☆第百六章 保育園のプリンス。
そして、わたしの願望とは裏腹に物事は進む。藪内さんの担当するクラスは風夏ちゃんのいる三歳児クラスになった。四月にはまた変更になるが、わたしはあることに気づいてしまった。
「保育士って女の人ばっかりじゃない……」
「あー、藪内さんみたいな好青年は人気あるかもね」
麗奈と電話で話していた。
「片桐さんからその後連絡はないの?」
「ない」
「じゃあ、きっぱり諦めたんじゃない?」
「そう思いたいな」
「んで、片桐さんはともかく、まわりの保育士さんが気になるの?」
「んー……」
「もう、琴ちゃん、藪内さんは琴ちゃんにぞっこんだから。正直言ってまわりがひいちゃうくらいね」
「えっ、ひくの⁉️」
「ウソウソ、でも、琴ちゃんのこと大好きなんだな~って見てるとわかるよ」
藪内さんと一緒に暮らしはじめて、イチャイチャもするし、いちゃいちゃ……
「新婚生活はどうだい?」
「結婚してないよぉ。杏がいるから恋人同士って感じでも……」
「まぁわかるよ」
そして、わたしの予想は的中した。
「どんぐり保育園に素敵なお兄さんがきたって」
「保育士さん?」
「そうそう、背が高くてかっこいい人なんだって」
井戸端会議のおばさんたちの声が聞こえた。どんぐり保育園に素敵な保育士がやってきた。背が高くて優しい、NHKの歌のお兄さんみたいな人が……。
朝は八時出勤、夜は八時に帰ってくる。一日十二時間労働の日もあるが、
八時出勤で、昼の三時までの日もある。土曜日は担当しなくていいそうだ。
「仕事どうだった?」
「初めてのことばっかりでヒヤヒヤしているよ」
もしかしたらヒヤヒヤではなくてチヤホヤされているのかもしれないが、どんぐり保育園のプリンス様を信じるしかない。