☆第百七章 杏、三歳のバースデー、そして。
杏の誕生日は藪内さんと三人でお祝いする。
麗奈も誘ったのだが、忙しいとのことだった。平日なので仕方ない。
「ふーかちゃんは?」
娘にそう尋ねられてギクッとする。冬だから寒いから公園にはいかない日が続いていた。いつも公園で会っていた彼女に会えないことが寂しいらしい。
呼びたいな。と思ったが、当然片桐さんもついてくるだろう。
大人の都合で申し訳ないが、招待はしない。なんせ水曜日だし仕事が終わった後に
三人でお祝いをして、ケーキ食べたら寝るくらいのものだ。
杏は藪内さんのことを「こーき」とまさかの呼び捨てにしていた。
わたしが洸稀さんと言うので、こーきになったらしい。
藪内さんが笑って、いいよいいよと言うので、申し訳ないかな、呼び捨てのままだ。
藪内さんの仕事が始まってから忙しくなり、三人で出かけることは滅多にない。
ケーキは近くのケーキ屋さんの至ってシンプルなショートケーキにした。
「ケーキ、ケーキ、イチゴ!」
相変わらず果物大好き女子で、イチゴには目がない。ホールケーキの上に乗っていた8つのイチゴはすべて杏が食べ尽くした。
三歳になった杏は保育園に通っていることもあってか、言葉は割と達者だ。
「いっしょにあそぼう」
「ママ、それとって」
「赤いのイヤ、青いのがいい」
それなりに人間らしい言葉を発している。まだ少々イヤイヤすることはあるが、弟や妹がいないので、基本、お菓子やおもちゃを横取りされることはない。身長は90センチと平均的で、体重は13キロくらい。
平日なので、何かと忙しない。プレゼントは、おままごとセットをプレゼントした。
夜九時、慌ててお風呂に入れて彼女を寝かす。
「わたしたちも早く寝なきゃね」
「あ、ちょっと待って」
パジャマ姿の藪内さんが突然ひざまづく。
「これをどうぞ」
あまりに急で唖然とした。
「お姫様にプレゼントです」
「え、お姫様は杏じゃないの……」
手の上には小さな宝石箱。まさか……まさか……。
震える手で宝石箱を受け取りそっと開ける。
「ごめんね、すっごく安物でダイヤモンドでも何でもない」
指輪には宝石のようなものがついていた。
「偽物のダイヤモンドで実は四千五百円です」
「そ……そんな値段言わなくていいよぉ……」
思わず涙がこぼれる。