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32. 山本さんの弟(後編)

つい白熱してしまった。


「一息入れようか」

「俺、なんか取ってくる!!」


透くんがパッと部屋から出ていった。

ゲーム一緒にやってても感じたけど思い切りがいいな。

その辺り山本さんと似てる気がする。

透くんが麦茶とティラミスとカステラを持ってきた。

俺はカステラを、透くんはティラミスを食べている。


「うめぇー、これどこのケーキ?」

「高校の裏にあるケーキ屋」

「そんな近くにあんのか、なら学校終わりに買える?」

「買える買える、みんなやってる」

「やべぇー、楽しみだ」


ニコニコと食べているのは嬉しい。

大木さんや透くんが食べて高評価だから、

きっと山本さんが食べてもおいしいと言ってくれるだろう。


「ゲームはいつも姉ちゃんとやってるけど下手でさ」

「へぇー」


あ、だからパーティーゲームが多いのか。

でもこの年齢の姉弟で一緒にゲームするとか珍しい。

大体どっちかが嫌がるものだけど。


「負けが続くと物理的な攻撃が来るんだよ」

「物理的って?」

「わざわざバナナ食べて俺にぶつけてくるとか」

「あっはっは、楽しそうだな」


負けず嫌いは知ってたけど家ではそんな感じなのか。

学校では見かけることのない一面を知ることが出来て楽しい。


「姉ちゃんは学校でどんな感じ?」

「すごく優しいよ」

「嘘だー、自分勝手に決まってる」


鋭い。他の人の印象だとそんな感じらしい。

ただ俺から見ると優しいとしか思えないんだよな。


「他の人から見てどうかはわからないけど俺はそう思う」

「へぇー」


感心そうに聞いてる。

この前の感じを見ても思ったけど、

透にとって山本さんは逆らえない相手なんだろうな。

俺は長男だからわからないけど、

弟妹にとっての兄姉というのはそういうものらしい。


「姉ちゃんが男を家に呼んだの兄ちゃんが初めてなんだ」

「そうなの? モテそうなのに」

「顔は良くても性格があれじゃあね」

「いやいや性格もかわいいよ」

「まじで? 兄ちゃんの目腐ってない?」

「照れ屋だったりお姉さんぶったりするのとかすごく良いと思う」

「はー、そんなもんかね、じゃあさ、姉ちゃん彼女に出来る?」

「なってくれるなら是非」

「すぐ手が出るよ?」

「愛情表現だと思う」

「口悪いよ?」

「気兼ねしない相手と言うことだよ」

「おしゃれに興味ないよ?」

「そのままで美人ってすごくない?」

「卓球命だよ?」

「熱中できることがあるのはいいことだ」

「胸ないよ?」

「……妥協も必要だよね」

「本音でてんじゃん」

「そこはロマンだから」

「わかる、俺の彼女も胸なくてさ」

「え、彼女いるの!?」

「内緒だぜ、バレたら絶対八つ当たり食らうから」


たしかに弟妹のほうが先に交際し始めたら兄姉の立場がない。

(俺もその立場だしよくわかる)


「だから姉ちゃんには早く彼氏ができてほしいわけよ」

「といっても希望が付き合いたいと思ってくれるかは……」

「お、呼び捨て?」

「あ、呼び捨てで呼べって言われたんだ」

「へぇー、姉ちゃんがねぇ」

「ただいまー」


玄関を開ける音とともに元気のいい声がした。

(あれ? 用事があるから遅くなるんじゃ?)

そう思って時計を見るともう夕方だった。


「透ー、哲也くん来てたー?」

「あっ、どうも、お邪魔しています」

「え、哲也? ……透、こっちに来て」

「なんだよ姉ちゃん、今いい所なのに」


話を聞いてもらえずそのまま山本さんに連れていかれた。

(この辺りはやっぱり姉が強いよな)


「あんた、なんで哲也くんと一緒にいるのよ!?」


ドア一枚向こうで話しているらしく丸聞こえだ。


「ケーキ持ってきてくれたからお茶を振舞っただけだよ」

「どう見てもゲームした痕跡があるじゃない!!」

「だって洋平の兄ちゃんだって言うから」

「理由になってない!!」

「というか姉ちゃん、家ではくん付けなのに本人には呼び捨てしてんの?」

「いいでしょ、別に」

「もう少しかわいさ出した方がいいぜ、顔だけはいいんだし」

「余計なお世話よ!!」

「俺としてもさー、年頃の姉に彼氏の一人ぐらい出来てほしーわけよ」

「あんたが彼女連れてくるのが先でしょ」

「あれれ? いいの? 俺が彼女連れてきたら敗北感ヤバくない?」

「大丈夫、透の恥ずかしい昔話教えて幻滅させるから」

「自分に彼氏が出来ないからってひでーな!?」

「姉より優れた弟など存在してはいけないのよ」

「やっぱり外道じゃねぇか、学校では優しいとか聞いたのに!?」

「ちょ、ちょっと待って、誰からそんな話を?」

「哲也兄ちゃん」

「え、そんな風に言ってくれたんだ……」

「え? ここで乙女回路発動? というか兄ちゃん待たせたままだぞ」

「あっ」


うーむ、前もそうだったけど丸聞こえなんだよなぁ。

それにしても透くんとの会話は、

テンポ良くて適度にボケとツッコミも混ざっていて楽しそうだ。

(この反応を見たらみんな山本さんを好きになると思う)

慌ててドアを開けて山本さんが入ってきた。


「哲也、今日はごめんね」

「俺が携帯忘れてたのが悪いし透くんと遊んでたし」

「あいつ失礼なこと言ってない?」

「全然そんなことなくて礼儀正しい子だったよ」

「よかった」

「いつも姉ちゃんとゲームしてるって言ってたけど、希望もゲームするんだね」

「あ、うん、……駄目かな?」

「全然良いと思う、俺もゲーム好きだし」


ちょっと腰が引けた感じで喋る山本さん。

この時代だと女の子でゲーム好きって言うと、

問答無用でオタク認定されるから公言しづらいんだよな。

でも共通の趣味があるのは嬉しい。

……ここで頑張ってアピールしてみようかな?


「今度勉強だけじゃなくてゲームも一緒にしたい」


自分から誘うのは初めてなので声が上ずりそうになる。

(これで嫌!! とか言われたら……)


「うん、いいよ」


でもその考えは杞憂だったみたいで普通にそう答えてくれた。

(よかった、本当に嬉しい)


「兄ちゃんビビりすぎだろ」

「え、あ、いや」

「姉ちゃんなんてグイグイ行けばコロッと落t「透!!」

「いたたたー、だから耳はやめろって!?」

「姉の話を聞いてない耳なんていらないでしょ?」


耳なんてフヨウラとか言うのかと思った。

ってそうか、

まだロマサガリメイクなんてないからネタ自体存在しないのか。

それにしても本当に仲いいな。

透くんも山本さんをからかって自爆が多い。

姉弟揃って他人をからかうのが好きなのかもしれない。


「ほら、兄ちゃん置いてけぼり」

「あ、ごめん、今度一緒にゲームしようね」

「三人でマリカしようぜ」

「拡張タップあるならな」

「持ってねぇーー!! 姉ちゃん買ってよ」

「仕方ないわね」


そこで「仕方ないわね」が出てくるのがお姉ちゃんぽい。

普段の面倒見の良さは弟相手にも発揮されてるな。


「じゃあ、そろそろ帰るよ、また今度」

「うん、また連絡するね」


玄関口でお別れの挨拶をする。

「また連絡するね」と言われたのが嬉しい。

楽しみにしていよう。


「兄ちゃんをお義兄さんと呼べる日を楽しみにしてるぜ」

「透!!」


去り際に言われたその言葉に返事が出来なかった。

(そんな日が来たらいいな)

いや自分から行動を起こさないと駄目か。

うん、文化祭終わった日に告白しよう。

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