☆第九十九章 シングルファザー
冬とはいえ、暖冬で、日差しがあればあたたかい。土曜日の午前中に杏を連れて公園へ向かう。最近、てんとうむし公園に飽きたらしくて、家から少し離れた大きなあじさい公園へと出向くようになった。大きなすべり台に、ジャングルジムもある。
もうすぐ三歳になる杏はよく走るようになり、活発に遊んでいる。
土曜日の午前中に行くと、いつもいる
「こんにちは」
わたしは何気なく風夏ちゃんのパパに挨拶した。
「こんにちは」
「いつも、公園にきていて、子煩悩ですね」
「ああ、まぁうちはシングルですから」
えっ、シングル……。女の人のシングルはよくあるが、男の人のシングルは珍しい。
「そうなんですか」
「あ、いやそんな深刻な顔しないでください」
離婚したのか、死別したのかなんて聞けない。杏と風夏ちゃんは何度もすべり台を滑っている。
「わたしもシングルなんです」
なんとなく言った言葉だった。
「あ、そうなんですか」
お互い、ご近所ってわけでもない、ただの保護者同士なので、込み入ったことは聞けないし、今日はいい天気ですねーくらいの会話が一番なのだろう。
公園で杏が一緒に遊んでいる子の保護者と会話をすることは今までも何度もあった。
風夏ちゃんは毎土曜日にいる。せっかく仲良くなったから、一緒に遊べるようにわたしも毎土曜日に、あじさい公園へと連れていっていた。
「風夏は夏産まれなんでもう三歳です」
「そうなんですね。杏は一月なので来月で三歳になります」
会うたびに何か話をしている。土曜日は藪内さんは、バイトをしている。平日に就職活動をして、土曜バイト、日曜休みというスケジュールだ。
「だんだん寒くなってきたので、よかったら今度、一緒に児童センターに行きませんか?」
そう誘われたのはクリスマス直前くらいだった。