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第51話 秘めた力

『―――ホーリー・ランス――』


杖の先端から光輝く槍が現れ、一直線に伸びていく。それはまるで光の速さのごとく、ヨナの鼻先へと飛んで行った。刹那、彼女は身体を傾け、それを紙一重で避けてみせる。


「ばかぁなぁああ???!」


驚き、後退りするところをヨナは懐へと潜り込む。視線を上げて、右脇腹をとらえたヨナの目がギラリと光った。


「ひぃいい??!!」


神父は殺されるとこわばった顔で、神聖魔法を発動させる。


薄い幕で覆われるも、ヨナはお構いなしに左側から剣を薙ぎ払った。


刃先が障壁に触れた瞬間、火花が散り、甲高い音が鳴り響く。


ガシャンッ!! 音を立てながら砕け散る障壁の破片が宙を舞う。その破片が頬に当たり、神父の顔が恐怖に染まっていく。


ヨナは連続して斬撃を繰り出す。守りに入っている神父は防戦一方だ。


それでも何とか新しく神聖魔法を唱え、障壁を強化していく。だが、そんなものは意味がなかった。魔力はいずれ尽きてしまうものだからだ。


ヨナは相手の動きを見ながら、隙あらば剣を振るう。そして、薄くなっているところを見つけ、ヨナは剣を振り下ろした。パキン……! ガラス細工のように呆気なく砕ける障壁を見て、神父は信じられないといった表情を浮かべ、その衝撃で、後ろへと転げそうになる。そこをヨナは見逃さなかった。すかさず首元に切っ先を突きつける。


喉仏を貫き、赤い血が滴り落ちるのを見て、神父は目を丸くした。ヨナは神父を蹴りつけ、その反動で、剣を引き抜く。地面に背中から倒れた神父は自分の血でおぼれ、息苦しそうにのたうち回っていた。そこにヨナは剣を構えた。


慌てて、手を出して、それを命乞いをしたが、無慈悲に剣を振り下ろす。


肉と骨が切断される鈍い音がし、神父は絶命した。


そのとき噴き出した血がヨナの顔に掛かるもその顔には喜びの色があった。


その一部始終を見ていた騎兵たちが頼みの綱でもあった神父が殺されたことで、どよめき声をあげる。魔法が物理にまけたのだ。動揺しているところを見逃さないぞ、と骸骨騎士たちが殺到し、彼らをなぶり殺しにしていく。兵士たちの悲鳴と断末魔を耳にしつつ、ヨナは剣についた血を払い落とした。


ヨナの周囲には大量の帝国軍の兵士の死体が転がっていた。その中で、彼女の部下である骸骨騎士が倒れていた。ヨナは歩み寄り、片膝をつく。


骸骨騎士は不死身と言われている。彼らの原動力は『悔い』と『未練』だ。それが果たせないがために魂が朽ち果てた体に留まり、彷徨うことになる。


しかし、いくら不死身だとは言えば、骨が砕けてしまえば、動くことができない。右腕、それに左足を斬り落とされたことで彼は満足に戦うことができなくなっていたのだ。


回復魔法を使おうとヨナが詠唱しようとしたとき、それを骸骨騎士が首を左右に振った。


「いいのか?」

「吾輩はもう十分である」


よく見ると身体の一部が崩れ落ち、消えかかっていた。


この骸骨騎士はその『悔い』と『未練』を彼なりに晴らすことができたのだろう。表情もどこか嬉しそうな表情をしている。


「そうか」


ヨナは瞼を深く閉じ、真剣な眼差しを向けた。


「―――アルベスト王国の騎士ヨーレンよ。魔王様への忠義、この私がしかと見届けた。もう安らかに眠るといい」


彼女の言葉が終わると倒れ伏したヨーレンと呼ばれた骸骨騎士が最後の力を振り絞り、言葉を発する。


「あぁ……我、魔王様への忠義を全うせり。ヨナ様。お先に失礼いたしますぞ……」


言い終えると彼の姿は完全に塵となって消えた。残されたのは彼が身に着けていた鎧のみ。それすらもやがて砂のように崩れ落ちた。


ヨナは立ち上がり、立ち上がると空を見上げる。そこには青空が広がっていた。雲一つない快晴だった。


「私はまだやることがある。こんなんでは未練は晴らせない。私は魔王様と共に戦い続ける!」


ヨナは自分に言い聞かせるように叫んだ。そして、大きく息を吸い込み、吐く。


彼女は振り向き、戦場を見渡す。すると別方面から帝国軍の歩兵部隊がこちらに向かってきていることに気づく。騎兵を助けようと動いたのだろう。


ヨナは笑みを浮かべる。


「――――騎士たちよ!!私に続けッ!!」


叫ぶと同時に走り出す。その後ろ姿を見て、骸骨騎士たちも呼応するように各々の武器を掲げ、彼女の後を追った―――




♦♦♦♦♦





鬼神の如く戦うヨナの姿にロランは感嘆の声を漏らす。


「あれがヨナ。剣聖と呼ばれた彼女の戦い方か……」


かつて、最強と言われた剣聖。その実力の一端を見せつけられた気がした。騎兵の突撃を軽々と受け流し、数百の骸骨騎士だけで、2000もの騎兵を翻弄している。乱戦となれば、歩兵が圧倒的に有利になることも彼女は知っていたようだ。足を止められた騎馬は足が遅く馬防柵で動きを制限されている。それを骸骨騎士たちが次々と仕留めていく。


だが、それをただ見ているわけにはいかない主力の帝国軍が動きを見せた。歩兵を側面へと向かわせて、騎兵を助けようとしている。ちなみに全兵力は騎兵と戦っているため、動けるのはロランとレオだけである。2人のうち1人はただの人間だ。いまのところは。

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