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余命一年のヒロイン編1-5 二重螺旋のメモリー

姫川さんは封印していた暗黒の扉を開いた。


【姫川天音 視点】

あたしは中学のとき、生徒会長としてブイブイ言わせてた。プライドの鬼だったね。孤高ってやつを目指していた。


誰にも理解されなくていい。高みを目指して雪山を登るヒョウのごとく。


あたしはロシア人クォーター。日本人のなかで生きていくには舐められたら終わり。そう思っていた。成績はつねに一位。てっぺん以外はすべてビリと同じ。


生徒会長に立候補して、自らに鉄のおきてを敷いて勉強も部活もがんばった。クラスでサルみたいに騒いで下品なジョークを言っている男子を軽蔑し、女子たちともなれ合おうとしなかった。


自分の正義を信じ、それを他人に押しつけていた。当然のごとく、学校中の生徒に憎まれていた。


気づけばひとりぼっち。ばかだったよ。あたしは本当に雪山で凍え死ぬヒョウになってしまった。


教師はあたしのことを優等生だと思っている。聖少女なんて二つ名もあったね。生徒はあたしのことを暴君だと思っている。


『本当のあなたは誰?』鏡に映る自分に問われた。


そして三年生のとき、二週間学校へ行けなくなったことがある。


理由は■■■の■■■■■侵攻。あたしはロシア人クォーター。いままでの恨みを持っていたクラスの男子たちの絶好のいじめの標的にされた。


「自分の国へ帰れよ」「住むところがなくなった■■■■■人に謝れ」って言われるの、死ぬほどつらかった。


いじめっ子はとても狡猾で、教師の前でいじめをすることは絶対になかった。

あいつらは人間というより、悪意を持ったけだものだった。


おもだっていじめをしない生徒も、それを先生に告げることはしなかった。見殺しにされた。あたしはクラス全員の悪意と敵意に包まれて絶望した。


あたしは自分のことを日本人だと思っていたのに……!


教師が家に来たけど真実を伝えることはしなかった。なにも気づいていない無能な先生を頼る気にはならなかった。


わたしはマーマと相談して転校の手続きをはじめた。


最後にいじめっ子たちにそのことを告げて、「日本人のことが大嫌いだ!」って叫んでから学校を辞めてやるつもりで登校した。


その日が最後になると思いながら……。

状況は違っていた。


ある転校生の男子があたしを見て微笑んだ。彼は背が高く短髪で鋭い眼光をしていた。


「おまえが姫川か。会いたかった。もう大丈夫だ」彼の低い声は岩のように固くなっていたあたしの心に浸透した。


こいつはなにを言ってやがるんだ? どうせいじめをする日本人の仲間だろう。と、そのときは思った。


ある男子生徒が口を滑らせた。

「学校を休んだのは■■■に帰ったんじゃなかったんだな」


転校生の男子が無言でその子に近づき胸倉をつかんだ。


「もう一度言ってみろ。人種差別野郎。姫川が日本人のこと嫌いになったら、どうするんだよ‼」


彼のダイヤモンドのような気高い精神性が、プリズムをつくりあたしの心に反射していった。その光がからっぽの洞窟になりかけたあたしの心をすみずみまで照らした。


彼はこの国の英雄、あたしの騎士ナイト。いやさむらいだった。

彼の一声で教室が静まりかえった。


彼は一瞬でクラスの男子たちを制圧した。さらに事態を担任に伝え、事件は公になった。


マスコミに知られることを恐れている校長を見て、なんてちっぽけな野郎だと思った。


配慮として転校やべつのクラスへの編入を行いたいなら黙認すると言われた。


あたしは答えた。

「いまのクラスがいい! 席は転校生の隣がいいな。彼はまだ学校に慣れていないからね」


※この作品は実在する人物・場所・事件とは関係がありません。ご了承ください。



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