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第55話 秘めたる力 その6

レオは離れた場所で戦うロランの後ろ姿をただただ見守ることしかできなかった。


一緒になって戦いたい。彼の力になりたい。そんな気持ちがあったが、実際は何もできないことをよく知っている。自分が足手まといになる自信しかなかった。


今、ロランの側に行き、飛び込んだとしても、冒険者たちの標的になるだけ。


ロランは、間違いなく、レオを守ろうとするだろう。


守ってもらえると当たり前に思ってはいない。だけれども守られることが必然的になってしまっている。


それはなぜかというと弱い。圧倒的に弱すぎるからだ。


だだの人間だ。ちっぽけな小娘だ。


仕方がないといえば仕方がないかもしれない。


これまで戦う必要性がなかったのだから。


訓練された兵士……ましてや、魔法を使える冒険者たちの前に踊り出て、自分に何ができるのか。


剣もまともに持ったことがない小娘が相手になるはずがない。


だから、こうして、安全な場所から応援することしか、自分にできることはないことを理解していた。


祈るように心の中で応援の言葉を呟く。


ロランは今、100人の冒険者に取り囲まれ、四方から攻撃に晒され続けていた。


護衛のヨナたち骸骨騎士たちも帝国軍の主力と本格的な乱戦状態となり、ロランを助けには向かえそうにもなかった。


ここからではロランの耳には届くはずもないが、それでも負けるな、と小さく声を漏らしながら応援し続けた。


そんな時、ロランの横を数名の冒険者たちがすり抜け、自分の方へと向かっていているのが見えた。


ロランもそれに気が付き、阻止しようとするも、一番最初に刃を交えた大剣を持っている女冒険者に邪魔されてしまう。そのまま通り過ぎていく冒険者たち。


その様子を見ていたロランが呼び出したレバナントのユドラたちが剣を鞘から一斉に抜き始め、レオの前に立つと剣を構えた。


レオも護身用にと渡されてた剣の柄に手を伸ばしたが、ユドラに制止される。


「レオ様、ここは我が後ろへ」


その言葉を聞いて、レオは悔しそうな表情を浮かべながらも言われた通りにユドラの後ろに下がる。


次の瞬間、何かが放たれる音がした。


矢羽根の音がし、ギラリと太陽の光りに反射しているのが見えた。


矢が放たれたことに気が付いたユドラは剣を振り払う。


鉄の弾ける音と火花が散ったあと、軌道をそらされた矢は勢いを失い、地面に転がり落ちた。


矢が飛んでくるのはわかった。しかし、それを弾き落とすことなんて、自分には到底できない芸当だった。


また、放たれる音がする。


今度は複数の矢が自分へと向かってくるのが見えた。


レオはユドラの背中に隠れることしかできない。ユドラもそれを知って、剣を静かに構えると次々に矢を弾き落としていった。


矢の攻撃が止んだタイミングで、ユドラが矢を放ってきている冒険者たちを睨みつけたあと、剣先を向ける。


言葉を発することはなかったが、それを指示だと察した3体のレバナントが頷き、ユドラの前に立つと、ゆっくりとした動きで、刺突の構えをする。


そして、同時に矢を放つ冒険者たちへと向かっていった。


向かってくるレバナントに次の矢をつがえていた冒険者たちが目を見開いた。


「レバナント??!!!」


驚き声をあげた時にはすでに目の前にまで詰め寄ってきた死霊女騎士が若い冒険者の心臓を剣で貫いていた。


その隣で悲鳴を上げた女冒険者の顔面を冷気を帯びた斬撃を叩き込む。


「エリック、レイアがやられた!! ブライアン下がれ!!」

「ちくしょ!! なんでこんなところに最上位級のレバナントがいるんだよッ!!!??」


壮年の冒険者がそう叫び、弓を投げ捨てて、短剣を抜いた。他の二人もそれに続いて、剣をそれぞれ抜く。


「―――憶えろ―――恐怖せよ―――我らが至高なるお方に仇なす愚か者どもよ―――」


人から発せられたようには思えないほどの声を聞いた3人組の顔色が一気に青ざめた。


次の瞬間、先頭を走っていた壮年の男が横薙ぎの一閃を受けてしまう。


軽装の鎧は紙のように引き裂かれ、上半身と下半身が真っ二つに引きちぎられる。鮮血が吹き上がり、男はその場に崩れ落ちてしまった。


続いて、隣の冒険者はレバナントの上からの振り下ろしの斬撃を受け止めようと剣を盾代わりにし、身構える。


だが、それは無意味な行為だった。


刃と剣が触れ合った瞬間、まるで、豆腐でも切るかのように、男の剣が斬り落とされ、肩から胸にかけて深く食い込んでいく。


「うがぁあああ???!」


痛みに悲鳴を上げた男は、膝から倒れ込んだ。レバナントは足でその男の腹を蹴りつけ、剣を引き抜いた。


「ふざけやがって!! 冒険者をなめるらなぁ!!!」


最後の一人となった男も、腰に差していた短剣を抜き、レバナントへ投げつけた。


投擲された短剣は、真っ直ぐにレバナントへと向かうも、その程度では動きを止めることはできなかった。


腕を振るい、簡単に叩き落として見せたのだ。それに後退りしていると、後方からやってきた冒険者たちがレバナントを取り囲んだ。


仲間の援護を受けつつ、剣や槍を持った冒険者たちは魔法を使って、武器を強化し始める。その中には神父の姿もあった。


「邪悪なる存在よ!! 地獄に戻るがよい!!」

「―――ホーリー・クロス―――』


聖なる光が収束し、それが十字となって、レバナントへと襲い掛かる。


それを正面から受けたレバナントは一瞬にして浄化され、光の粒子となり消え去った。


それを見た冒険者たちは歓喜の声を上げる。


「おぉ!! いけるぞ!!」


残りのレバナント2体も冒険者たちに取り囲まれ、四方から攻撃を浴びせられていた。


その隙に、他の冒険者たちがレオに向かって、攻撃を仕掛ける。


『―――ファイア・ボール―――』

『―――サンダー・ボルト―――』

『―――ストーンショット―――』


魔法使いたちが一斉に呪文を唱え始め、いくつもの火の玉と雷の塊、土の礫が放たれ、レオの前にいたレバナントたちに命中する。


着弾した魔法の威力は凄まじく、砂煙が舞い上がった。その光景を見て、魔法使いたちは悪人のような笑みを浮かべる。

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