3日後の早朝のこと。ゴルムは近隣の領主ファブリス男爵とクロード男爵にも声をかけ、助力を申し出た。その要請に即時受け入れた両貴族は兵を募ることになり、ボターナ平原にて集結することになった。夜のうちに早馬が走り、ファブリス男爵とクロード男爵の兵士は平原へと集結し終え、あとはゴルムの到着を待つだけとなっていた。
そして、3日目の正午過ぎにゴルムは手勢を引き連れて到着する。
3貴族は幕営地を見下ろすことができる丘の上で対面したあと、互いに握手し、頷き合うと兵士と兵種を確認を行う。
ゴルムは兵を集めるにあたり、自分の領地から連れてきた兵士と、近隣農村で募った民兵たちを合わせて、約2000人の兵を集めていた。一方、ファブリスとクロードも同じく、それぞれ2000ずつの兵を集めており、合わせて6000の兵が平原に集まることとなった。
騎兵2000 剣兵1000 槍兵1000 弓兵2000という構成で、数には入っていないが、上級冒険者の姿もあった。
金色の長髪をなびかせる美丈夫であり、背中に背負っている大きな大剣は細身の手足で振るうことができるのか怪しいが、彼女はそれを軽々と扱うことができていた。
彼女の名はカミラ。地方では有名な魔物ハンターとしても知られている。賞金稼ぎに参加したのだろう。
これほどまでに兵士が集まるとは思ってもいなかった親衛隊ヨルマンはある疑惑を胸に抱くことになる。
どの兵士を見ても装備は整っていて、緊急に召集したには農民の士気も高かった。傭兵や冒険者まで混じっている。事前に準備されていたかのようにも思えた。そこでヨルマンはゴルムに直接聞いてみることにした。
「ゴルム。この兵はどこから来た?」
「私の領地の領民でございます。今回の危機に際し、皆集まってくれたのです。はは。驚きましたかな?」
「ずいぶんと領民に慕われているようだな。それに兵が多すぎるのではないか」
「いえいえ。魔物だからと侮ってはなりません。徹底的に潰さなければ、またその数を増やすかもしれません」
ゴルムに同調するようにファブリスとクロードは声を上げる。
「ゴルムの言う通りでありまする。地域安定、二度とこの地に踏み入ることができないほどの恐怖を与えましよう」
クロードは腕を組んで、自慢の髭をいじりながら勇ましく言う。
「うむ! 徹底的に、そして、無慈悲に!! 魔物どもが二度とこの地を踏み入れないほどに!! わくわくしまするな!」
ファブリスは目を輝かせて拳を握った。
ヨルマンは違和感を感じた。確かに領民からの支持を集めるのは大切なことだが、それにしてもここまでの兵士が駆けつけてくるものだろうか? ゴルムは全身にフルプレートアーマーを装備し財力の高さを物語っている。しかも、でぱった腹に合わせるように作られていることからオーダーメイドであることがわかる。ヨルマンもそれなりの装備をしているのだが、ゴルムと比べると見劣りしてしまうほどだ。ファブリスもクロードも戦の準備は整いすぎている。まるで、事前に準備していたかのようにだ。
ただ、ヨルマンの仕事は帝国の監察官ではない。シルビアの親衛隊だ。彼女の願うことを実行し、完遂させる。余計なことは考えないことにした。ただ、彼女の小耳に入れる程度にはしておこうと思った。
ゴルムは馬に跨り、先頭を進むと勢いよく剣を振り上げた。
「聞け、全ての兵士たちよ! 我らが神聖なる地、我らを造りし創造の女神様を奉る神殿が悪しき魔物によって汚されている! これは断じて許されることではない!! 兵士諸君!!我らが女神ソラーナ様の為に戦おうではないか!」
ゴルムの呼びかけに応じ、兵士たちからは歓声が上がる。
「全軍出陣!!」
ゴルムの号令により角笛が鳴らされ、騎兵を先頭に進軍が始まった。
ボターナ平原を6000の軍勢が移動し、トゥーダム神殿へと向かっていくのであった。
♦♦♦♦♦
その頃、ロランたちはと言うとそんなことも知らず、襲撃してきた謎の兵士たちについて、話し合っていた。
場所はトゥーダム神殿の近くの幕営地の中、襲撃者が何者なのかについて、情報共有をしていたのだ。
襲ってきた3人の兵士はヨナによって瞬殺されたが、彼女が強すぎただけで、練度は高いと睨んでいた。しかも、狙いはロランではなく、レオを狙ったことも気になる。ロランの存在を相手は知らなかったのか、それともレオに秘めている何かを知っていたのか。ロランは横にいるレオをチラリと見た。オルデアンの魔女の生まれ変わりと言われているだけあって、レオの魔力量は常人では考えられないほど多い。本人はそのことに気がついてはいないが、オッドアイがその証拠だ。見つめているとレオが気が付いた。
「ん? どうしたの?」
ロランは首を横に振る。
レオのことをもっと知りたいと思う反面、怖くもあった。もしかしたら自分を超えるかもしれない。そう思うと手元に置かなければならないという使命感が生まれる。
ヨナが幕舎の垂れ幕をくぐり、入ってきた。
彼女は騎士の敬礼をすると報告を始める。
内容は斥候からの知らせだった。
近くのボターナ平原で6000人ほどの兵が集まり、こちらに向かってきているということだった。
それにロランは驚くことはなく頷く。