、こっちも出発するぞ」

と声を掛け、深い森の中へと入っていった。


冬枯れの森の中を進んでいく。

この辺りは落葉樹が多いらしく、葉の落ちた木の枝の隙間から弱々しい冬の日差しが入り込んで、意外と順調に歩を進めることができた。

「ここまでは順調ですな」

と私の斜め後ろにいるルイージが声をかけてくる。

私は、

「ああ。こちらはライカとコユキのおかげで索敵に不安がない分あちらよりも長い距離を行くことになっているから、ありがたいことだ」

と気軽に声を掛けつつも、

(あまりライカとコユキに頼りすぎるなよ)

と自分に言い聞かせ、密かに気を引き締めた。

周りのみんなも油断は無いように見える。

やがて、ほんのわずか森が開けた場所に出ると、私たちはそこで小休止をとることにした。

みんなして馬を下り、軽く行動食をつまんでひと息吐く。

地図を確認してみたが、このまま順調にいけば今夜の野営地までは夕方前くらいに着けそうだ。

そんなことを思っていると、突然、

「きゃん!」

というコユキの鋭い声が辺りに響いた。

ハッとして、立ち上がりコユキの方を見る。

するとコユキとライカが小走りにこちらにやって来て、

「ひひん!」(ちょっと遠くたくさんにいるよ!)

「きゃん!」(うん。臭いの!)

と敵が近づいていることを教えてくれた。

「よし。ありがとう」

と言って二人を軽く撫でてやり、すぐみんなに、

「敵が近いらしい。様子を見つつ慎重に前進して迎撃できそうな場所をさがそう。おそらくゴブリンだ!」

と告げる。

その声にみんなが、

「おう!」

と声を揃えてさっそく準備に取り掛かってくれる。

私も急いで支度を整えると、コユキとライカを軽く撫で、

「頼んだぞ」

と声を掛けてライカに跨らせてもらった。


コユキの鼻を頼りに、魔獣の方向を確認しながら進んで行く。

やがて、林のように木の感覚がまばらになっているところに出た。

「ここらあたりがいいんじゃないですかい?」

というルイージの言葉にうなずいて、馬を止めさっそく戦闘態勢を整え始める。

皆慣れたもので、すぐに準備は整い、

「馬たちのことは頼んだぞ」

とライカに声を掛けると、私たちはいつでも敵を迎え撃てる状態になった。

そこへ、

「きゃん!」(臭いのいっぱいきた!)

というコユキの声が響く。

すると間もなくして、木陰からわらわらとゴブリンが姿を現し始めた。

「弓隊、いっせいに放て!盾は前線を形成しろ!」

と指示を出し、刀を抜く。

そして、私は弓の薄い部分を狙って魔法を放ちつつ、周囲を取り囲むように出てきたゴブリンたちへ睨みをきかせた。

みんなを見てみると盾が完全にゴブリンを押しとどめ、剣と弓が確実にトドメを刺していく。

私はその様子に安心しながら、隙をついて出てこようとするゴブリンを仕留める役に徹した。

やがて、戦闘が終わる。

どうやらこちらに大きな損害はでなかった。

まずはそのことにほっとして後始末に取り掛かる。

無事、ゴブリンの山を焼き終わり出てきた魔石を数えて見ると、どうやら数は七十近くいたようだ。

その魔石の数を見て、ルイージが、

「この辺りにしちゃぁ、ちょっと数が多いかもしれませんなぁ。まぁ、誤差と言えば誤差の範囲内ですが…」

と少し難しそうな顔で言ってくる。

その言葉を聞いて私も、

「うーん…」

と顎に手を当て考えるような仕草を取ったが、すぐに、

「とりあえず、詳しいことは奥に行ってみないとわからんだろうな。とにかく慎重に進んでいこう」

と少し苦笑いを交えながらそう言って、すぐにその場を発っていった。


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