一方ロランたち一行はトゥーダム神殿からソリアの街へと帰路についていた。
街道を骸骨騎士たちが魔王ロランの軍旗を掲げて、ゆっくりとした足取りで進む。
今回は急いではいなかったので、舗装された道を進むことにした。
その方が、行軍速度が上がるからである。足の遅い骸骨騎士たちにはなおさら、整地された道の方がいい。
しかし、問題点が一つある。
それは漆黒の鎧に身を包んだ骸骨の集団に対して、道ゆく人々が悲鳴を上げて逃げ惑うからである。
その光景を見てロランは苦笑いしてしまう。
何も取って食うわけでもないのに、と。
もう、ロランたちのことはすでに帝国側も認知していることだろうから、今更隠れようとも思っていなかった。
むしろ堂々と行進して、帝国側の反応を見たかったのだ。
案の定、街道に出て間もなく、帝国軍の騎兵がこちらに向かってきた。
騎兵たちは骸骨の騎士たちを遠巻きにして様子を窺っている。
おそらくは偵察部隊なのだろう。
だが、ロランたちはそんな彼らを無視してそのまま進んでいく。
すると、騎兵たちは慌てて馬首を翻し、退却していった。
しばらくは手を出してこないとは思っているが、いつかは軍団を率いて来るのだろうと思うととにかくめんどくさかった。
女神ソラーナを怨みたい。非常に。
「……僕はひきこもりたいのになぁ」
ロランはそうぼやくとレオが眉を顰めて不安そうに尋ねてきた。
「これからどうなるのかな」
「そりゃあ、もう、帝国との本格的な戦争になるんじゃないかな?」
ゴルム率いる帝国軍5000名と全滅させて、冒険者100名を死亡または戦闘不能にさせている。
負けるわけにはいかないので、勝つつもりで戦ったのだが、そのおかげで、ロランの存在が世間に明るみになった。
帝国領内で魔物の勢力があるとなると看過できないはずだ。
とくにシルビアという女は見逃す気はないだろう。
それにフェレン聖騎士団もロランのことをどこまで知ったかはわからないが、魔物を排除すべく騎士団を動かしてくるのは予想がつく。
そうなると真正面から対峙するだけの兵力の増強と防衛陣地の構築が急務となる。
資金調達もそうだが、まずはソリアの街を最前線の防衛拠点として、それから近隣の街々を制圧し、防衛ラインを構築する。
さらに街を城塞化することで、帝国の侵攻に備えることができる。
砦を築くことも考えた方がいい。
そのため、防衛線を維持するためにも多くの魔物、魔族たちを魔王軍の傘下に引き入れる必要がある。
魔王軍と言っても、数はせいぜい千程度だ。
これまで守ると言っても、ロランの居城だけだったので、千体いればそれで十分だった。
だが、100万も200万も兵士を召集できる帝国を相手にするにはあまりにも少なすぎる。
だから、もっと強力な軍団を組織する必要があった。
(――――できれば、穏便にいきたいんだけど……そうはいかないよねぇ)
ロランは溜息をつく。
帝国と全面衝突する未来しか想像できなかったからだ。
「あんまりしたくないんだけど、ゾンビ兵つくるか」
そう言って、死んだ死体を蘇らせて、ゾンビの兵隊を作ることにした。
ゾンビ兵は骸骨騎士たちのように意思を持たない。高度な命令を理解することはできないため、あまり役には立たないのだが、数は揃えることはできる。
ゾンビ兵で前線を支えてもらい、その間に防衛力を高めることを決めた。
そんなことを考えている怠惰にそして、ようやくソリアの街が見えてきた。
帝国軍の一団に攻撃されるんじゃないかと思っていたが、なんとか、戻ってこられたため、ロランは胸を撫でおろす。
ソリアの街の周辺には農場が広がっていた。そこに農夫たちが魔物たちが一緒になって、鍬や鋤など、農機具を扱いながら農作業をしている姿があった。
畑には緑が広がり、収穫間近の作物が風に揺れていた。
平和そのものの風景だった。
ロランの一行に気が付いた農夫たちが手を振って、歓迎の意を示す。
ロランたちも笑顔で手を振り返す。
「あー!!ロラン様だぁ~!!」
「おーい!! ロラン様ぁ~!!」
「魔王様万歳!!」
「ロラン王!!!」
「いやいや。それはちょっと……」
ロランは苦笑しながら、頭を掻く。
気が付けば、ロランの周りにはソリアの街の住民や魔物たちに取り囲まれていて次々と声をかけて来る。
「ロラン様、見てくださいよ。このキャベツ!!立派でしょう!?」
農夫の一人が誇らしげに巨大なキャベツを掲げる。
確かに立派な大きさをしている。普通のものよりも二回りほど大きいだろうか。
魔物たちが農作業に手を加えたことにより、土壌が豊かになり、作付面積が増えたことで、収穫量が大幅に増加していた。
もちろん、それだけではない。
これまで、奴隷のように働かされていた農夫たちは今では自分の意志で農作業に従事しており、彼らの表情にも希望が満ち溢れている。
これなら近いうちに自給自足できる体制が整うことだろう。
今は、ロランが治めているシュトルハイム城周辺の地域で収穫した小麦や野菜などを商人を介してソリアの街へ輸送しているが、いずれそれも不要になることだろう。
農夫たちから称賛されながら、ロランは嬉しく思う。
人に感謝されることがどれだけ気持ちがいいことか。
決して善意でやっていることではない。
ただただ、人と魔物が共存できる社会を作りたいという願いのために行動してきただけだ。
見渡してみても、魔物と人が肩を並べて、笑い合っている。
その光景を見て、ロランは満足感に浸るのであった。
長旅で疲れていたロランは愛想よく振舞ったあと、魔王の館へと戻ることにした。