☆第六十三章 従業員募集!
黒のストレートの髪、十二単をハサミで斬新に切ったようなセクシーな服の女の子がミライ
茶髪でふわふわの髪、大正時代を彷彿させる袴に黒のレースをあしらった服装の女の子がミハル
ミライ & ミハル がそれぞれ十七弦箏と大正琴(ギター風アレンジ)したものを弾いている。最初は十七弦箏をおじさんが弾く設定だったが、女子二人を中心としたバンドメンバーに変更した。
バンドメンバーはその他
ライ……細マッチョのかっこいいダンディーなおじさん。ギターではなく蛇味線を弾く。
ルネ……赤い髪にセクシ―だけど気品あるドレス姿のお姉様、ベーシスト
のぞみ……日本人系。ドラマー
リアナ……美しい胡弓を弾く、透明感のあるガラスのような女
翡翠……和風、どこか侍。でもアメリカンな服装のDJ
以上、七名の大人数バンドはわたしと環名ちゃんで創り上げたキャラクターたちだ。
最初の設定から色々、あーでもない、こーでもないと散々考え直した。ベースが入って、重低音が心地よく身体に響く。ドラマーの、のぞみは女の子みたいな名前だけど、若い男子である。
動画再生回数がいよいよ百万回に届くか、届かないか。百万回を超えたらお祝いパーティーをしようと話していた。
しかし、思いのほか伸び悩んでいる。これは新しい風を巻き起こす必要があるだろうか。
「歌を作りますか?」
「う、歌⁉️」
環名ちゃんは音楽作成だけでなくて、その他パソコンスキルをどんどん習得していく。頭がいいんだな……手際もいい。白は白、黒は黒とはっきりさせるところはハッキリさせる。ボツと思ったら、一瞬で作品を削除する。そんな彼女の提案に目を丸くする。
今は歌詞などない。作曲したのは既に十七曲に及ぶ。
『SOYOKAZE』『みやび』『春爛漫』『紅』『Fantasy Of Japanese ✕✕』
わたしも作曲には参加したが、能力を発揮しているのは明らかに環名ちゃんだ。
日本音楽と洋風音楽のMIX や 疾走感、ドクンドクン、身体を震わせるような重低音が突き抜ける。コメント欄を見ると、どうやら海外の方からの反応がいいらしく、逆に日本人の視聴者は少ないように思える。
「歌って何系?」
「そうですねー……」
「ボーカルが登場するってこと?」
「そうなりますね」
「歌はボカロで?」
「いや、歌というのは今なんとなく思いついただけなので、もっと別の路線で動画の質を上げるとか、新しいことにチャレンジできたらいいのですが」
こういう時、わたしは無力だと思う。生まれ持った才能を活かして、音楽や芸術の世界で活躍している人はたくさんいる。凡人で何ら特技のない自分がイヤになることもあるが、
特技がないなら習得しよう。と考えるようにしている。
「琴さん、新風を巻き起こすために新しい従業員を募集しませんか?」
「え、新入社員⁉️」
社員と言ってしまったがそもそも、会社としては立ち上げていない。わたしも環名ちゃんもフリーランスとして個々で独立している。
一階の事務所には確かにまだスペースがある。もう一人いてくれてもいいな。でもその人がいい人だったらいいけれど、変な人だったらイヤだな。
採用するのは自分だ。だったら面接を行って真面目に働いてくれる人をピックアップしたい。いや、面接だけでその人の本性まで見抜けるのか?
とにかく、人間関係でしんどい思いをしたくない。
……甘い考えは一旦、置いておこう。そういう保守的な考えをぶち壊さないと新しいものはきっと生まれない。
環名ちゃんの言うとおりダメもとで、従業員募集の張り紙を一階事務所のドアに貼ってみた。
『フリーランスという形での雇用』
『曜日、時間相談に乗ります!』
『平日昼間働ける方、募集』
『パソコン等詳しい方、歓迎!』
果たして応募はあるのだろうか?
わたしのスマホ番号を募集の紙に記したので個人情報モロバレだが、事務所に電話を繋ぐとさらなる出費がかさむ。
二日後の午前中にスマホが鳴った。ディスプレイを見るとまさかの薮内さんだった。