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第百八章 三十五歳の災難。

☆第百八章 三十五歳の災難。


先日、杏の誕生日を祝ったが、その二週間前がわたしの誕生日だ。

藪内さんは本当はわたしの誕生日に指輪を渡そうと考えていたらしいが、その日は多忙で、彼が家に帰宅したのが九時近くだったので、辞めたそうだ。



 ああ、ついに三十五歳。四捨五入したら四十だなぁって麗奈に言ったら、わたしの方が年上なんだから! と言っていた。麗奈の方が誕生日が先にくる。


 指輪の話をすると麗奈は自分のことのように喜んでいた。麗奈とは最近電話で会話している。家が遠いというほどではないけれど、近所でもない。


 指輪をもらった翌日、外に雪が積もった。珍しい。杏は目をキラキラさせているが、大人は大変だ。あちこちでスリップが発生しているのか、救急車の音がやたらと聞こえてくるのは気のせいか。


 初詣の時のおみくじで、今年は凶をひいてしまった。そのせい???

 本当に一瞬の出来事だった。横断歩道をわたって歩道を歩いていたわたしに向かってスリップした小型トラックが突っ込んで……意識を失った。



 気付いたのは病院のベッドの上だった。


 涙目でわたしを覗き込んでいたのは環名ちゃんだった。


「琴さん、大丈夫ですか⁉️」


 看護師と医者がやってきて、脳震盪を起こしたことを聞いた。


 脳震盪を起こしただけで幸い大きな怪我はないそうで、明日には退院できるとのことだった。気を失っている間に、CTとかあちこちレントゲンを撮られていたらしい。


 翌日、退院のために、環名ちゃんが迎えにきてくれた。麗奈も藪内さんも行く行くと言っていたが、ぞろぞろ行ったら迷惑だろうということで、環名ちゃんが代表で来てくれた。

杏は麗奈が一晩預かってくれていたそうだ。


 病院のロビーでタクシーを待っていると時に、まさかの片桐さんと目があった。なぜ病院に……?


 片桐さんはスーツ姿だった。ああ、そうだ確か医療機器のメーカーで働いているんだった。高性能な内視鏡や検査の機械を開発している会社。だから病院にいてもおかしくない。……って会いたくないのに!


 その場では会釈だけで声をかけてこなかったので、わたしのことはきっぱり諦めたんだと思っていた。しかし、夜、彼からメッセージが届いた。

『風夏が杏ちゃんに会いたがっています』


 困った。子どもの名前を出されると弱ってしまう。風夏ちゃんはおそらく純粋に杏に杏に会いたがっているのであろう。杏の方は風夏ちゃんのことを忘れているようだった。


『この間のようなことがなければ遊びます』


 思い切って返信した。


『この間のこととは?』


 えっ、まさかの意地悪⁉️ 天然で忘れているの? いやそんなバカな。

 返信をためらっていると、『わたしはあなたを諦める気はありません』と届いた。


 なんだって⁉️


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