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第207話 なんにも知らないはずなのに 、とっくに知ってることだらけ

雨が嫌いと言いつつも梅雨つゆは別

それがたとえ蒸し暑くて気持ち悪くなる陽気でも

見事な晴れ間に出会えるから


どんより暗くて気持ちが落ち込みそうなときでも

『いや、でもまあ、夏だし』

と思うだけで気分が上昇する


夏は特殊だ

特別も特別で特別すぎるあまり特別が日常茶飯事化する

というところも含めて好き


少しくらいなら濡れても乾くし

と油断すると全然なんだか乾いてくれなくて

気づいたときには全身びっしょりな?

でも

『いやいや、でもいまは夏だしな?』

で回復する


洗濯物が乾きにくくて

ときどき心の古傷が叫び声をあげやがって

いてもたってもいられなくなるんだけれど


いや、まあ夏だしな


ゆるせる



なにひとつ問題が解決していなくても

明日に希望を繋げられたならば上出来

もちろん成果を問い詰められて

あることないこと叩きつけられて

それは嫌で苦痛で正直まじツライんだけど

夏だから耐えられる

夏ならば図太ずぶとく生き抜く神経を活性化できる


今日も今日の自分を許す


たぶん昨日の

おれとは違う


明日は明日の

おれが挑む



ほんの数秒でいい

ちょっとだけ

あの夏ならではの陽射しを浴びたいな

自分で思うよりも体は正直

どんな命令も

方便の嘘さえ

おれの細胞を制御できないさ


じっと黙って見あげた夜空

街燈に照射しょうしゃされた雨粒が

おれを襲う

なんて優しい衝撃

おれを包む

なんてうるわしき慟哭どうこく

この無言を届けたい

この無限な病みを抱えつつ

大丈夫

大丈夫だよ

大丈夫です

うわごとみたいに伝えたい



絶望は突如として心の扉をダンダンダンと叩くけれど

心配しないで

たいていは贋物にせもの



おれが絶望だと感じる絶望の多くは

絶望の皮を被っただけの紛物まがいもの

不安になった?

心配になる?

そんなときの訪問者は

絶望なんかじゃないですよ


だって

正真正銘の絶望というのは

扉を叩きもしないし

不安にさせるよりも早く生気を奪うから

感情そのものが消滅してしまう

心配になれるのは未来があるひとだけ

その未来を

正真正銘の絶望が一瞬で吸い取って去る

もちろん

生きてく喜びがなくなるけれど

死にたい望みも湧かなくなるよ


だから覚えておこう?

この夜空が闇のまま雨粒を輝かせるように

どこかの誰かのなにかがキラッと

おれの心そのものを突き刺して去る

ほんの一瞬その刹那せつなこそが

むかし昔その昔まごうことなく芯に火を燈し続けた遺志のごとく


告げてくる

さあ

手にするがいい

迷うなら迷うまま

悩むなら悩むまま

ありのままでいることは

昨日までの自分を越えようとする意志そのものを育てることだから


変化に必要な時間は長く途方もないと言うが

個人的な制約の世界では

チリッ

とした火花くらいのものでしかない


あれ

いまなにか?

ハテ


不自然な違和感を自然に容認してしまうとき

すでにもう通過済み


ほら穴がいてて

見えるだろう

光の線


因縁つけられたんだ

まずは会いにいこうぜ

千枚通しの針より細く鋭く

闇を貫いた張本人のもとへ



希望てなんだっけ

知ってるからこそ

わからなくなる

知ってたからこそ

探してしまうが

もうすでにホラそこ

ここ


あるじゃん

ポッカリいた心の壁

深呼吸するたび

ゆっくりからくだけ散る



夏は特殊だからこそ

なんでもない顔をして

初めてのときでさえ

懐かしく感じられる


なんにも知らないはずなのに

とっくに知ってることだらけ





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