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第52話 秘めたる力 その3

――――カミラは魔物ハンターとして、数多くの魔物を狩ってきた。これまでに対峙してきた魔物の強さは持っている魔力によって、ある程度見分けることができる。魔法を使えるわけではないが、必要とも思わなかった。なぜなら生まれながらにして、怪力という才能を持っていたからだ。背中に背負った大剣で、どんな相手でも、叩き潰すだけで解決する。今回もそうだ。どんな相手だろうが、彼女には問題はない。いつものように大剣を片手で持ち、平原を駆ける。


真正面から向かってくるロランを見据え、目を細める。すぐにただの人間ではことがわかった。魔力を隠そうとしているようだが、カミラには意味がなかった。近づいていくにつれて、全身に鳥肌が立つ。本能が対峙する相手が危険だと知らせているのだ。だが、ここまで来たら引き返すことはできない。


(何者だ……こいつは……?)


疑問を抱きながらも、足を止めるという選択肢はなかった。大剣を振り上げ、勢いよく、頭上へと振り下ろす。火花が散った。耳障りな金属音と共に、刃と刃がぶつかり合う。衝撃が腕まで伝わってきた。ロランの瞳に恐怖の色はなく、ただ冷静に状況を把握しようとしている。驚かされたのが、片手で受け止めたことだ。


「やるな、お前……」


カミラはそう言って、苦笑いする。大体の魔物はこの一撃で、叩き潰してきた。それを軽々と受け止めるとは思ってもいなかった。


「君こそ、なかなか強いね」


ロランは余裕すら感じさせる笑みを浮かべて言った。その態度が気に入らない。舌打ちして、さらに押し込もうとするがびくともしない。むしろじりじりと押し返されている気がした。


そんな時、背後から叫び声がした。


「カミラ!! 離れろ!!」


振り返れば同じ冒険者仲間のレイブンが右手に炎を帯びて、こちらに向かってきていた。カミラは後ろへとバックステップを踏んだ瞬間、レイブンは拳を振り下ろす。それと同時に炎の塊がロランへと放たれた。直撃すれば無事では済まないほどの威力だ。ロランは避けることなく、ぶつかる。炎が弾け飛び、当たりの下草が燃え上がった。オレンジ色に光ったあと、徐々に消えていく。


「やったか!」


不意打ちともいえる攻撃だった。卑怯と言われても仕方がないが、魔物に対してはこれが最も有効な手段である。倒せていないとしても、ダメージを与えていればいいのだが……。煙が立ち込めていて見えない。次第に薄れていき、視界が鮮明になる。そこに見えた光景を見て、レイブンは目を見開いた。


そこには無傷のまま立っているロランの姿があった。服の一部が焦げているが、それだけで、手でパタパタと払う。


「おいおい、嘘だろ? 俺の全力の魔法を食らって無傷とはなぁ……」


信じられないといった表情を浮かべる。その横にカミラが立つと視線をロランにそらさずに言う。


「……レイブン。油断するな。こいつの魔力量は尋常じゃない」

「上位種ってやつか」

「おそらく」

「――――であれば、このわしの攻撃ならどうじゃ!」


いつの間にかロランの背後に回っていた神聖魔法使いドルファスは杖を振るう。詠唱し始めると同時に、ロランの足ともに魔方陣が浮かび上がり、光の壁がロランを包み込んでいく。


『―――ホーリー・ピュリフィケイション―――』


聖なる光が辺り一面に降り注いだ。それは邪悪な存在に対して効果のある魔法で、魔族でもあるロランにとっては厄介な魔法だった。まともに食らえばダメージを受ける。しかし、ドルファスが放ったのはホーリー・ウォールと光の壁と併用させて発動させているため、逃げ場などなかった。ロランの身体から焼けるような音がし白い煙が上がる。


苦しむような声を上げ、ロランは地面に蹲った。


「ダッハハハ―――ッ!!! どうだぁ!! 我が神聖魔法の威力は!!」


ドルファスは歳と風貌には似合わないほどの高笑いしながらさらに魔力を込めていく。息苦しそうな声を漏らすロランの様子にレイブンも先ほどとは違って、効果が出ていると確信し思わず、笑みが浮かんだ。


カミラはというと少年を苦しめている姿は正直、良い気はしなかった。魔物とは言え、人と区別がつかない姿がその感情を助長していた。


だが、相手は魔物だ。魔物ハンターとしては時に冷酷にならなければならない。そう自分に言い聞かせがら、その様子を見届けることにした。しかし、どこか違和感を感じていた。


(―――なにか、おかしい……)


カミラは全力ではなかったが、自分の攻撃を防ぎ、レイブンの炎の攻撃も効果がなかった。それが、今度は急に効くのかどうか。疑問に思った時にはすでに遅かった。


ロランの足元にあった影が異様に大きくなっていき、地面をはいずるように移動する。そして、ドルファスの背後へと回り込んだ。


当然、夢中になっている彼は気づくことはない。


「ドルファス!! 後ろだ!!」


叫ぶと同時、ドルファスの背後から黒い腕が伸びてきて、首を掴んだ。そのまま持ち上げると首を絞め始める。ミシミシと音を立て、ドルファスが悲鳴をあげた。


「ぐぉおああああ」


手から杖が滑り落ち、ロランにかけていた神聖魔法が解除される。解放されたロランはゆっくりと立ち上がる。先ほどまで苦しんでいたとは思えないほどに平然としていた。

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