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第53話 秘めたる力 その4

「ちょっと演技してみたんだけど、どうかな? 騙された?」


ニヤニヤと嬉しそうに笑みを浮かべるロランは掴み上げたドルファスへと感想を求めた。しかし、首を絞められたドルファスは苦悶の表情を浮かべ、もがくように足をばたつかせていて、答えるほどの余裕はなかった。


「うぐぅ」


苦しそうに喉を鳴らす。


少し力を入れれば、首をへし折ることはできるのだが、それではなんとも芸がないな、と思った。


殺すことに罪悪感はないが、むやみに殺すことも好きではない。とはいえ、このまま手を離すとまた攻撃してくるかもしれない、どうするかを迷っているとき、隙を見たカミラが動いた。


大剣を振り上げ、叫んだ。


『―――スラッシュ・ブレイド―――』


大剣を振り下ろしたと同時に剣刃から斬撃から生じる風が刃のような形になって放たれた。


斬撃はロランの真横を横切り、ドルファスの首を掴む黒い手へと直撃した。衝撃により地面から這い出ていた黒い手は真っ二つに両断され、そのまま飛散するとドルファスはようやく解放された。


その場に落ちたあと、絞められていた首を手で押さえながらせき込むドルファスは大きく息を吸ったあと、涙目になりながらロランへと視線を向けた。カミラとレイブンも同じくロランを見据えた。


神聖魔法をまともに攻撃を食らっているはずなのに、傷一つついていない。さらには身動きを封じるために光の壁の中に閉じ込めたにもかかわらず、闇系の魔法を使って、反撃してきたのだ。三人とも驚きを隠すことができずにいた。


「貴様は一体、何者なんだ……?」


ドルファスの問いにロランはんーと声を出しながら考える素振りを見せる。


「君たちに僕の正体を教えたら、厄介なことになりそうだから、秘密にしておくよ」


そう言うとロランは笑みを浮かべる。カミラは警戒するように大剣を構え、視線を横にいるレイブンへと向ける。


レイブンもカミラを真似るように剣を構えていた。左手は炎系の魔法を詠唱し始めている。


左手から生成された炎は徐々に大きくなっていき、やがて野球ボールほどの大きさまで膨れ上がると、レイブンが頷く。


それを合図にカミラは一気に踏み込み、レイブンは左手で生成した炎の球体をロランへ向けて投げつけた。


『―――ファイヤー・ボール・ブレイク―――』


投げつけられた火球に対してロランは右手に持つ聖剣エクスで振り払い、打ち消そうとする。


だが、火球に触れた瞬間、爆発音が鳴り響き、視界一面に広がる煙に包まれてしまう。


視界を奪われたロランは目を細め、煙に目を凝らすと中からカミラが飛び出してきた。大剣を頭上から勢いよく叩きつけようとする。


「おっと」


そういうとロランは剣を盾代わりにして大剣を受け止めた。鈍い金属音が鳴る。渾身の一撃だったカミラはそれを受け止めたロランに驚きを隠せなかった。


魔物とはいえ、少年の見た目から自分の攻撃をまともに受け止めることができるとは思ってもみなかった。


ましては視界を奪ってからの攻撃であるにも関わらず、難なく受け止められてしまったことに動揺を隠しきれなかった。


(――――なんなんだ、こいつは……)


眉間にシワを寄せたとき、視線はロランが持っている剣へと向けられた。


「その剣……まさか?」

「この剣、知っているのか?」


問いかけてくるロランに対し、カミラは自分の目を疑った。


記憶が正しければ、白の勇者が使っていた伝説の聖剣と同じ形をしていたからだ。


「聖剣エクス、なぜお前のような魔物が持っているんだ? それは勇者のみに使用することが許されたものだろう!?」


驚くカミラとは対照的にロランは興味なさげにため息をつく。


そして、聖剣エクスを軽く振るうと、カミラの大剣を弾いてみせた。


カミラも後ろへバックステップを踏み、距離を取る。


「まぁ、何て言えばいいのか、僕は勇者だからね」


冗談交じりの言葉にカミラは一瞬呆気に取られたあと、怒りに満ちた表情を浮かべる。


「ふざけるな! 魔物が勇者だと!?」


怒号を上げる。うるさいなぁ、という顔で耳を押さえた。しかし、すぐに笑みを浮かべた。


先ほどのお返しとばかりに今度はじぶんから攻撃を仕掛けることにしたロランは足に力を入れ、地面を蹴って距離を詰める。


ロランの素早い動きに驚いたカミラは咄嗟の判断で大剣を構え、防御の姿勢を取った。ロランはお構いなしにと大剣の刃に向かって、聖剣エクスを叩きつけた。


凄まじい衝撃を受けたカミラは全身に痛みが走る。地面に足が沈み込む。


それでも負けられない、と大剣を握り締め、歯を食いしばって見せた。


「へぇ~僕の一撃を倒れることなく耐えるなんてすごいね!」


感心するように呟いたあと、さらに力を込め、押し込もうとする。


必死に耐えていたカミラだったが、徐々に膝を折り始め、ついに地面へと片足をついた。それを見たロランはニヤリと笑みを浮かべる。


「ほらーほらー力負けしてるよー」

「くそったれのバケモノめ」


悔しさから唇を噛み締め、毒づいた。


そんなカミラの姿を見て、ロランはさらに嬉しそうにする。


だが、次の瞬間にはロランの顔は苦痛に歪んでいた。


レイブンがロランの横腹に向けて放った炎系魔法が直撃させていたからだった。

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