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第58話 私も戦える。

ロランは少し焦りを感じていた。100人を超える冒険者たちのほとんどは葬ったのだが、いまだにこの三人の冒険者は倒れなかった。


格闘メインで剣も使える冒険者に、神聖魔法を使える魔法使い。そして、この目の前にいる大剣を片手で操るカミラは特に面倒な相手だった。


それはただしぶといというわけではない。ロランの動きに徐々に追いついてきている。


恐ろしいほどの成長力。これは「勇者」に匹敵するほどに強い。


上位魔法は使えそうにないが、斬撃と絡めた魔法攻撃、それに周りとの連携、的確な指示。本能的な勘の良さ。


まさに先天的な素質と言っても過言ではない。


女神に愛された者―――厄介な相手だ。


そもそもこのカミラを寄こしてきたのも女神の仕業ではないかと疑ってしまうほどだ。


(――――このままだと、本当に負けてしまうかもしれない……)


実際、このカミラの動きは洗練されているし、なにより、戦い慣れている。


剣筋や体捌きからして、おそらく彼女はフェレン聖騎士だったのか、それとも、名門貴族の娘なのか。あるいはその両方か。


いずれにせよ、剣術は我流ではなく、しっかりとした流派のモノだ。


「はぁああああ――――!!!!」


力のこもった斬撃がロランの頭上へと振り下ろされる。


甲高い金属音が鳴り響き、火花が散った。聖剣エクスがカミラの大剣を弾き返した。


細い刃先は通常なら今頃、粉々に砕け散っているだろう。流石は聖剣といったところか。刃こぼれ一つしていない。


それはカミラ自身も知っていた。だからこれはあくまで目くらましに過ぎない。


弾かれた大剣をすぐさま逆手に持ち替えると、ロランの足を狙って薙ぎ払った。


「うわっ?!!」


ロランは驚きつつも、ジャンプして避ける。空中に浮遊した瞬間、カミラは叫ぶ。


「今だ!! ドルファス!!」

「任された!!」


背後にいたドルファスが両手を掲げながら詠唱する。


『―――ホーリー・ランス―――』


ドルファスが振るう杖の先端から光の粒子が一瞬のうちに集まり、槍の形に形成されるとそのまま、ロランへと放たれた。


ロランは首を傾けて、なんとかそれを避けてみせる。髪の毛が二三本、ジュッっと焼けるような音を立てて消えた。


だが安心はできない。着地するとすぐに後ろへからそれを狙っていたレイブンが炎をまとわせた拳を振り下ろす。


「うぉおおおおりゃああああ――――!!!」


ロランは咄嗟に身体を捻って真横へと飛んで逃げた。ロランが居た場所にレイブンの炎の拳が叩きつけられ、その衝撃で、地面は陥没し、土埃を巻き上げた。


小石がロランの頬に掠め、土埃によって咳き込む。


目の中にも入ったようでゴロゴロして痛い。


目を擦りたかったが、それどころではなかった。


涙目になりながらロランは目の前にいる三人の冒険者を警戒するように距離を取る。


久々に本格的な戦いをした。


正直、ロランが居城にしていたシュトルハイム城では、勇者が攻め込んできていたが、そのほとんどが、魔王の間にたどり着く時にはボロボロの状態で、死にかけていた。


たまに勢いのまま攻めてくるものもいたが、いつも一撃で終わらせていた。


今回が、初めてかもしれない。こんなにも苦戦したのは。


攻撃を受けることはないが、逆に攻撃を食らわせることもできない。


疲労とレオが無事なのかどうかの焦燥感だけが先行しているような気がした。


(――――くそっ…… やっぱり、この勇者級の3人を相手にするのは厳しいか……)


どうにかして1対1の状況に持ち込みたいところ。


ロランは魔法を使おうと考えた瞬間、まだどこからか視線を感じた。


まるで、自分の動きを全て見透かされているような気がしてならない。


(……まさか、さっきの一撃が囮? 他に誰かが潜んでいるのか?)


ロランは慌てて後ろへと視線を向ける。しかし、そこには誰もいない。


(――――気のせいか……いや、違う。やっぱり誰かいる)


ロランがそう思っているとき、カミラが大剣を片手で構える。いつみても、とんでもない膂力だ。成人男性でももち上げるのに苦労するであろうそれを、彼女は軽々としている。


盛り上がった筋肉が生み出すパワーは計り知れない。


「ドルファス。魔法強化を」

「おうよ」


カミラの指示に従い、ドルファスは呪文を唱える。


『―――ホーリー・アタッチメント・ブースト―――』


カミラの持っている大剣が淡く白い光を放ちはじめた。


刃先の周りも小さな光の粒子がまとわりついている。


攻撃力が一気に増したことにロランは苦笑いする。


「いや、それはさすがに卑怯でしょ……」


神聖魔法の付与はかなり最上位級の技である。


カミラの大剣の威力は凄まじく、一撃でも食らえば致命傷になりかねない。


そんなものを強化された状態で振り回されればたまったものではない。


しかし、カミラは意に介さない。


見た目がただの魔法使いのじいさんだと思っていたが、ここにきて、ロランは後悔した。


さっさと殺しとけばよかったと。


「これはそろそろ本気を出さんとな」


ロランはそう相手に聞かれないほどの声量でささやいた。


聖剣エクスの刃先を手でなぞると、黒い光がその指先に灯り、やがて、刃先を侵食していくかのように徐々に覆っていく。


刃先が漆黒の色に変わったことにカミラは気が付き、今、踏み込むのはまずいと予感した。


ロランが姿勢を正し、片手で剣を持って、攻撃態勢をとったことで、先ほどまでヘラヘラしていたのと違うことに本気を出すのだな、とカミラも静かに息を吐いた。


二人の間に緊張が高まっていく。


この場にいる全員が固唾を飲んで見守っていた。


一瞬とも永遠ともいえる時間が過ぎ去り―――そして、動いたのはほぼ同時だった。

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