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第157話警戒巡視04

森の中を進み、予定よりも少し遅れて本日の野営地点に着く。

そこでも衛兵隊のみんなはきびきび動いて、すぐに夕食の時間となった。

乾燥肉の出汁がきいたスープで体を温め焚火で暖を取る。

(うん。やっぱりミーニャのスープは落ち着くな…)

と思いながらコユキと一緒にそのスープを食べているとそこにもう食事を済ませたらしいルイージがやって来て、

「明日は、少し歩調を早めてなるべく早く合流地点に着きたいと思っていますが、どうでしょう?」

と言ってきた。

ルイージ曰く、こちらがこの様子ならあちらもおそらくなんらかの魔獣と接敵しているだろうとのこと。

ゴブリン程度なら問題無いが、万が一損耗があった場合には手助けをしてやらないといけなくなる。

だとしたら、こちらはなるべく無傷の状態であちらの到着を待ってやりたいということだった。

「なるほど。そうだな。たしかにあちらの様子は心配だ。よし。明日は早めに動いて、さっさと合流地点を目指そう」

と答えてさっそく地図で現在地と道順を確認していく。

そして、変更した予定を全員で確認すると、その日は交代で見張りを務めながら早々に体を休めた。


翌朝。

空が白み始めたのを見て、さっそく出発する。

途中、魔獣の気配はあったようだが、ライカ曰く小さな集団のようだったので、それを避けるように進み、夕日が山の陰に沈み始める前に無事合流地点に辿り着くことが出来た。

少し高い場所から遠くまで見渡してみたが、ハンス隊の姿はない。

私たちはあちらがこちらを見つけやすいそうな場所に陣取ると、そこで野営の支度に取り掛かった。

緊張しながらその夜を過ごす。

(果たして大丈夫だろうか?何事も無ければいいが…)

と思いつつ過ごす夜は不安なもので、私はなんとも言えないそわそわとした気持ちで体を休めた。


翌朝。

眠い目をこすりつつ、とりあえずミーニャに淹れてもらったお茶を飲み、一息吐く。

すると、そこへ、

「報告します!遠くに影が見えました。ハンス達です!」

という報告が飛び込んできた。

「よし。急いで準備を整えて迎えに行こう。けが人がいた場合の対処を頼むぞ!」

と返事をし、急いで出発の準備に取り掛かる。

そして、合流地点になっていた草原の中央でハンス達の姿が近づいてくると、私はさっそくライカに駆け足の合図を出して、ハンスのもとへと駆けつけた。

「無事か!?」

と大きな声で訊ねる私に、

「なんとか無事っす!」

とハンスも大きな声で応えてくる。

私はその言葉に少し安堵しつつ、ハンスのもとに着くと、今度は少し落ちつた声で、

「損害は?」

と聞いた。

「はい。軽傷が何人か。オークの群れだったっす」

「なに!?大丈夫だったのか?」

「はい。ちょっとした打ち身とか捻挫で戦力にならなくなったのが何人かいますが、馬での移動に問題はありやせん」

「…そうか。まずはよかった。で、どのくらいの規模だったんだ?」

「はい。十二でした」

「…多いな」

「ええ。この辺りにしちゃかなり…」

「また、ロードの可能性も考えておいた方がいいと思うか?」

「…それは、もう少し奥の様子を見てみないとなんとも」

「そうか…。わかった。じゃぁ、ケガをした隊員とその護衛を徹底させて残りで奥の調査に向かおう。戦うかどうかは状況次第だ」

と馬上で話して今後の予定を決める。

そして、私たちはハンス達に休息をとらせ、その間にけが人の治療を済ませると、撤退する部隊を見送ってからその場を離れた。


草原を抜け再び森に入っていく。

この辺りの森は針葉樹が多いらしく木々は冬でも青々と葉を茂らせていた。

「少し見通しが悪いっすね…」

というハンスの言葉通り、先の様子がわからない。

そんなハンスの言葉を受けて、ライカが、

「ぶるる!」(まかせて!)

と気合のこもった言葉を発した。

続けてコユキも、

「きゃん!」(私もがんばる!)

と気合のひと言を発する。

私はそんな二人に、

「頼んだぞ」

と声を掛けると微笑みながら交互に優しく撫でてあげた。


それから進むことしばし。

段々と道が険しくなってくる。

私が、

(そろそろ、小休止を取って道を確認した方が良さそうだな…)

と思った時、不意にコユキが、

「きゃん!」

と鳴いた。

一瞬で隊に緊張が走る。

「ハンスっ!」

と短く言うとハンスは、

「了解っす!」

と応え、

「全員準備だ。ぬかるな!」

と指示を出してくれた。

それを見た私は、

「どっちだ?」

とコユキに訊ねる。

すると、今度はライカが、

「ひひん!」(あっちだよ)

と言って、森の奥、私たちが進むべき方向に目を向けてくれた。

「ありがとう。助かった」

と礼を言ってから二人を軽く撫でてやる。

そして、隊の準備が整ったところで私たちはライカの案内に従って森の奥へと進み始めた。


疲れを押して進むこと一時間ほど。

明確な痕跡が現れ始める。

「オークっすね…」

というハンスの言葉通り、そこかしこの地面が乱雑に踏み荒らされていた。

「多いな…」

と、つぶやきつつその痕跡を追っていく。

するとますます痕跡は多くなり、やがて、ほんの少し見通しの良い場所に出ると、少し離れた所に、数十匹のオークがたむろしているが見えた。

「…どうだ?」

「やれないことはないって数ですね」

「そうだな。幸いロードじゃなかったようだし、ここで叩こう」

「うっす」

とハンスと短く言葉を交わしてここで敵を殲滅することを決める。

ハンスは静かな声で、そのことをみんなに伝えると、みんなも静かにうなずいて、それぞれが戦いの準備を始めた。

「よし。ギリギリまで馬で近づこう」

と声を掛けてさらに進んで行く。

そして、倒木のおかげでちょうどよく開けた場所を見つけると、そこで馬を降り、

「じゃぁ、あとは頼んだぞ」

とライカに声を掛けてから私たちは慎重にオークがいる方へと近づいていった。


森を抜け、オークの姿が見える場所まで辿り着く。

そこで私たちは身を潜めるようにして辺りを伺いながら、それぞれの役割と陣形の最終確認を行った。

「私はここから単独で突っ込む。ハンスとルイージは私が突っ込むのを見たら、それを合図にそれぞれの隊を指揮して左右から挟み込むように突撃してくれ」

と短く指示を出して隊を動かす。

そして私は一人になり、静かに魔力を練りながらその時を待った。

やがて、ハンスとルイージから鏡を使った合図の信号が来る。

私はあちらからは見えないとわかっていても、その合図にうなずき、

「ふぅ…」

と、ひとつ息を吐いて刀を抜き放った。

木の影を飛び出し、まっすぐオークの群れに向かって駆け出していく。

すると、私に気付いたオークが、

「ブモォッ!」

と周りに警戒を促すような声を上げた。

その瞬間、かなりの魔力を込めた風魔法を放つ。

私の放った魔法は音もなく飛んでいき、私の目の前にいた数匹のオークを両断して、私の目の前に道を作った。

その綻びに迷わず突っ込んでいく。

すると、私の左右から、

「うおぉぉ!」

という声が聞こえてきて、衛兵隊が突っ込んできたのが分かった。

それを確認した私はさらに目の前にいたオークの拳を避けつつ懐に飛び込んで斬り倒していく。

それを繰り返し、私の周りをぐるりとオークに囲まれた所で、私はまた風魔法を放ってその囲みに綻びを作った。

その隙をついて、また飛び込みオークの陣形を崩す。

すると、私と衛兵隊で三方からオークたちを取り囲むような陣形が出来上がった。

そこからは殲滅戦の様相を呈していく。

もちろん、ゴブリンを相手にするようにはいかなかったが、それぞれの隊が善戦し、私も魔法で援護をしたおかげで、激戦ではあったが、なんとかその戦いを勝利で終えることができた。

最後のオークにトドメを刺し、

「被害確認!」

と誰にともなく指示を出す。

すると、

「了解っす!」

というハンスの声が私の後の方から聞こえて、次に、

「そっちはどうだ?」

「おう。問題ねぇ」

「よし。じゃぁ、そっちを手伝ってくれ」

と言うような隊員同士の会話が聞こえてきた。

「お疲れ様です。お水をどうぞ」

と言ってくれるミーニャに、

「ありがとう」

と微笑みながら礼を言って水をひと口飲ませてもらう。

それはただの水だったが、戦いの興奮で火照った私の胸をほっとさせてくれるようなどこか爽やかな味がした。

やがて私も手伝ってオークの後始末をしていく。

数えて見るとオークは三十三匹ほどいたようだ。

「この程度の群れには常に遭遇するって前提で隊を編成しとかないとっすね」

と、いかにも副隊長らしいことを言うハンスに、

「ああ。戻ったらもう一度会議だな」

と苦笑いで応える。

その後、私たちはその場で野営の準備を整え、久しぶりの大仕事で疲れた体をほんの少しだけ休ませた。


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