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第102話 大人になったら

銭湯の煙突のハシゴ階段を登りたくて申し出た

いやぁさすがにな 子供はダメだよ

断られてホッとしたのは

親というより

ぼく自身かも


だからいつも想像だけで

どんな眺めなんだろうって


なにが見えるのかというより

どう感じるのかだったと思う


だって裏山に登れば

この町すべて見下ろせたし

もっと

あっちの高い山だったら

すごい見晴らしよかったから


なのに


家と家を隔てるブロック塀でさえ

登れば景色が変わる

脚立でさえ

世界の眺めを塗り替える




銭湯なんて久しぶりだ

ずいぶんくすんで見えるけれど

どれだけ時間が経過したっけ


知ってる顔がいない

同級生と会うこともないだろう

柚子がないのに

なんとなく思い浮かべてしまう


夜空にそびえているのを見あげて思い出す

登りたいって考えたことあったっけな


大人になったら

大人になったら?


もうそんな機会を求めないけど

こんな大人になってからも

塀でさえ展望台

三脚だって


明日は桜の剪定だ



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