☆第百十九章 藍ちゃんと奏ちゃん。
施設の中で、学校に行けていない二人がいる。小学三年生の藍ちゃんと中学二年の奏ちゃん。いずれも女の子だ。
藍ちゃんは最近永久歯が生えてきたので、わからなくなってきたが、乳歯が四本ほどなかった。耳を塞ぎたくなるような虐待の内容を聞いて、吐き気を催した。
家で監禁されていた藍ちゃんは、親の機嫌を損ねるようなことをすると体罰を与えられていた。歯は無理やり抜かれたのだそうだ。
今も捨てられた猫のような怯えた目をしている。わたしみたいな新米が近づくとビクっと身体を震わせるので、距離をおいて、ゆっくりと自己紹介をする。
「はじめまして、前田琴です。よろしくね」
彼女に勉強を教えているのはベテランの職員だ。
一方の奏ちゃんはすべてを諦めているかのような表情で滅多に笑わない。ほんの少しだけ口角をあげることもあるが、いつも虚ろな目をしている。
勉強はできるらしい。でも学校には行きたくない。
壮絶な虐待から保護された二人が親と一緒に暮らせる日は多分来ないのではないか。
他の子も、みんなそれぞれ何らかの傷を負っている。
幼児の
同じく幼児のさやかちゃんは、親二人がネグレクトでまともに世話をしておらず預けられている。
小学一年の茜ちゃんは、父親からの虐待で、小学二年の
哀しみだらけの中でも晴翔くんは明るい。おもちゃの電車で楽しく遊んでいるし、さやかちゃんも一緒に遊んでいる。茜ちゃんは、ご飯を食べるのが好きで、食事の時間はニコニコしているし、湊くんは学校であったことを色々話してくれる。
波瑠ちゃんはどうしているだろうか。楽しく過ごしているだろうか。