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第56話 魔法を装備・・・?

舞い上がった砂埃が風にさらわれ、ユドラたちの姿が徐々に見え始める。


魔法使いたちは眉を顰める。ユドラたちは薄い幕のような結界で守られ、傷一つ負っていなかった。


「魔物の分際で小生意気な……」


魔法使いらはそう呟きながら杖を構え直す。ユドラたちは結界を解除すると同時に剣を顔の前で構えてみせた。


何人も近づけさせないというオーラは凄まじく、誰もが恐怖を抱かざるを得なかった。


口から白い息を吐いたユドラはレオからは離れることはなく、他のレバナントたちに無言の指示を出した。レバナントたちはそれに従うように頷くと声を上げることもなく、冷酷な眼差しを向け、魔法使いへ襲い掛かっていった。


魔法使いたちはやられるのをただ待っているわけではなく、後方に下がる。その後ろで待機していた剣や槍を持った冒険者たちが前に出て応戦の構えを見せる。


レバナントたちと冒険者らで激しい剣戟が繰り広げられた。そんな中、若い冒険者が一人、間隙から飛び出し、ユドラに切りかかった。

しかし、ユドラはその攻撃を見切っていたのか軽々と避けてみせ、反撃に出た。若い冒険者は後方へ飛ぶとそれにユドラは追撃するように前へと出る。

その時だった――。


「いまだ!! オルドマンッ!!」


その言葉の意味をユドラはすぐに理解できた。しまったと思い、レオへと視線を向ける。レオとは距離が離れてしまった。護衛すべき対象者から目を離してしまったのだ。

すぐに動こうとしたが目の前の冒険者に阻まれてしまう。側面から躍り出た二刀流の冒険者がレオに向かって一気に踏み込んだ。


レオは咄嗟さに目を瞑ってしまい、持っていた剣を盾のようにかざす。すると、ガキンッと金属音が鳴り響いた。


驚きつつも目を開けると二刀流の冒険者の剣を奇跡的に受け止めていたのだ。


受け止めらえれたことに驚きつつも、若い冒険者は声を漏らした。


「やるな。だが、お前は終わりだ!」


二刀流の冒険者はそういうと、レオの腹を蹴りつけ、後ろへ転げさせる。


レオは尻もちをついた。


喉元を狙って、剣を振り下ろすも、またレオは剣で受け止めてみせた。しかし、若い冒険者はそのまま力任せに押し切ることにした。レオはそのまま押し負けてしまい、地面に背中をつけてしまう。


馬乗りになった冒険者は両手に持っている剣を押し付けながらレオの首を狙う。


「うぅう……」


剣刃が徐々に首元に近づいてくる。レオは必死に抵抗するも男の力には敵わず、肌に冷たい鉄の感触を感じ取る。


絶体絶命とはこのことだろう。


誰も助けには来られない状況で、なんとか自分で切り抜けなければならないのに、その力を有していないレオにはもはやどうすることもできなかった。


だからといって、レオは諦めたくなかった。


死にたくなかった。


もっとたくさんの事をしたかった。


ロランにも助けてもらったお礼をしていない。他の魔物たちにも恩を返せていないのだ。


(―――殺される―――いやだ―――こんなところで、こんな惨めに死にたくない―――)


頭の中で走馬灯が流れていく。


今までの出来事が次々と蘇っていく。


父母と過ごしていた楽しい生活。


そして、ロランとの出会い。


魔物たちに囲まれて、笑い合った日々。


(――――嫌だ――まだ生きていたい――死にたくない――死んでたまるかッ―――)


レオは悔しさのあまりに目には涙が溢れ、視界を歪ませていった。


「い、いやだぁああああ―――――!!!!」


レオは叫んだ。


腹から出したような大きな声で叫ぶ。


次の瞬間、自分の中で何かが弾けた感覚に陥った。


体中から力がみなぎってくるようだった。瞳に熱を孕む。


二刀流の冒険者は体重をかけて剣を押し込んでいたのに、いきなり、びくともしなくなった。


むしろ、徐々に押し返されているのがわかった。


「な、何ッ!?」


二刀流の冒険者は驚愕の声を上げながらももう一度、押し込もうと力を込める。しかし、まるで、岩のようにレオに押し込めない。


彼女の白い肌が徐々に黒く染まっていくのを見て、若い冒険者は目を見開く。


「私は死ねない!! 絶対に死にたくない!! 死んで、た、ま、る、かぁあああああ――――ッ!!!」


爆発する力を頼りにレオは咆哮する。


ついには剣ごと弾き飛ばされ、その勢いのまま後ろにいた冒険者も巻き込みながら吹き飛んでいった。


レオは自分の身に何が起きたのか理解できなかった。自分は死ぬ寸前まで追い詰められていたはずなのに、なぜか生きている。


ユドラたちも唖然とした表情を浮かべているだけで誰も何も言わなかった。


ふと、自分の手を見る。色白の肌のはずが、今は漆黒の闇の如く、黒ずんでいた。


太陽の光りに艶立ち、どこか神秘的な美しさを醸し出している。


自分の姿を見て、冒険者たちは驚きとどまっていた。


そんな中、魔法使いが目の前にいる冒険者を押し退けて、レオに不意打ちで、魔法を放った。


『―――エアー・スラッシュ―――』


風の斬撃が放たれ、真っ直ぐとレオに向かっていく。


レオは避けることができず、恐怖のあまりにその場に留まって、両手をクロスさせた。


普通の人間なら身体は真っ二つになっているところだ。


魔法を使わずに身体で受け止めるような愚かなことはしない。


「馬鹿めっ!」


魔法使いは笑みを浮かべる。


レオは身体に衝撃を感じたが、痛みは全くなかった。


「あれ……?」


レオは何が起きたのか、理解できなかった。


右手にぶつかった感覚があり、視線をおろして、見て見るもなにもなっていなかった。


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