☆第百十八章 前澤環名の才能。
家の一階の事務所に置かれているピアノ、そしてパソコンデスクたち。わたしが孤児院で働き初めてから、環名ちゃんが一人で作業をしている。
家は遠くなってしまったけれど毎日事務所まで来てくれるのでだんだん申し訳なくなってきた。
週四日は施設で働いて、残りの一日は事務所で環名ちゃんの手伝いをしていた。
閲覧数が少しずつ減ってきているので、環名ちゃんは試行錯誤している。
「いっそのことSprinting-Mは解散させようかな……」
時代の流れ早い。流行り廃れの中で人気のある状態をキープするのは難しい。
「サムチューブだけじゃなくてTicTicという短い動画が流行っているので、そちらに手を出そうかなあ」
彼女は結婚式の翌日からそんなことを言って悩んでいた。
「動画編集スキだよね」
「大好きです」
「前澤さんより?」
「なんて質問ですかw」
「ねぇ、環名ちゃんは歌って作らないの?」
そういえば歌声を聞いたことがない。声質的にはハスキーな曲が合いそうだが。
「一緒にカラオケでも行きます?」
驚いた。彼女の歌声はプロ歌手じゃないのか。高音が伸びる伸びる。
低音も歌える。すごい……。
拍手するのも忘れていた。
「環名ちゃんってプロの歌手だったんだ……」
「ええ? 琴さんも歌ってくださいよ」
「こんな上手い人のあとに歌えないよぉぉ」
作曲も歌も音楽の才能に長けている彼女はそういった道へ進んだほうがいいのでは。
「デモテープをレコード会社に送らない?」
「レコード会社って言い方古いですね」
「そうだ、環名ちゃん自分の歌を動画で配信しなよ」
「えっ、顔を出すんですか?」
「イヤだったらお面でもつけて……w」
「www やってみましょうか?」