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第57話 魔装...? その2

レオは風魔法の攻撃を素手で受けた止めたのは確かだった。


ユドラも正直、ダメだと内心諦めていた。


ただの人間だ。


それも貧弱な人間がまともに魔法攻撃を受ける術など持っていないはず。


それはユドラ自身が人間だった頃、身に染みるほどにわかっている。


だから、レオが魔法を防いだことに驚いた。


どうやって防いだのか。それがわからない。理解できない。


ユドラは目の前にいる冒険者のことを忘れ、まじまじと見つめてしまっていた。


冒険者も同じく、レオが生きていることに驚き、手を止めて呆然としている。


ユドラの視線がレオの両手へと向けられた。


色白くて、か細い枝のような腕だったのが、今では、闇よりも濃い漆黒の色に染まり、光沢を帯びている。


それはまさに鋼鉄の輝き。鋼の如き硬さを感じさせるほどの強度を持っていると一目でわかる。


ユドラは理解する。


「――――そのお姿は……まさにオルデアンの魔女と呼ばれるに相応しいもの。至高なるお方がただの人間をお傍に置いていたことに疑問を感じておりましたが、ようやく、その理由がわかりました」


ユドラは深く納得したように呟く。


その声には敬意が含まれているようであった。


「お許しを。人間と思い、軽蔑していた我らが愚かさをどうかお許しください」


ユドラの言葉から謝罪の意思が伝わってくる。他のレバナントたちも同じように謝罪するように頭を下げる。


どうやらユドラたちの中で、レオに対する評価が変わったようだった。


彼女たちはロランからの命令に従って、守っていただけだった。だから彼女のことをなど、正直どうでもよくて、とくになんとも思っていなかった。


ロランが悲しむことにならないようにとだけ考えていたのだ。


だが、今となってはレオという存在に対して、尊敬にも似た感情を抱き始めていた。


自分たちの主であるロランと同じぐらいに、いや、それ以上に。


そんなユドラたちの様子を見て、レオは少し嬉しく思った。


今までずっと迫害され続けていたからこそ、誰かに尊敬されるような立場になったことがなかった。


だからこそ、こうして自分が認められることは嬉しく思った。


そんなことを思っていると冒険者たちが武器を構える。

そして、一斉に攻撃を仕掛けてきた。


魔法を放ちながら冒険者が近づいてくる。


さっきまで、怖かった攻撃にレオは恐れることなく、左手でファイア・ボールを叩き落とし、放たれた矢を手で防いで見せた。


動体視力もかなり強化されているような気がした。今まで見る世界とはまるで違って見える。


飛んできた矢を掴み取り、それを力を込めて握りつぶす。


すると、鉄の鏃が粉々になり、地面にパラパラと落ちていく。


こんなことができるんだと思うと感心してしまう。


(―――――あぁ本当に私は魔女の生まれ変わりだったんだ)


改めてそう思うと、不思議な気持ちになる。


自分はもうすでに人ではないのだと実感させられた。


それでもいいと思った。


今はこの力で皆を守ることができるのだから。


レオは襲ってきた冒険者を睨みつける。


それを見て、相手はすぐに怯んで動きを止める。


相手が怯えているのがわかった。


戦える。こんな私でも役に立てる。そう思うとレオは気が付いた時には剣を持ち、冒険者に斬りかかっていた。


レオが動くと同時にユドラたちも援護するように反応して動いた。


全員がレオの動きに合わせて、彼女の周りに集まり始める。冒険者たちもただの人間だと思っていたが、自分たちでは敵わないと判断して、連携を取り始めたようだ。


その臨機応変さは見事だった。


レオは今までやられっぱなしだった鬱憤を晴らすかのように剣を振るう。振り方なんて知らないし、教わったこともない。


でも、身体が勝手に動いてくれる。まるで自分の手足のように動かすことができた。


相手の攻撃を最小限の動きだけで避け、的確に急所を狙って斬る。


振り下ろされた斧を左手で殴り、破壊する。


「なんなんだよ??!」


動揺する相手に蹴りを入れ、吹き飛ばした。脚力も上がっているのか、軽く蹴っただけのつもりだったのに、相手は勢いよく飛ばされ、地面を何度もバウンドしていくのを見て、驚く。


思っていた以上に力が強すぎるようだった。加減の仕方がよくわからない。


今までの鬱憤を晴らすのはいいが、何も目の前にいる冒険者たちが自分に何かをしたわけではない。


だからといって、殺すことに抵抗があった。殺す理由がないからだ。


でも、手を抜いてしまえば、自分が殺される。


「だったら!!」


相手を行動不能にすればいいんでしょ??! とレオは思いつく。


相手の懐へと飛び込み、膝蹴りを顔面に叩き込んだ。


鼻血を出しながら倒れ込む男の首根っこを掴むと、そのまま持ち上げ、近くにいる冒険者へと投げつける。


仲間がぶつかり合い、二人は折り重なるように倒れた。


ユドラはその姿を見て、正直、自分たちの護衛がいらないのでは? とそう思ってしまう。それほどまでにレオは強かった。


圧倒的な強さを見せ付けられ、ユドラたちは唖然とするしかなかった。


レバナントたちが加勢するまでもなく、レオは冒険者たちを次々と倒して行く。


あっという間に冒険者たちは全員、地面に伏していた。


ユドラたちにとって、それは奇跡のような光景でもあった。


しかし、不満点は一つあった。


冒険者を殺していないことだ。


自分を殺そうとしてきた相手だ、なら、殺しても問題はないはず。


なのに彼女はとどめを刺すことはなく、殺さなかった。


それが少しだけ残念に思えた。レバナントたちも理解できないというように困惑している。


ユドラは足元で地面に倒れる冒険者の顔を、見つめ、レオの顔を見る。


レオはユドラの目を見つめ返してきた。


その瞳には強い意志が込められているように感じられた。


ユドラは両肩を竦め、立てかけた剣先を冒険者から遠ざけ、剣を鞘に納める。


それにレオは嬉しそうに笑みを浮かべたのであった。

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