目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第49話 聖剣エクス争奪戦 その6

同時刻――――ロラン、レオ、ヨナの三人は、野営地にある天幕の外にいた。野営地から見える近くの丘の上へと視線を向ける。


戦いでは常に高所を取った者が有利に事を運ぶことができると言われている。


これは、兵士と兵士のぶつかり合う中で、誰が味方で、どこからやって来るのか。側面や背後に回り込まれていないかなど軍の指揮官は目前だけではなく、360度の視野で、物事を考えなければならない。


確実なる勝利を得たいのであれば、戦場の動きが見える高所を取ることが必須となる。


高所を陣取ることで、戦局の見極め、情報収集などが容易でき、戦局を常に見ることができ、また的確な指示が出せる。


ただ、逆を考えれば、誰もが高所を取りに行こうとする。そのため、どちらが先に高所を取るかの競い合いが発生する。


ロランはそのことを知っていて、あえて平地を選んだ。


そうすることで、帝国軍は必然的に一番高い丘の上に陣取るだろうとロランは考えたからだ。


そうなれば、馬防柵や骸骨騎士たちの配置など、有効な配備ができる。


並行してもう一つ別のパターンを考えていた。


帝国軍お得意な兵力に頼った正面攻撃だ。それは軍隊を指揮する指揮官としてはあまりにも愚行だといえるが、可能性は0ではない。


ロラン側は常に斥候を出して、帝国軍の動きを監視していたが、帝国軍側は一切、斥候を出していない。この時点でも、斥候らしき影一つない。


進軍する帝国軍側の兵力は斥候によればおおよそ5000~6000程度。一方ロラン側の骸骨騎士は300人と数十倍の兵力差がある。


魔物の集団だと侮っている可能性もあるが、仮にそうだとしても数的に不利な状況であるのには変わりはない。


一匹のカラスが向かってくるのが見えた。黒い羽を広げながら滑空し、ロランの肩に止まる。


「――――状況は?」


ロランが小声で訊くと、カラスは顔を伺うように見つめたあと何度か鳴き声を上げた。


「ふむ。なるほど」


カラスが言うにはどうやら、帝国軍は部隊を分けることもなく、真っすぐに丘へと向かっているようだった。労を労うように頭を撫でた。カラスは再び、空高く飛び、上空を何度か旋回したあと、丘のある方角へ消えていく。





♦♦♦♦♦





帝国軍が迫ってきているという報告が数刻前に入ったため、距離と時間の経過を考えるとそろそろ現れてもおかしくない頃合いだった。


準備を進めるロランの隣にはヨナ、そして、レオが待機していた。


レオは初めての戦いに緊張した面立ちで、不安そうにロランの傍に寄ってきた。ヨナはというと、うずうずしているうようで、冷静沈着な彼女は珍しく、落ち着きがなかった。


彼女は戦いに身を投じ、戦いに生きた人生だった。死への恐怖もなく、最期の時は、自らの力が発揮することもできず、無念のうちに果てた。その悔しさをここで晴らそうとしているのだろう。


「魔王様、そろそろ敵が来る頃合いかと思われます」

「そうだね」

「指揮をお執りになりますか?」


ヨナの言葉にロランは少し考え込む。しかし、すぐに首を横に振った。


「いや、君に任せるよ。僕は僕で勝手に戦うから」


すると、ヨナは嬉しそうな顔をして、恭しく頭を下げた。どうやら、任せてもらえたことが嬉しかったらしい。


「では、さっそく、前線にて指揮と執ってまいります!」


踵を返し、近くで待たせていたゾンビとなった馬に跨がり、鞭を打ち、馬腹を蹴る。


馬で骸骨騎士たちの前へと躍り出るヨナの姿を見届けたあと、ロランは丘の上へと目を細めた。


すると同時に砂埃が舞い上がり、馬蹄の音と喚声の音が響く。それにロランの護衛として付き添う骸骨騎士たちが剣と盾を構えて、襲撃に備えた。


黒い影が雪崩の如く、自分たちの方へと迫って来る。その数は骸骨騎士たちよりも圧倒的な数だ。


しかし、骸骨と成り果てた騎士たちに怖気づく様子はまったくない。微動だにせず、後方に控える主を守るため、剣と盾を握りしめ、立ち塞がった。


ロランは正面で横一面に広がっていく帝国軍の騎兵に対して、少し驚いていた。


「まさか、真正面から騎兵突撃とは……」


ここまで相手側の指揮官が愚かだったとは思わななかった。


相手がどういった戦術を見せて来るのかと思って、思考をめぐらせ、二手三手と先読みしていたのだが、その読みは全て外れることとなる。拍子抜けしたとはこのことか。一番、単純で、一番、愚策な行動に出てきた。考えすぎた自分が馬鹿らしくなる。


(――――まぁ、僕たちをただの魔物の集団だと思っての行動なんだろうけど)


そんな時、レオが突然、寒さに凍えるかのように体を震わせた。肌寒い季節ではあるものの、そんなにいきなり寒さを感じるわけでもない。


「ロラン、なんだか、気持ちが悪い。誰かに見られている感じがする」


そう言われてみると確かにロランも見透かされているような感覚を覚えた。


「ふむ。確かに」


気配がする方角へと視線を向ける。丘の上からこちらを見下ろすように人影が複数あった。数は数十人以上ほどか。帝国軍は丘へと下り、攻撃を仕掛けてきているようなので、別の部隊か、もしくは別行動を取っているのだろうと考えた。


そして、丘から動こうとはしない。


「確かめてみるか」


ロランはそうつぶやくとおもむろに指を鳴らし、口ずさむ。


『―――マジック・リフレクション―――』


ロランの言葉に反応するように、彼の目の前に薄い幕のようなものが張られる。これは相手側からの魔法攻撃などを跳ね返す魔法の一つで、障壁にぶつかった瞬間、弾き返すことができる。すると薄い障壁に目に見えない何かがぶつかったようで、弾け飛ぶ音がした。それを見た瞬間、レオは音に驚き、ロランは苦笑いした。


「あーやっぱり、探知系の魔法だったね。いやらしいな。こそこそと何をしているんだか」

「どういうこと?」


レオが不思議そうに尋ねると、ロランはため息混じりに答えた。


「おそらく、僕たちが何者なのか、弱点はなにか、それを探っていたんだろうね。まぁ、弾き返したけど。それにしても、相手には魔法使いがいるいたいだね。ちょっと厄介かも」


相手の目的がなんであれ、こちらの情報を調べようとした。探りを入れて来るあたり、ロランは帝国軍側が軍師などを雇っているのではないかと考えていた。だとすると帝国軍が突撃を仕掛けて来ることにもなにか裏があるのかもしれない。そう考えると出方次第では、厄介なことになる。


ロランは手の内を知られないためにも、このままヨナに指揮を任せ、自分は別行動を取ることにした。今は下手に動くことはせず、相手の出方を伺う。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?