「今のはちょっと痛かったかもね」
そういうとロランはレイブンに殴られた脇腹へ視線を落とす。
殴られた箇所からはシューと音を立てて、白い煙が上がっていた。
服が焼け焦げているのがわかる。
焦げた臭いがしていたが、服の下の白い肌は火傷一つ負っていなかった。
それを見たレイブンは思わず、苦笑いになってしまう。
「これ、気に入っていたんだけどな」
残念そうな顔で焼けた服の裾を掴み、呟いたあと切り替えるように言う。
「まっ、また買えばいっか」
カミラの眉がピクリと跳ねた。
必死になって戦っているカミラにしたら、その余裕のある行動に腹立たしく思えた。
怒りの限り、カミラが大剣を横薙ぎに振るう。
大気を殴りつけるかのような衝撃波を発生させた。
その攻撃は先ほどまでの攻撃とは比べ物にならないくらい速く、そして、重い一撃であった。
ロランはそれを剣で受け止めてみせる。
また受け止められた、と驚きつつも、ならば、とカミラは連続攻撃を繰り出す。
しかし、風を切る音が響くだけで、ロランにダメージを与えることはできなかった。
そこにレイブン、それにドルファスも加わり、三人同時の攻撃が始まる。
さすがのロランも防御に徹するしかないようで、攻撃する隙を見いだせずにいるようだ。
ロランには傷どころか汗一つかいていておらず、攻撃を立て続けに繰り出している三人の疲労の方が大きく、肩で息をしている状態だ。
後続から続々と冒険者たちが到着し、ロランに対して攻撃を仕掛けてきた。
ロランは冒険者たちのさまざまな武器、魔法による猛攻を捌きながら、後ろにいるレオのところへは行かせまいとしていた。
(――――ちょっとまずいかも……)
流石のロランも1対100という戦いは初めてであり、いくら実力差があるとはいえ、無傷ではいられない状況になっていた。
頬に赤い線が走り血が流れ始める。
ただの兵士ならこうも苦戦することはないが、カミラたちは勇者に匹敵する力を保有していた。
攻撃を受けることはないが攻撃が当たることもない。
ロランの攻撃を紙一重で避けていくのだ。
引き際も、状況をよく把握しているようで、攻撃しようとすると死角から攻撃を繰り出して来るのだ。
さらにいやらしいことに他の冒険者たちを盾に使っているようだった。
さっさと終わらせてしまいたいという気持ちもあったロランだったが、誰かに観察されているような気がして、手の内を明かす魔法や攻撃をするのはまずいと判断していた。
ここは魔物が使う低級魔法、それに聖剣エクスを使うしか方法がなかった。
時間を稼ぐだけ稼いで、ヨナたちが援軍に来るのを待つと選択をする。
ふと気がつくと四方から同時に冒険者たちが仕掛けてきた。
弓矢を持った冒険者が連続で矢を放つ。その全てが急所を狙ってきたもので、ロランは剣で叩き落す。
背後からいきなり、大男が羽交い絞めにしてきた。身動きが取れなくなったところに短剣を構えた小柄の冒険者が迫ってくる。
ロランは指を鳴らし、魔法を使う。
『―――シャドウ・スピア―――』
短剣を構えて、刺突しとうとした少年冒険者の足元から黒い槍のような物が無数に現れ、全身を貫く。
貫かれた冒険者は一瞬にして絶命したのかピクリとも動かなくなる。
「まずは1人!」
「くそったれがッ」
羽交い絞めにしてきた大男が後ろから両手で首を絞めつけていく。
力自慢の男の全力での絞首は、ロランの首に大きな圧力を加えていたが、それでもロランの顔色は変わらなかった。
「痛いじゃないか」
そういうと大男の腕を掴み、握りしめていく。
ミシミシと音を立てて、筋肉が悲鳴を上げる。
男は苦痛に耐えきれず手を離してしまった。そのまま両腕を握りつぶす。
絶叫を上げながら地面を転げまわる大男を見てロランは右手に持つ聖剣を振り下ろし、黙らせた。
「2人目。残りあと98人」
ロランに勝てないと思ったのか、冒険者の一部が隙を見て、ロランの真横をすり抜けようとした。
「僕の後ろには行かせないよ」
そういうと左手を突き出し、魔法を唱える。
『―――シャドウ・ボール―――』
ロランの手から出た黒い球体が、目の前にいた二人の冒険者を呑み込み消滅させる。
悲鳴を上げる暇も与えなかった。
しかし、数が多いだけあって、何人かが突破に成功してしまう。
追いかけようとしたところをカミラが前に立ちはだかり、それを阻止する。
「貴様の相手はこの私だ」
「ちょっとそこを退けてもらえるかな?」
ロランの言葉にカミラは耳を傾けず、大剣を静かに構えた。
ロランはカミラの背後で遠ざかっていく冒険者たちの背中を見ながら、小さく舌打ちをする。
仕方なくロランも剣を構える。
(―――まぁ、最強の護衛を10体もつけているからあっちは大丈夫だろうけど……)
ロランはチラッとレオの方を見る。
10体のレバナントが剣を構え、レオを守ろと円陣を組んでいるのが見えた。
そのうち、5体が冒険者たちへ襲いかかり、残り5体はレオの護衛に付いているようだ。
その光景を見たロランは頼もしい限りだと心の中でつぶやきつつ、目の前にいる厄介な冒険者たちへと意識を集中させることにした。