☆第四十八章 デートのお誘い。
喫茶店へ誘われたが、杏を迎えにいかなければならないので、「お礼なんて全然いらないです」と立ち去ろうとしたのだが、ああ、そうだ環名ちゃんとの接点を作った方がいいと感じたわたしはあき婆に電話をする。しかし珍しく留守番電話。あき婆に杏のお迎えを頼もうかと思ったのだが、仕方ない。
そうだ、環名ちゃんと薮内さん二人で喫茶店にいってもらおう! それがいい!
「あの、わたしは娘の保育園のお迎えの時間があるので、わたしの変わりに彼女じゃダメですか?」
そう言って、環名ちゃんを彼の前に出す。と同時にそそくさとわたしは逃げるように立ち去った。そうやって、わたしは保育園へ向かう。いつもどおり杏を迎えて帰宅する。
二人がうまくいってくれたらいいなぁと思ったが、果たしてどうなるのやら。
七時を過ぎたころに環名ちゃんが我が家へ帰宅? というかやって来たのだが、不機嫌そうだ。
「あの人、わたしに興味なんかないんですよーーーー‼️ 琴さんのことばっかり聞いてくるんです!」
それは正直困る。こうなるとわたしと環名ちゃんの関係性が変になってしまう。それは仕事もやりづらくなるし、なんとか二人に仲良くなってもらいたい。
「連絡先って聞いたの?」
「はい……」
環名ちゃんから電話番号を教えてもらって、子どもたちを寝かせたあと、そっと電話をかけてみた。
「はい」
「あ、すみません。前田琴と申します」
「前田さん!」
急に声が明るくなった。
「本日はすみません、せっかくお誘いいただいたのに」
「いえいえ、お子様のお迎えですものね。仕方ないです」
「あの、お礼なんて本当にいいので、それより……」
えっと、どうしたらいい? コミュニケーション能力大して高くない自分を精一杯奮い立たせる。
「彼女っていらっしゃるんですか?」
あまりに唐突な質問だった。違う、なんか間違えたかも。
「いません」
ええい、ついでだ。
「結婚されていますか?」
「いいえ」
「歳は幾つですか?」
「三十五です」
なるほど環名ちゃんより九つ歳上か。
「このあたりに住んでいらっしゃるんですか?」
なんだか質問攻めになっている。
「はい、最近引っ越してきて」
「そうなんですか……」
そこまで聞き出したけれど、このあとどうする? うちの環名はいかがですか? 今なら大変お安くなっておりますが……。違う違う、バーゲンセールじゃないんだから。
「僕、あの時本当に人生に絶望していて。もう死んでもいいかなって思うくらい。でもいざ、何もかも失ってもお腹が減って、食べたいという欲にかられて、寒いから布団が欲しいとか、温かいものが欲しいって、人間として当たり前なのでしょうが、欲が湧いてきました。しかし、現実は厳しくて、なかなか何をやってもうまくいかなくて……」
なんだか重い話が始まってしまった。
「あなたが、くださった紅茶の温かさとお言葉が見に染みて、このままじゃいけない。生まれ変わろうってキッカケになったんです」
それは、また、大きな役割を知らないうちに果たしてしまったらしい。
「本当にありがとうございます」
決して悪い気はしなかった。自分の行動が人の人生を救ったのかと思うと、恥ずかしうれし、少し照れてしまう。
「あの、前田さん」
「はい?」
「今度、もしよかったら……迷惑でなければデートにお誘いしてもよいですか?」
なんだっってええええええええ???????