☆第七十章 新しい命を守っていこう。
その翌週、わたしは麗奈と一緒に例の看護師さんに会うことになった。
麗奈はつわりがひどそうなので、家にきてもらうことにした。わたしは当然、相手の顔を知らないが、麗奈から一通りのプロフィールは聞いた。
有馬
ピンポーン。インターホンが鳴ってわたしが玄関のドアを開けると予想外に、イケメンではない(失礼)小柄な男性が立っていた。身長はわたしより少し大きいくらいでなんだか面食いの麗奈に合うのか合わないのか。直立している彼は、電話で事情を聞いて、緊張している様子だ。
無理もないか。これが相手の父親だったりしたら、もう玄関入った時点で土下座だろうな。わたしは本来、話し合いには参加すべき人間ではないのだが、麗奈が随分弱気なので、こんな時くらい本当にしっかりしなくてはならない。
紅茶を出す。
「ありがとうございます」
ダイニングテーブルで向き合う。
「事情は聞きましたよね……?」
「はい」
「今後、どうなさいますか?」
こんな聞き方でいいのだろうか? 部外者なのに偉そうなのかな。
「麗奈さんと良い家庭を築けたらと思います」
その答えを聞いてほっとした反面、虚無感に襲われる。麗奈が結婚すると、当然わたしとは一緒には住めなくなる。
良い家庭を築くっていうのを、勝手に結婚すると解釈したが、麗奈には星弥くんという息子もいる。一緒に生活はするが、内縁の夫という選択もあるのだろうか。
「麗奈とは結婚するのですか?」
単刀直入に聞いてみた。
「できればそうしたいです」
再婚相手と戸籍上の夫婦関係が結ばれても、連れ子と戸籍上の親子関係は自動的に発生しない。
わたしは自分も人ごとじゃないので、ネットで連れ子について調べるとそう書いてあった。だからといって星弥くんは麗奈と一緒に暮らすだろうし、麗奈が有馬さんと一緒に暮らすとなれば必然的に星弥くんと有馬さんは同じ屋根の下で暮らすことになる。
そして、産まれてくる子は星弥くんの異父兄弟ということになるのだ。
麗奈はまだ妊娠三ヶ月で、流産の可能性だってあり得るけれど、それでも、麗奈のいう通り『堕ろす』なんてことはわたしだってイヤだ。中絶は一種の殺人とも思える。
「できれば、というのは。はっきりした方がよいのでは……」
いつになく強気なわたしは部外者なくせに偉そうなことを言っている。麗奈を守りたいというその一心で、いつもの弱虫な自分をひっこませている。
「そうですね。婚姻届は提出したいと思います。星弥くんが……自分に懐いてくれるかはわかりませんが、彼にも愛情をもって接したいと思います。彼が懐いてくれるのであれば養子縁組をしたいです」
有馬さんが嘘をついていないか。口からでまかせを言っていないか、彼の目を見つめる。
切れ長の目、瞳は真っ黒で、髪も黒い。鼻は高いが面長の顔で、麗奈の元旦那とは全くタイプが異なる。元夫は綺麗な二重まぶたと長いまつ毛が特徴だ。
麗奈は、口にタオルをあてていた。
「琴ちゃん……」
麗奈が口を開いた。
「え、はい」
「本当にありがとう。あの……ここからは私と行登さん、二人で話すね」
「わかった」
わたしは席を外した。
三階の自分の部屋について、ドアを閉めると緊張感から開放されたのか、ふぅぅ~と息を吐いて、クッションを枕に横たわる。
「麗奈とお別れ……」
新しい
気が緩むと涙が出そうになる。だめだ。早く自分の城を探そう。狭くても多少古くても構わないから、新しい住処を見つけて、ここを出ていくんだ。
わたしはこの間もらってきた住宅情報誌をめくり始めた。