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第59話 私も戦える その2

勇者と同等の力を持つカミラと魔王でありながら勇者にさせられたロランは平原で対峙していた。


そして、二人が同時に踏み込み、互いの武器が衝突する寸前、いきなり、割り込むようにして、レオが飛び込んで来た。


「ロラン危ないッ!!!!」


そう叫びながら、ロランの腕を強引に掴むと自分の方へと引っ張りよせ、代わりに自分の身体を滑り込ませてきた。


勢いよく引っ張られたロランは小石に足を取られてしまい、その場に顔面から盛大に転げてしまう。


直後、カキンッ! と音が鳴り響いた。


レオはカミラの大剣を魔装させた左腕で受け止めたのである。


「な、なに?! 大剣を腕一本で受け止めただとッ?!」


レオの身体能力に驚くカミラ。


そして、視線を彼女の漆黒の腕に向けすぐに納得した。


彼女は以前、同じタイプの強化魔法を見たことがった。


「なるほど。身体強化か」


魔物が身体を強化することはカミラは知っていたが、まさか人間が使うとは思わなかった。


それもか弱そうな少女がだ。


どこから見ても普通の少女にしか見えない。


変わっていつと言えば、右目が青色、左目が赤色のオッドアイであることぐらいだろうか。


「何者なんだ、お前は……?」


警戒心を露わにするカミラに対し、レオは考えるような素振りを見せて答えた。


「私は……私は……オルデアンの魔女の生まれ代わり……だそう」

「だそう?」


歯切れの悪い返答にカミラは眉を寄せた。


「オルデアンの魔女か。なるほど。その目といい、確かに伝承通りの姿をしているな」


レオの姿を知っているかのようにカミラは得心いったように呟く。


「なら、心置きなく戦えるというものだ」


そういうと片手で持っていた大剣を両手で持ち替えた。


真っすぐと見据えて来る。彼女の身体からとてつもない覇気が溢れているのがわかった。


レオは自分がとんでもないことをしたと後悔した。


ロランを助けようと必死になって、後先考えずに飛び込んだのだが、目の前にいる相手は本物の勇者だ。


魔装させた身体がカミラが振り下ろす大剣の刃を受け止められるかもわからなかったのに、何も考えずに飛び出してしまったのだ。


今更ながら、震える足を見て情けなくなる。


それでも下がるわけにはいかなかった。


下がってしまえば、少し離れた場所で、転げていロランの命はないと思ったからだ。


(――――私が守らないといけないんだ)


自分に言い聞かせるように強く思う。


しかし、そんな思いとは裏腹に恐怖によって身体が思うように動かない。


(――――動け私!!)


必死になって己を鼓舞するも、やはり身体は動いてくれない。


それを知ってか知らずかカミラは力を入れ始めた。ジリジリと後ろへと押し込まれていく。


(――――ダメだ。このままじゃ、負けちゃう)

焦りばかり募っていく。


気合を入れ直すように心の中で叫んだあと、レオは負けてたまるかと足で踏ん張る。


するとさっきまで、押されていたレオが逆に押し返していくのだ。


「流石は魔女か」

「こんなところで私は死ねないんだ。絶対に」


カミラは一旦距離を取るため、後ろへと飛んだ。レオはそれに追撃しようとは思わなかった。


どこか、危ないと危険を感じたからだ。


その場で、踏みとどまった。


それにカミラは感嘆するような声を漏らす。


「ほぉ。追ってこないか。よく見抜いたな」


称賛するように口角を上げる。


彼女は攻撃態勢に入る前、必ずと言っていいほど間合いを取った。


それは、相手の動きを観察し、どのような攻撃を仕掛けてくるのか予想するため。


そして、大剣を振り上げるためには相手との距離が必要だった。


でなければ、本来の力が発揮できないからだ。


後方へと下がって、追撃してきたところを横一文字に振り払ってやろうと考えていたが、それを運よく見抜いた。


二人は正面で、対峙する。


放り出されたロランはというと口の中に大量の土と砂利が入り込んでた。それらをペッと吐き出す。


一瞬、何が起きたのか全く分からなかった。


レオがいきなり割って入ってきたのは理解できたのだが、レオの力とは思えないほどのパワーで投げられたのだ。


立ち上がりながら、レオの方を見る。


すると、彼女はカミラと互角に渡り合っていた。


目を何度も瞬きさせながら夢じゃないかと思ってしまう。


「―――あれ? レオ、だよね?」


いつもと違う雰囲気を感じ取り、戸惑うロラン。


そんな彼のことはお構いなしにレオはカミラからの攻撃を何度も腕で受け止めていた。


時には弾き返しているのだ。それが、信じられなくて、何が起きているのか、いまだに理解ができていなかった。


視線をその腕に向けて、凝視した。


彼女の両腕は漆黒の色に染まり、まるで、鋼鉄の塊のような印象を受ける。


地面を踏み締める両足もそうだ。同じく、鉄のように光沢を帯びていた。


見た目、重たそうに見えるが、俊敏さを損なってはいないようだ。


「まさか、あれは……魔装?」


ようやく、レオが両手両足を魔装していることに気が付く。


でも、一体どうやって?どうして? 疑問符が頭を埋め尽くし、思考が追いつかない。


レオに魔法を覚えさせた記憶はない。


使える様子でもなかった。そもそも複雑で、魔力もかなり使う魔装を簡単に覚えられるはずがないのだ。


オルデアンの魔女は自分の肉体を魔装させることができることを思い出した。そこで、納得する。


「やっぱり、レオはただの人間じゃなかったね」


嬉しさが込み上げてきた。自分の知らない秘密をレオが持っていたことが誇らしいのだ。


でも、今は喜んでいる場合ではない。


魔装化させているとはいえ、レオは剣術を知らない。


カミラからの攻撃はその強化された動体視力のおかげで、防げているが、カミラへ攻撃に出ることができないでいた。


防戦一方で、不利な状態だ。魔装もいつまで保てるかもわからない。


ロランはすぐにレオに加勢するように駆けた。

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