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第百四十七話

翌朝。


アルージェは皆よりも少し早く起きて、いつもこなしている訓練を始める。


「ふぅ」

集中する為に呼吸を整える。


そしていつものようにシェリーの影がアルージェの目の前に現れる。


アルージェは可変式片手半剣トツカノツルギをアイテムボックスから取り出し構える。


可変式片手半剣トツカノツルギ・参式=アメノムラクモ」

アルージェが呟くと、可変式片手半剣トツカノツルギの形状が変化し、二本の剣になる。


「今日こそ勝たせもらうよ!」

アルージェがシャリーの影の懐に入り、薙ぐ。

シェリーの影は軽く躱して反撃をいれる。


アルージェは剣を使っていなし、反撃を入れようとするが、すぐさまに次の攻撃がきて反撃をすることが出来ない。


だが、アルージェは影からの攻撃を全て防ぎきり、攻防が逆転する。

アルージェが二本の剣を使って、絶え間なく攻撃を繰り出す。

シェリーの影は躱しきれずに剣を使っていなし始める。

そこから更にアルージェは魔法も発動する。

シェリーの影を魔法陣が囲み、四方八方から氷の塊を飛ばす。


シェリーの影は魔法と剣の巧みな連携に耐えきれず、アルージェに笑顔を見せて消失する。


「今までありがとうシェリー。僕の勝ちだよ」

消失したシェリーの影に礼を言って、アルージェも微笑む。


「すごい激しい戦いだったね」

アインが声を掛ける。


「見てたんですね。なんか恥ずかしいな」

アルージェは可変式片手半剣トツカノツルギの形状を戻して、アイテムボックスに片付ける。


「すまないね、盗み見をするつもりはなかったんだ。初めは日課なんだろうと思って軽く見ていたが、途中から僕にも相手の影が見えてね。すごく白熱していたからつい見入ってしまったんだよ」

アインが剣に手をかける。


「どうかな?僕とも稽古しないかい?あんまり派手にやるとみんなが目を覚ましてしまうから、身体強化以外の魔法は無しってことで」


アルージェは野営地の様子を見る。

「そうですね。まだ皆さん起きていないようですし。やりましょうか!」


アイテムボックスから可変式片手半剣トツカノツルギを取り出し、構える。


「おや?鞘は外さないのかい?」

アインも剣と盾を構える。


可変式片手半剣トツカノツルギ・壱式=アメノハバキリ。これがこの剣の名前です」

アルージェの背丈には合わない大きさの剣だが、手足のように自在に振り回す。


アルージェは身体強化の魔法を自身に施し、一気に距離を詰める。


その速度にアインも身体強化を施して反応して盾で受ける。


剣の重みがアルージェの攻撃に乗り、アインの足が少し地面に沈む。


「アルージェは本当に面白いものを作るね!」

アインはワザと受け流さずに受け止めた。


盾で剣をいなしてアインが攻撃に移る。

「けど、そんな重い武器持ってたら動きが悪くなるんじゃないかい?」


アインから怒涛の攻撃が始まる。

アルージェは躱したり、剣の大きさを利用し平面になっている部分で攻撃を受ける。

反撃の余裕がある時には、しっかりと反撃を入れる。


「くっ、そこそこ大きな剣なのになかなか動けるんだね」

アインは動きは遅いものの食らうと一撃が重い可変式片手半剣トツカノツルギに苦戦する。


「けど貰ったよ!」

アインはアルージェとの打ち合いの中で、絶対に剣の軌道を変えることのできない隙を見つけ決めに行く。


可変式片手半剣トツカノツルギ・弐式=ヤタノカガミ」

アルージェが呟くとミスリル部分が盾の形状に変わり、アルージェの周りに浮かぶ。


そして、絶対に止められてないと思われた一撃をミスリルの盾が弾く。

完全に決めたと思っていたアインは剣を弾かれて、手から抜けてしまう。


「僕の勝ちです」

アルージェがデゾルブ剣をアインに向けると、アインが両手を上げる。


「いやぁ、自動で自分を守る盾なんて狡いじゃないか」

アインは笑いながら剣を拾いに行く。


「このミスリル部分への刻印、ホントありえない量刻んでますから!」

アルージェも笑いながら可変式片手半剣トツカノツルギの形状を戻し、アイテムボックスに片付ける。


時間は少し遡る。


二人が楽しく打ち合いをしている内に、エマがまず目を覚ます。


顔を洗ったり、歯を磨いたりをしていてまずは身支度を整える。


「よ、よし、アルージェ君達はどこかな?」

整え終わってあわよくばアルージェの寝顔が見れないかとアルージェを探すが、どこにも見当たらない。


「あ、あれ?アルージェ君どこだろ?」

ミスティの場所もチラリと覗こうとするがカーテンがかかっていて、中を見ることができない。


「も、もしかして、ふ、二人一緒に!?」

エマは内心ドキドキしていると、少し離れたところで金属と金属がぶつかる音がしている事に気付く。


「もしかして・・・?」

そう思って音のする方に行くとアルージェとアインが打ち合いをしていた。


エマは二人が打ち合いをしているところを眺めてしまう。


格闘技を少し齧った程度のエマにはまだ二人の凄さが呆然としかわからないが、それでもすごいということはわかる。


いつかアルージェ君と一緒に戦いたい。

エマはそんな気持ちで格闘技を始めた。


魔法をより深く学んでアルージェを後方から支援する道もあったが、隣で並んで戦いたいと思った。


だって、ミスティさんは常に短剣を携帯している。

きっと近接戦闘が出来る人だ。


自分だけ安全な場所から戦っている二人を見ているだけなんて嫌だった。


そんなことを考えていると二人の打ち合いを見ている人が居た。


「ラ、ラーニャさん」

名前を間違っていないか不安になりながらエマが声を掛ける。


「エマさん、身支度も整っていてもういつでも動ける準備ができてますね」

ラーニャはエマの声に振り向き、微笑む。


「は、はい!きょ、今日は早く起きてしまって。ラ、ラーニャさんはこんなところで何を?」


「さん付けなんてしないでいいですよ。これから当分の間一緒ですから気楽に行くましょう」

ラーニャは微笑みを崩さずに落ち着いた雰囲気で話す。


「あ、ありがとうございます。そ、それなら私にも“さん”は無くて大丈夫です」


「ふふふ、そうですか。なら私もエマって呼びますね。それで何してるかでしたね。初めはアルージェ君だけで何かの影と戦うように素振りをしていたんです。けどそれを見てアインが昂っちゃったみたいで、二人で訓練を始めちゃってたの。それでどちらかが怪我をしても大丈夫なように見守っているところですよ」

ラーニャは二人の訓練が終わるのを、ただ優しく微笑みながら見ている。


「ラ、ラーニャは優しいんですね。一歩置いて見守ることができるラーニャを尊敬しちゃいます」


「優しくなんてないですよ。私には回復魔法しかありません。それが私の役割だから、いつも一歩下がって皆さんを見ていることしかできないんです」

ラーニャが悲しそうに淡々と話す。


「痛い目を見るのはいつも前衛に出ているアインばかりで、次に攻撃を受けるのはカレン。私は二人に守られてばかりなんです。だから私は頑張っている人の足枷にならないようにこうやっていつでも回復できるようにしているだけです」


「ラーニャだって頑張ってるじゃないですか。そうやっていつでもラーニャが見守ってくれているって思えるからきっとアインさんもカレンさんも安心して全力で戦えるんだと思いますよ」


「そうだといいんですけど・・・」

エマの言葉を受けてもラーニャはまだあまり納得していない様子だった。


「そ、そんなこと言ったら、私なんて今はまだ何も出来ないです。けどアルージェ君と肩を並べて戦いたい一心で格闘術初めました!ラーニャさんも一緒に新しいことやってみませんか?」


「新しいことですか?」


「そ、そうですよ!私が王都で格闘術を学んでいた時、隣で長い棒を持って戦っている人達がいました。ぼ、棒術っていうらしいです。きっとラーニャさんにはぴったりだと思います!」


「ふふふ、楽しそうですね。あまり体を動かさないので、少しやってみてもいいかもしれませんね」


「王都に戻ってからにはなりますけど、一緒に通いましょう!」


「はい。まだ旅は始まったばかりですけど、王都に戻る楽しみが出来ました」

ラーニャに笑顔が戻った。


そうこうしている内にアインとアルージェの訓練が終わる。


「えっ、アルージェ君がアインに勝ってる?」

ラーニャの言葉にエマも視線を向けると、アルージェがアインに剣を向けていてアインが両手をあげて笑っていた。

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