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第60話 戦いの後

激しい戦闘が行われた平原では、帝国兵の無惨な死体が散乱していた。


腕を斬り落とされ、首を無くし、身体を両断され、血だまりがそこら中にできていた。


大陸の覇者。


世界最強とも言われた武装国家は連戦連勝を続け、破竹の勢いで大小の国々を征服している。


これは、帝国の氷の将軍とも恐れられたシルビアの斬新な戦術と軍拡化によるもので、兵士一人ひとりが強力な武器と防具を持ち、それらを扱える技術力と戦技に長けていた一騎当千のツワモノ揃いを揃えていた。


そんな最強とも言われる帝国軍が魔王ロランの配下である死霊騎士ヨナ率いる髑髏騎士団によって、5000の帝国兵があっけなく討ち死にした。


彼らは死ぬ直前になって、自分が強いと勘違いしていた、と気づいた時には全てが終わっていた。


ロランは戦場を見渡す。


勝利した。


圧勝とも言える。


こちらの被害は骸骨騎士50体だ。


どれも戦闘不能になるほど、ばらばらとなり、そのまま消滅してしまった。


50体もの骸骨騎士が死んだことにロランは悲しくなった。


しかし、彼らは後悔はしていない。


むしろ、彼らは誇らしく果てた。


戦いの中で、誇り高くその最後の時までを全うすることができたので、ロランには感謝していた。


生き残った骸骨騎士たちもロランを責めることは一切せず、仲間が旅立ったことを羨ましそうに空を見上げるだけだ。


帝国軍の兵士たちの生き残りはいない。


捕虜を取るつもりがさらさらなかった彼らにとって、全てを撫で斬りにしてしまった。


そこは、ロランが追い討ちはしないようにと告げていなかったのが悪い。


結果は見えていた。


負けることはないと思っていた。


だから、勝てそうにもない相手に対して、どうして、人間はこうも愚かなのだろうか、と思った。


相手が誰だったのかも知らずに、気づきもせずに死んだ帝国兵たちは、あまりにも理不尽な気がした。


「最初から、僕が魔王だと知っていたらから逃げていたのだろうか。それとも戦いはさらに激しさを増したのか」


ロランはそう言うと、近くに倒れていた死んだ帝国軍の少年兵士に語り掛ける。


当然、返答はなかった。


目を見開き、悲痛な叫び声をあげて、腸を引き裂かれて、絶命している。


血まみれになった口元と手で拭い取り、頬を手の甲で撫でる。


「かわいそうに」


彼は小さく呟く。


ロランの後ろから、レオが歩いてきた。


「こんな子まで戦場に出てきていたのね」

「彼らは帝国軍の中でも地方軍に所属する部隊みたいだね」

「どうしてわかるの?」

「そりゃあ、あまりにも弱すぎたからだよ。戦い方も知らなそうな者もいたっぽいしね」

「そうなんだ」

「最前線で戦ういわゆる職業軍人とはちがって、地方では兵士のほとんどが徴収された農村の民なんだ。どんな理由があったのかは知らないけど、この子も戦わざるを得なかったんだろうね」


ロランは眉を八の字にして、レオに振り返った。


「ロランは優しいね」

「どうして?」

「だって、私たちを殺そうとした人たちだよ?」

「だから、殺してもいいと?」

「そ、そうじゃないけど……」


ロランの言葉を聞いて、レオは少しだけ言葉に詰まる。


確かにそうだ。


帝国兵はロランたち魔族や亜人族に対して敵対し、攻撃を仕掛けてきた。


それは間違いない事実であり、その報いを受けて当然だとレオは思う。


だが、それを口にすることはできなかった。


足元で横たわる少年を一瞥する。


レオと同じくらいの年齢だろう。


もし、戦っていなければ、彼だって、人生があって、家族がいたかもしれないのだ。


そんな彼の未来を奪ったのは自分たちなのだと思うと、心苦しくなった。


ロランは、そんな彼女の気持ちを感じ取ったように微笑む。


そして、レオの頭を優しく撫でてやった。


「この世界では戦争が続いている。僕は無関心だったけど、この子をみたら戦争をやめさせたいな、って思った」


レオは何も言えなかった。


ただ黙って俯いていると、遠くの方からヨナが小走りで駆け寄ってくる姿が見えた。


いつものように冷静沈着な態度ではあったが、どこか嬉しそうな顔をしている。


「魔王様!! 見てください!! 大賞首です!! 私の手柄です!! ほめてください!!」


ヨナはそう叫ぶと、片手に持っているゴルムの生首を高々と持ち上げた。


それをみて、ロランは苦笑いを浮かべる。


「お、おぅ。すごいね……」


先程まで戦っていた敵将の首だ。それがどういう意味を持つのか、ロランにはよくわかっている。


血が滴り落ちているのを見て、レオは口を抑え、顔をそらした。そんなレオにはお構いなしにヨナは満面の笑みで言う。


「このゴムルとかいう貴族ですが、全く相手にもなりませんでしたよ! 魔王様! 剣を大振りに振ってきたので、ちょっと横にずれたら、そのまま地面に突っ込んでいったんですよ?」


ヨナは無邪気な子供のような笑顔を浮かべながら、手に持つゴルムの生首を左右に振る。


「それで、そのまま死んじゃったんです。なんとも大将らしからぬ最期でしたよ」


それは確かにださいな、とロランは思った。


ゴルムの顔を見ると、恐怖と苦痛が入り混じったような表情をしていた。


ロランはそれを見て、哀れに思ってしまう。


「魔王様とは全然違いますね。やっぱり魔王様が最強です。魔王様が一番です」


ヨナは興奮気味に顔を近づけてきた。


ロランは困った顔をしてしまう。


背後ではレオが嗚咽している。


キラキラが出てしまいそうな勢いだ。


このままではかわいそうだと思ったロランは咳払いをして、ヨナの興奮を鎮めようとする。


「ヨナ。き、君の頑張りは十分にわかったから、とりあえず、その首、埋葬してあげようか」

「え? 埋葬するんですか?? 飾りにしないんですか?」

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