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第50話 聖剣エクス争奪戦 その7

帝国軍の騎兵が目前に迫って来るの中、ヨナは心を躍らせていた。


この瞬間をどれほど待ち望んでいたのか。数十年の時を経て、再び主人のために戦える。それだけで、満足してしまうほどに高揚感を得ていた。あの最後の日の光景が重なり合う。


周囲を包囲され、多勢に無勢。必死に戦い、身体中を矢で貫かれようとも、主人のために剣を振るい、そして生き抜いた。帰還する時、ヨナが目にしたのは祖国の街が炎に包まれ、城は崩れ落ち、警鐘が鳴り続け、悲鳴と守るべき民の死体の山だった。


死屍累々。全てを失った彼女は事切れたかのようにその場で倒れ、死んだ。


目を覚ませば、天国にも地獄にも行けない彷徨う身体。アンデットと化した自分はもはや誇りも名誉も失われて、ただただ悔しさだけが残った。


そんなことを思い出していたヨナは気を取り直し、馬首を返す。剣を勢いよく引き抜くと、後方で待機している骸骨騎士たちに向かって叫んだ。


「皆の者!! いよいよだ!! いよいよ、我らを導いてくださった魔王様に力を見せるとき! この場に集う骸骨たちよ!  これより先に進む者はすべてを撫で斬りにせよ!!」


ヨナの声に応えるように、骸骨たちは一斉に盾に剣を叩きつけた。金属音が打ち鳴らされ、不気味さを増幅させる。声を発することができない彼らにとって、それが雄叫びとなる。


そして、髑髏の眼窩から真っ赤な炎のように赤く光らせ、剣を構えた。


骸骨となった亡国の騎士たちはそれぞれの思いを抱きながら、帝国軍の騎兵へと備えた。


そして、ついに両軍が激突した――。


先頭を進む帝国軍の騎兵が骸骨騎士たちに衝突した。彼らはそのまま、一気に踏破し、幕営地まで蹂躙するつもりだったのだが、ここで、予想もしていない事態が起きる。


骸骨騎士たちが持つ大きな盾によって、その突進が阻まれてしまったのだ。帝国兵たちは驚きつつも、次々と槍を突き出しては、盾ごと押し潰そうと試みる。だが、どれだけ攻撃しようとも、盾を貫くことができずにいた。


「な、なんだこいつら?!!」

「突破できない!!!?」

「だめだ、後退だ!! 歯が立たない!!」


帝国兵の誰かが叫んだ。その言葉通り、彼らは目の前にいる者たちが何なのか分からず困惑していた。


それもそうだろう。彼らの常識では考えられないことだからだ。騎兵は一塊となって衝突することで、衝突力によって、敵の隊列を破り、突破口を開くことができる。戦いにおいては、この一撃によって、勝敗が決まることもある。


しかし、眼前に盾を構える骸骨騎士たちは騎兵の突撃を正面から受け止めて、まるで、防波堤の如く、弾き返してきたのである。馬はそれに驚き、けたたましいいななき声をあげ、前足を上げ、暴れる。それによって、落馬する者もいれば、後方からきた別の騎兵に踏みつぶされる者もいた。帝国の騎兵たちは混乱状態に陥れられる。


すると、防御態勢を取らせていたヨナが頃合いだと見て、剣先を相手に突きつけ、叫ぶ。


「10歩前進ッ!!! 斬り殺せ!!」


骸骨騎士たちその号令に一斉に足を踏み鳴らし、剣を構えて、一歩、一歩ゆっくりと前進してくる。一糸乱れぬ動きに恐れをなした帝国軍の騎兵たちは逃げようとするも、後ろからきた味方によって退路を阻まれ、さらには間隔で置かれている馬防柵によって、その間を抜けてきたことで、左右を阻まれ、圧縮状態になっているため、逃げることもできない。


「ひぃいい?!!」


骸骨騎士の目が真っ赤に光、剣を振り上げ、そのまま振り下ろすと、帝国兵は馬もろとも両断されてしまった。血飛沫を上げながら、馬上から転げ落ちる。前衛の騎兵たちはもはやどうすることもできず、一方的に蹂躙されていく。それはまさに一方的な虐殺だった。



♦♦♦♦♦


「―――攻撃が阻まれた、だと??!!」


後方で待機していたゴルムは驚き声を張り上げ、先ほどまで余裕の表情を見せていた男の顔に動揺が走る。彼の想像していたのは、騎兵隊が魔物の集団の隊列を踏み破り、敵陣の奥深くまで侵入し、混乱したところをゴルムたちが率いる歩兵が雪崩れ込むといったものであった。しかし、現実は全く違う。魔物たちは騎兵の攻撃を防ぎきったのだ。


しかも、ただ防いだだけではない。騎兵の突撃を受け止めた骸骨騎士たちは騎兵を次々に殺して、その死体を投げ捨てているではないか。左右にいるクロードとファブリスも自分の兵士がやられていることに焦りの明らかに動揺していた。ゴルムへとどうしたらいいのか、と助けを求める視線を向けてきた。ゴルムは急いで、命令を出した。


「前進!! 我に続け!!」


ゴルムはそう叫ぶと同時に剣を振り上げて、兵士を率いて走り出す。兵士たちは一瞬戸惑うような表情を見せたが、すぐにゴルムの後を追ってきた。それを見たクロードとファブリスは慌てて馬を走らせてゴルムたちと合流する。そして、三人は騎兵と骸骨騎士たちが戦う正面ではなく、側面へと回り込み、攻撃を仕掛けようとした。


骸骨騎士たちは反撃してきた帝国軍騎兵と混戦状態になり、身動きができないでいた。それもそうだ。騎兵の数は2000騎。それに対して骸骨騎士の数は300体にも満たない数である。混戦となれば、さすがの骸骨騎士たちでも対処がしきれない。複数人を相手に戦う羽目になる。それでも形勢が変わることはなかった。大きな剣を振り回し、帝国兵を両断していく。そこにはヨナの姿もあった。彼女は嬉しそうな表情を浮かべ、取り囲んでくる帝国兵を舞踊のような動きで、斬り刻んでいく。彼女の周りには血の海ができていた。


「これこそ、真の戦い!! これこそ私が求めた戦いなのだ!!」


彼女は心の底から歓喜の声を上げながら、剣を振るい続けた。


騎兵の中に変わった服装をした兵士がいた。その兵士がヨナの姿を捉えると叫んだ。


「おのれ、アンデッドめが!! 我が神聖魔法を食らうがいい!!」


男は手に持つ杖を掲げると、呪文を唱えた。この兵士は従軍神父であり、アンデッドなどに対抗するための神聖属性の魔法を扱うことができる。ヨナたちにとっては天敵ともいえる。


『―――ホーリー・ボール――』


すると、男の周囲に白い光の玉が現れたかと思うと、一斉にヨナ目掛けて飛んでいった。これはアンデッドに対して、有効な魔法の一種で、魔法耐性があるアンデッドにもダメージを与えることができる。


ヨナはその攻撃に気が付き、剣を一閃させた。光の球体は真っ二つに切り払われ、消失した。


「ば、ばかな?!」


まさか、自分が放った魔法が無効化されると思っていなかった神父は驚愕する。そんな神父に向けて、ヨナは笑みを浮かべると地面を強く蹴って、一気に距離を詰める。


神父は自分の元に迫ってくる女騎士を見て、恐怖を覚えた。慌てて次の神聖魔法を放とう杖を振るった。

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