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第32話 あの船影を知っている

どこかで見たことがある

この覚え

夏の空気感

海から離れた住宅地

それは原野と呼ばれた丘陵

切り開かれて道の走り

交差点に巨大な船


大地を刻む舳先が無言で

あの甲板は遥か頭上


登れば宇宙に近づける気がして

捜した階段

探した手すり

見事になにもなくて

登る手段がなかった


沖を進む貨物船や

風を受ける帆の数々に

いつか境界線の向こうへ

いきたい


大人になった日

汽笛が聞こえた気がした

そんなわけないのに

目覚める瞬間には

霧笛が鳴り響いた

窓の向こうに広がる宇宙

そっか

こんなタイミングだったのか

水星を初めて認識できた夜

あの船影を知っている

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