☆第七十七章 八人目はピアノ演奏者。
ただですら、七人でも多い気がするが、わたしは八人目のキャラクターを作ってしまった。あどけない顔の童顔男子。黒い詰め襟を短くしたようなスーツと半ズボンという奇妙な格好で、金髪。楽器はピアノ担当だ。
ピアノが家にあるのかって? ない。
なんでピアノを取り入れたかというと、ベースだけthe、洋楽器でなんかもうひとつ洋楽器的なものを入れたかったからだ。ハープもいいな。オルガンもいいな。ギター、フルート、トランペット、サックス……色々悩んだ挙げ句ピアノの音を追加して、なんとか一週間で一曲完成させた。
オーケストラは バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバス、フルート、パーカッション、クラリネット、その他諸々、豊富な種類の楽器の音が混ざるが、それでもちゃんとまとまっている。
吹奏楽でもクラリネット、サックス、フルート、トランペット、トロンボーン、
ユーフォニアム、チューバ、オーボエ、ファゴットその他ホルンやらもろもろ沢山の音が混ざる。
要は、楽器が増えても調和さえしていれば問題ない。
ピアノは主旋律ではあるが、伴奏も可能だし、結構目立つ存在になるし、勝手に追加してしまったけど、出来た曲を環名ちゃんに聞いてもらう。
「環名センパイ、いかがですか⁉️」
「うん……うん、うん、まあいいんじゃない?」
なんだろう、その反応は微妙ということだろうか。
「えっと、それは六十五点くらいってこと……」
「あくまでわたし的にはね。薮内さんどう思います?」
この日は薮内さんも一緒に作業をしている日だ。彼にも聞いてもらうと、いつもどおりニコニコ顔で「八十点」と答える。
「もー、薮内さんは甘いですよ」
「甘いも何も音楽に詳しくない、僕が採点なんておこがましいです」
わたしと薮内さんのことは、環名ちゃんには秘密にしている。そのことに日々、心がチクリと痛むが、いつか言える日はくるのだろうか。言ったらどんな反応をするのだろうか。きっと、環名ちゃんなら、受け入れてくれる。そう思っていた。
しかし、現実はそんなに甘くなかった。
薮内さんが出勤の日、環名ちゃんが体調不良で休みとの連絡があった。つまり、二人きり。
環名ちゃんは大丈夫か、彼女は膠原病が完治したワケではない。いまもまだ、体調が悪い日もあるとは言っていたが、休むのは珍しい。
「どうぞ」
わたしは、薮内さんにあったかい紅茶を出した。
「ありがとうございます」
「環名ちゃん……大丈夫かな」
薮内さんは事務所にいる時は基本的に、仕事関連のこと以外話さない。だけどこの日は違った。
「優しいですね」
「え、やさ……? 従業員の体調を心配するのは当たり前かと」
急に、薮内さんに手を握られた。その手の甲に口づけをされたので、わたしはビックリした。
「すみません。今日はちょっと我慢したくない気分で」
来週がいよいよ保育士の前期試験で、薮内さんは仕事を休む。
いつもニコニコしている薮内さんが真剣な目で見つめてきて、心臓が止まりそうになる。
試験にプレッシャーを感じているのかな?
「あ、あの……」
急に抱き寄せられた。
「一分だけ許してください」
一分だけ、……いいよね。一分仕事サボるくらいで何が
「ガラガラ」
突然引き戸が開いた。そこにいたのは環名ちゃん。
「あ……」
目を丸くした彼女は、何かすべてを納得したのか一瞬、光を失った瞳をしたと思ったら急に、無言で歩き始めた。そしてわたしの元へやってきて突然平手打ちされた。
何が起こったのかわからず、ただ、叩かれた右の頬だけが痛い。見ると環名ちゃんの目に涙が浮かんでいる。
「か、環名ちゃん……あの……」
「裏切りもの」
そう言って、彼女は事務所を飛び出していった。まさか、あの環名ちゃんが……。平手打ちなんて、思ってもみなかった。見られてしまった。バレてしまった。泣かせてしまった。
「う……」
涙がたくさんあふれた。
「うええええ……ん」
「前田さん……ごめんなさい……」
翌日、環名ちゃんは仕事を無断で休んだ。