それは突然の電話だった。
「明日のお祭り、一緒に行きたい」
明日は町のお祭りがある。
それなりに人が集まるイベントで屋台もたくさん出る。
屋台目当てで俺も行く予定だった。
(これってデートじゃないか!?)
内心ドキドキしながら「喜んで」と答えた。
「外で待ち合わせたくないから家に来てほしい」
電話を切った後は大慌てで準備を始める。
普段お祭りに行く格好ってTシャツとジーパンだけど、
さすがにそれはまずいだろう。
(でも一体何を着ればいいんだ……?)
しばらく悩んでいたもののまったく浮かばない。
結局、恥を忍んで弟にみつくろってもらった。
当日、予定時間より30分ほど早く到着した。
(どうしよう、早すぎるよな?)
どこかで時間を潰してくるかそれとも待っているか。
玄関の前でうろうろしているとお姉さんが出てきた。
「あれ? 早いね」
「あ、小夜さんいらっしゃいますか?」
「いるわよ、まだ準備できていないから中に入って待ってて」
そう言われて中に案内された。
外側と違って家の中は普通だった。
居間に通されてしばらく待つ。
(内装は純和風なのになんで外だけあんな感じ?)
気になるけど下手に聞いていいか分からない。
「はい、お茶でも飲んでね」
「あ、すみません、ありがとうございます」
「小夜が男の子連れてくるなんて何年振りかな」
「そうなんですか」
「仲良くしてるのかい?」
「仲良くさせてもらっています」
「そうかいそうかい」
なんか豪快な感じがするお姉さんだな。
未成年相手に酒飲もうとか言ってきそうだ(偏見)
それにしてもお姉さんの格好が無防備すぎる。
首元がだるだるで大きめのシャツを着ていて短パン?っぽいので、
まるでシャツしか着ていないように見える。
しかもちょっと屈むだけで胸が丸見えだ。
かなり大きい胸がしっかりブラに保持されている。
(触ってみt、いや駄目だ、大木さんのお姉さんだぞ)
「おっぱい見てるのはわかっているぞー」
「す、すみません」
「女は視線に敏感だから注意しないといけないぞー」
「はい!!」
「お、無駄に良い返事」
「目上に何か教えてもらったらきちんとお礼と返事すると教えられて育ちました」
「そうかいそうかい」
「母さん、髪形大丈夫かな?」
お姉さんと雑談していると大木さんがふすまを開けた。
薄いピンクの浴衣がよく似合っていて、
ポニーテールにしているのも最高だ。
「きゃっ!?」
俺の顔を見てとっさにしゃがんで顔と髪を隠した。
そしてそのままふすまの後ろに隠れてしまった。
(もうちょっと見たかったな)
「えっ、哲也……? なんで……?」
「あんたが遅いから中で待ってもらってるのよ」
「なんで来たこと教えてくれないのよ!?」
「面白そうだから」
「母さんのそういう所は許せない」
声しか聞こえないけどなんというか猫が毛を逆立てる感じ。
ものすごくかわいい。って母さん?
「母さんって?」
「あたし」
「はい?」
自分で指を指している。
え、本当に?
「初めまして、じゃないね。前にも会ったから」
「え、どこで会ったの?」
「あんたが家の前で大騒ぎするちょっと前に家に来たのよ」
「てっきりお姉さんかと……」
言われても母親とは思えない。
ギリギリ二十代前半で通じそうだ。
「あっはっは、お姉さんはいいねぇ」
「どうみても年増よ」
「いやいや、すごい綺麗だし」
大木さんをさらに色っぽくした感じだ。
寝癖で髪がはねてたりダボダボのシャツを着てたりするのにそう思うのは、
美人が自分にだけ普段をさらけ出しているように感じるからだろう。
「17の時に産んでるから若いだけよ」
ということは33~34歳。って17歳で産んでる!?
「え、ということは俺たちぐらいの年齢で?」
「もうとっくにパンパンしてたわよ」
「パンパンって……もう少し恥じらいとかないの?」
「仕事柄そんなもの持てないわよ」
あ、そういえば以前母親が風俗嬢とかって。
俺の視線に気づいたようでお母さんがこちらを向いた。
「軽蔑する?」
「え、いや、立派な仕事だと思います」
「お世辞は良いから」
「いやほんとに。モテない男にとって女神ですよ」
「んー?」
じっと顔を見られる。
(なんだろう? 何かヤバいことでも言った?)
普通に誉めてるだけだから怒らせることはないと思うけど。
「うん、嘘は言ってないね」
「母さんにそんなこと分かるの?」
「失礼ね、今まで男を何本見てきたと思ってるの?」
「そこは何人でしょう?」
「チンコは口程に物を言うのよ」
「あはは、面白いお母さんだね」
あっけらかんとエロいことを語られると、
興奮するより面白くなる。
「君は……うん、童貞だね」
「見て分かるんですか!?」
「態度とか匂いとかいろいろでね」
「まじすか……」
「なんか哲也の態度がいつもと違う」
「年上には態度変わるよ!?」
ちょっとむくれているのがかわいい。
家だとちょっと子どもっぽくなるのだろうか?
「なかなか良い子だね、小夜とまだなら筆下ろししてあげようか?」
「母さん!!」
「あっはっは、そろそろ行かないと遅くなるよ」
「もうっ」
本当に仲が良い親子だな。
さてお祭り会場までは歩きだ。
大木さんが浴衣だから歩くの遅めにしないとな。
「手、つなご?」
ちょっと言葉足らずにお願いしてきたのがかわいい。
……なんか今日はずっとかわいいしか思ってない気がする。
「喜んで」
普通に手をつなごうとしたけど、
大木さんが指を絡めてきた。
(これはいわゆる恋人つなぎでは!?)
初めて女性と手をつないだので緊張しすぎて前を向くしかない。
そのまま無言で歩く。
(何か話したいけど一体何を話したら……あっ)
「浴衣すごく似合ってる、ポニテもかわいい」
「ありがと」
危ない危ない、いろいろあったから感想伝え忘れてた。
こんなにかわいい恰好してもらったのに申し訳ない。
大木さんはちょっと顔を背けている。
「階段だから足元気をつけてね」
「うん」
浴衣って意外と足元見づらいらしいから、
俺が注意しておかないとな。
「おお、人がいっぱいだ」
「当たり前でしょ?」
階段を上り終えるとたくさんの人がいた。
さすがにお祭りの時は人が多い。
普段は寂れた神社で、参拝する人を見たことがないからなぁ。
「屋台回る?」
「うん」
「お、たこ焼き売ってるから買ってもいいかな?」
「私にも分けて」
「分かった」
屋台のたこ焼きって大したことないはずなのに、
なぜかおいしいんだよな。
やっぱり祭りの雰囲気とかがおいしくさせてるのだろうか?
「うん、おいしい」
「私も欲しい」
「はい、どうぞ」
「……食べさせて」
「え!?」
それってあーんってこと!?
え、恋人同士でするようなことしてもいいの?
おろおろしてると、ちょっと眉をひそめてへの字口になった。
(か、かわいい)
よし、やろう。
ただ人に食べさせるのって初めてだから緊張する。
なんとか熱くない程度に冷ましたと思うけど、
やけどとかしたら大変だ。
「えっと、はい、あーん」
とりあえずおいしそうな感じで食べてくれている。
(よかった、失敗しなかった)
「ん、もう一個」
意外と早く次の要求が来た。
俺の食べる分も追加で買った方がいいかな……?
・・・
たこ焼き以外もいろいろ買い食いをした。
大木さんが口を開けると食べ物を放り込む、
食べてる時の嬉しそうな表情を見ながらこちらも食べる。
また口を開けたら食べ物を放り込むの繰り返し。
(何か楽しくなってきた)
真紀が俺に食べさせてたのはこんな気分だったのかもしれない。
「ちょっと待っててね」
「あ、うん」
ひとしきり食べ終わった後、大木さんがそう言って離れていった。
(何かの用事……トイレかな?)
言い出しづらかったのかもしれない。
もっと気を使って行きやすい状況を作ればよかった。
ちょっと落ち込んでいた所に誰かから声をかけられた。
「オタクくん、チーッス」
振り向くと木島君が女の子連れでいた。
女の子は見たことがない相手だ。
「よう、木島君」
「川原さんやべーな、めっちゃパシらされてるわ」
「気に入られてるってことだよ」
「あっちのほうじゃないよな?」
「それもあると思うけど、断ればいいだけだよ」
「お前よく断れるな」
「そんなに怖い人じゃないし」
「すげーなお前……」
木島君が引いてるけど川原さんを誤解してると思う。
あの人は身内には優しいタイプだ。
ちゃんと断れば理解してくれる。
「ねえ、さっきから誰なの?」
「ああ、こいつはオタクくん」
「どうもオタクです、じゃねぇよ!?」
「だって名前知らん」
「そういえば……」
名乗った覚えがないな。
大抵道端で遭遇するだけだし。
「というか、彼女が変わtt、あっ」
「前のとは別れたぞ」
一瞬余計なことを言ってしまったと思ったけど、
特に問題なかったようだ。
「オタクくんは……一人か、真紀は?」
「いや、今日は……」
そうだった、木島君には真紀と付き合ってることになってたんだ。
大木さんと一緒に来ていることは言わない方がいいな。
「残念な奴だな、そこらでひっかけて来いよ」
「そんなこと出来るなら苦労しない」
「ねぇ、回らないの?」
「おお、そうだな、じゃあなオタクくん」
「じゃあね、また」
パッと来てパッと去っていったな。
あれだけ美人の彼女だったのに別れたのか。
モテる男ってのはすごいな。