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第98話 将来の展望

歩きながら考える

将来の展望は

陽射しに包まれて

穏やかなひととき

ひとり熱く語って

誰かの隣

その誰かって


高校最初のクラスで

「結婚は見合いと恋愛どっちがいい?」

と質問された


「恋愛」と即答すると


「え?」という反応


意外なのか

思惑どおりか

知るよしもなく

答えたまんま


「なに聞いてんだよお前」と別のクラスメイトが笑った

「いや、まあ、その」と真顔の質問者が


「やっぱ結婚すんなら恋愛だよな?」と言う


おれは

「恋愛」

うわごとのように繰り返す


「なに、そんなに結婚したいとかなの?」とまた別のクラスメイトが言った


おれは

「する」

つぶやく


すると


「恋愛結婚か」


やはり真顔の質問者が言った



バイトを希望しても

「親は?」

と確認されてしまうし

「学校は?」

と質問されると

「内緒です」としか答えようがないんだけれど

そういうのはダメなんだって

だから雇えないよって


反対を押し切ることの大変さを知り

許可を取らねばならない現実を知り

財布をのぞいては

そっと閉じる



夏を過ぎると

とたんに窮屈になった気がして

朝「おはよう」と声をかけると

「なんだよ。ほかに話題ないのかよ」と言われてしまったので

「めんどくさいなあ」と本音を漏らした



あんなに嫌で面倒だった塾が

いまでは生きがいになっているっぽくて

自分の変化に驚くけれど

毎日の静けさが苦しくて

自分の声の大きさが煩わしくて

どんどん口数が減っていくけれど


なあ

このまま進めばいいと思う?


どのつらさげて

なにを決めるんだって?


「まだ早いけれど最初の確認だ、ちゃんと考えて記入してから提出しろよ」

担任の先生が配った進路希望書に


おれは

・給与所得

・恋愛結婚

・詩人

と記入して職員室へ持っていった


「うん?」と担任

黙る私


「うん」と担任

天井を見る私


「まあ、いいんじゃないか?」と担任

「そうですか」と私

「ああ」

「どのあたりがですか」

すると担任は天井を眺めてからグルっと椅子を半回転させて

「これ」

と一冊のノートを渡してきた


なんですかこのノート

おれはパラっと

すると

なんのランキング

っていう並びがあって


「ふー」と息を深く遠く吐く担任「それ。入試の時の成績な」


おれは初めて見たから

「初めて見ました」と言う

すると

「そりゃそうだろ。見せてないし、生徒が見る機会なんてない」

なぜそれをいま?


「好きにしろ」担任が真顔で言う、

「おまえは頑張った。頑張ってきた。いまも頑張ってる。それでいい。そのままいけ」


そのあと会話を続けたけれど

「失礼します」と一礼して職員室を出ると

なぜか

なんだか


なんていうか

その



いい気がした

ちょっとだけ

おれは

おれでいいんだ?

って


自分に問いかけた




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