☆第百十二章 引っ越しを検討。
わたしはモテるのだろうか。なんて、自分でいうには恐れ多い。藪内さんも片桐さんもわたしに近づくために引っ越した。片桐さんに至ってはそれが原因ではないかもしれないけれど、相手が近づいてきたのなら、いっそのことどこか離れたらいいんじゃないか。
わたしは日曜日、藪内さんに心の内を話した。
「僕は……、僕は自分に自信がないので、琴さんが片桐さんのこと気になるのなら仕方ないと思います」
「えっ、その……気になるとかじゃないんですが」
「だったら、放っておいていいです。家が近くてすれ違うことがあるなら、会釈程度で。声をかけられたり、誘われたら何か理由をつけて断るとか。子ども同士が仲いいのに悪いって気持ちもわかるので、杏ちゃんと風夏ちゃんが遊ぶこと自体は全然僕はいいと思います。ただ」
藪内さんの顔がわたしに近づく。そして抱きしめられた。
「自分でも知らなかったけれど、やきもちやいてしまうので、必要最低限以上、かかわらないで欲しいなって思ってしまいますね。ダメですね大人なのに」
引っ越しは保留。でも最近ちょっと思うことがあった。
動画の閲覧数が減ってきている。
そして、環名ちゃんが引っ越す。
環名ちゃんは、前澤さんと一緒に住むために新築の一戸建てを購入した。とつい先日聞いた。
場所は西区の外れ。
わたしはずっと甘え続けてこの家に住み続けるのだろうか。
「わたし、ファミリーソーシャルワーカーになりたい」
そう宣言すると藪内さんは驚いた。児童養護施設で暮らしているであろう波瑠ちゃんのことが今も気になっていた。
「ファミリーソーシャルワーカーってのは児童養護施設で働く職員のこと」
児童養護施設はあちこちにあるものではない。それに波瑠ちゃんみたいな子がほかにもたくさんいる。虐待で親と離れ離れになっている子、交通事故などで親を亡くした子、その他諸事情がある子たちが集まる。
「僕が住んでいたのが、ここです」
その施設は大阪の住之江の端っこの方だった。
「出身は大阪なんだよね」
「ええ」
「僕が久しぶりに顔を出したら……」
どんぐり保育園は大正区と西区の境目くらいにある。
わたしと藪内さんは、大正区で家を探し始めた。と、いっても藪内さんは働き始めたばかりだし、わたしは大した貯金もない。
環名ちゃんのように新築の一戸建てを購入するなんて無理だ。そこで中古の家を探した。
今の家よりは狭いけれど、二階建ての築二十年の家。で家賃は一ヶ月八万円。今まで一万円だったのが急に八万……。
一旦、引っ越しは保留になった。