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第百二十二話

結局図書館にある書物では、付与解除ディスエンチャントの方法がわからなかったので、エマと一緒に付与魔法の授業にも出ることにした。


「おや?君は見たことありますね」

ひょろっとした体格に腰まである黒い長い髪を束ねずに下ろしている男性教授。


「えっと、お会いしたことありましたっけ・・・?」

アルージェは覚えがないが、頑張って思い出す。


「えぇ、この見た目では初めてかもしれませんね。私ドルンと申します。あなたが魔法学校の見学に来た時、ゴーレムの姿でお話しましたよ」


「あぁ!ゴーレムの!あの時はお世話になりました」

アルージェがぺこりと頭を下げる。


「私は何もやってませんがね。さてここに来たということは付与魔法の勉強に来たということですか?」


「はい!ちょっとやりたいことがあるので!基礎の知識はコルクス教授から教えてもらえているはずです!」


「そうですか。鉄への付与数はいくつですか?」


「最近三つになりました!」


「よろしい。学生にしては十分頑張っていますね」


「教授は鉄にどれくらい付与できるんですか??」


「ん?私ですか?そうですねぇ、最近は鉄を触ることが減ったのでわかりませんが、五つは確実に付与できますねぇ」


「鉄に五つ・・・?、ははは、イカれてるよ・・・」

アルージェは驚きのあまり乾いた笑いが出る。


「褒め言葉として受け取っておきましょう」


「さぁ、席についてください。授業始めますよ。今日の授業は泥人形ゴーレムの作り方です」


ドルン教授が丸い土の塊を配る。


「これに付与魔法をかけることで、泥人形ゴーレムを作りますよ」

ドルンが丸い土の塊に対して、刻印系の付与魔法を施す。


「このように泥人形ゴーレムを作る場合には刻印を施します。刻印の刻み方は皆さんご存じですね。命令は自分の好きな通り書いて、私に見せてください」


教授から自由にと言われたので、アルージェはまず土の塊に対して弾性を付与する。


土の塊がスーパーボールのように地面にぶつかると跳ねる。


「よし、成功!後は動きを刻印するだけ!そうだなぁ・・・」

アルージェはどうやってこの物体を動かすかを考える。


「とりあえず、僕に追従するようにしてみようかな」

刻印をして、挙動を確認する。


「おぉ!ちゃんと付いてきてる!」

アルージェが歩くとその後ろを転がるように追従する。


「せっかく弾性を付与したし、ピョンピョンと飛び跳ねるように移動させようか」

飛び跳ねるように刻印するが、追従してこなくなってしまった。


「あれ?飛び跳ねるけど追従しないな」

アルージェがうんうん考えているとドルン教授が様子を見にくる。


「おや?変わったことに挑戦していますね」

ドルンはアルージェが施した刻印を読み解く。


「なるほど。確かに間違いはないですが、刻印同士が反発しているみたいですね」


「反発ですか?」


「えぇ、アルージェ君は刻印を使っての付与に慣れていないようですね。刻印を幾つかに分けてかくと稀に現れる症状です。一つにまとめれば動くようになると思いますよ」


教授の言うとおりに分割するのではなく続けて刻印することで動くようになる。


「おぉ!ほんとだ!」

アルージェの後ろをポヨンポヨンと追従する砂の塊が出来た。


「刻印を間違えていないのに、動かなくない時はまず一つにまとめるように心がけるといいですよ」


「ありがとうございます!でも一つにまとめると大きなものを作る時とか大変じゃないですか??」


「そうですね。なので大きなものを作る時はパーツごとに分けて作ったりするのが基本ですね。元気な学生がまとめて刻印している時もありますが、失敗した時のガッカリ感は途方もないでしょうね」


「なるほど!パーツ毎に分けて作る時ってどうやって他のパーツとの動きの連動とかどうしてるんですか?」


「むむむ、なかなか鋭いですね。パーツ毎に分けて作ると動きがさゆうで少しズレたりするので、そのために大きな泥人形ゴーレムなどにはコアをつけるのが主流ですね」


「コア?そこで全身の動きを制御するんですか?」


「そうですよ。なので最悪パーツの出来が悪くてもコアさえいいものができれば、動きの制御なんかは誤魔化せますね。逆は無理ですが」


「な、なるほど!泥人形ゴーレムなかなか奥深いですねぇ」


「アルージェ君も付与魔法沼に既にハマっていそうですね。アルージェ君ほどの知識があれば、卒業後は宮廷付与師への推薦も簡単に取れそうですが、宮廷付与師で収まりそうではなさそうですね。アハハハハハ」


「宮廷付与師にはなりたくないですね・・・、僕は元々鍛冶師なのでそれに付随して付与魔法もって感じなので・・・」


「なんと!ここまで付与魔法が出来るのに元々鍛治師ですか!」


「そうなんですよ。教授はなんで付与魔法を?」


「ん?金になるからですよ」


「金に・・・?」


「えぇ、そうです。元々私も武器に付与魔法をかけて生活していたんですけどね。あまりお金にならなかったんです。そりゃ普通に働くよりはお金になりますが、魔法学校を出てまですることかと言われたら疑問を持ちましてね。それに商売相手は冒険者やら傭兵やらで民度が低くて嫌になったんですよ。それでその時考えたんです。貴族が生活で使う魔道具製作をしたらどうだろうって、魔道具は生活を豊かにするもので貴族はそう言うものを欲しがるんですよ。そうです、貴族はお金を持ってるんです。アハハハハハ!」

ドルンがすごく悪い顔で教えてくれた。


「な、なんだか、意外ですね・・・」

ドルンの言葉にアルージェは面をくらう。


「えぇ、よく言われます。でも結局金が物をいう世界ですからね。お金で買えないものはありますが、お金で解決することは多いので」


「た、確かに!そういえば僕も魔道具いくつか作ってみたんですけど授業終わりとかに見てもらえますか?」


「えぇ、もちろん!そういう話は大歓迎です!」


「教授!いいですか?」


「はい、今行きますよ」

ドルンは他の学生に呼ばれてそちらに向かって行った。


「ア、アルージェ君、ドルン教授になんだか気に入られたみたいだね」

エマがアルージェに声を掛ける。


「そうかな?でも僕もドルン教授なんか話しやすいかもしれない。理由はどうあれ本気で物作りをしてるんだって伝わってくるんだよね」


「そ、そうだね。私も隣で聞いててドルン教授の付与魔法への熱意が伝わってきたもん」


授業終了の鐘が鳴る。


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