王都を出発してから一週間が経った。
アインさんとは毎朝出発前に打ち合いをしている。
勝てたのは初めだけでずっと負けが続いている。
それでもいい勝負は出来るので、かなり剣術の腕が磨かれたんじゃ無いかと思う。
「そろそろみんなが起きてくる頃だ、終わりにしようか」
「はい!お疲れ様でした!」
野営地に戻る途中でエマが木の影から覗いていることに気付く。
「あれ?起きてたんだ。もしかして金属同士がぶつかる音で起こしちゃった?」
アルージェはエマに駆け寄る。
「い、いえ、そういうわけじゃ無いです」
「そっか!なら野営地戻ろ!」
エマの背中を押して野営地に戻ろうとすると、エマが突然立ち止まる。
「あ、アルージェ君!」
「うわっぷ!どうしたの?」
立ち止まったエマの背中にアルージェは激突して鼻を抑える。
「あっ、いきなり止まって、ごめん!」
エマはアルージェの方を向き、慌ててアルージェの様子を見る。
「あはは、大丈夫だよ。それでどうしたの?」
アルージェは鼻を抑えながら話す。
「あ、あのね。わ、私も明日から混ざってもいいかな・・・?」
「もちろんだよ!格闘技始めたって言ってたもんね!一緒にやろう!僕も剣術だけじゃなくて他の武器も使って訓練したいからさ!」
「ラーニャも誘っていいかな??」
「ラーニャさん??」
あまり戦いと縁が無さそうなラーニャの名前が出てきて一瞬戸惑う。
「そりゃ、もちろん大丈夫だけど。ラーニャさんってそんなゴリゴリの武闘派だっけ?」
「ううん、違う。けど一緒にやりたいから」
「ふーん。まぁラーニャさんがやるって言うなら全然僕は歓迎だよ!」
「あ、ありがとう!後で伝えてみるね!」
翌日からはラーニャとエマが混ざって朝から訓練する事になった。
「それじゃ、準備はいい?」
アルージェは短剣を構えてエマと対峙する。
「う、うん!いつでもいけます!」
アルージェは様子見の為、身体強化をせずにエマに向かって走り出す。
エマは両手に魔法陣を展開し、新魔法体系でアルージェに向かって
「やっぱり新魔法体系で魔法使えるんだ!」
アルージェは嬉しくなり笑顔になる。
エマから放たれた
エマは更に魔法陣の数を増やし、
アルージェは難なく躱してエマに接敵。
逆手で両手に持った短剣でエマに攻撃を繰り出すと、エマは拳から肘に掛けてと足先から膝に掛けて障壁を展開する。
「障壁を籠手と脛当てにしてるのか!」
エマは短剣を障壁魔法で出来た籠手で弾き、蹴りを入れる。
なんとか躱すがエマは自身に身体強化を施し、拳と足で嵐のように攻撃を行う。
「籠手と脛当て維持したまま身体強化!?どんだけ繊細に魔法操るのさ!」
アルージェは短剣を使って拳をいなし、蹴りはなるべく受けないように躱す。
躱しきれないものは、短剣と盾として使い衝撃を和らげる。
「エマすごいよ!」
アルージェはエマの魔法の完成度の高さについ笑みが溢れる。
「けど」
アルージェも身体強化を自身に施す。
アルージェはエマの攻撃を躱し隙を見て、カウンターを入れる。
エマがカウンターに怯み、攻撃の手を緩める。
そこにアルージェがフェイントを交えた攻撃を出して、さらに後ろに退かせる。
そして、背中に木がぶつかる。
ここまで下がって来ていると、認識できていなかったエマは背中に意識を向けてしまう。
「ここまでだね!」
アルージェが短剣をエマの首に突きつける。
「うぅ・・・、行けると思ったんですけど・・・」
悔しそうにエマは魔法を解除して、両手を上げる。
「魔法の操作とか完成度は本当に凄いよ。多分僕よりもうまいと思う!けど格闘がやっぱりあんまり練度が高くないね。対人での戦闘じゃなくて無くて、あくまでもルール有りの試合に向けてるからだと思うけど。きっとこのまま続けて行けばもっと強くなれると思うよ!一緒にがんばろ!」
アルージェは短剣をアイテムボックスに片付ける。
「う、うん!一緒に頑張る!」
「ふむ、なんだか二人で楽しそうだな」
ミスティがいつの間に馬車から出てきて、アルージェとエマの組み手を近くで見ていた。
「う、うわ!び、びっくりしました!」
エマがミスティに気付き、慌ててアルージェから離れる。
「おっ、ミスティさん、おはよう!」
アルージェはいつも通りミスティに挨拶する。
「あぁ、おはよう、アルージェ。私も明日から混ぜてもらってもいいか?私も少し戦いの勘が鈍っているかもしれないのでな」
「もちろんですよ!ミスティさん昔戦った時、強かったですもんね!絶対今だって強いですよ!」
「ふふふ、どうだろうな。魔法ばかりで体をあまり動かしていなかったから、あの時ほど動ける自信はないよ」
ミスティは自嘲する。
「なら明日はミスティさんと組み手させてもらっていいですか!」
「あぁ、もちろんだ。明日から少し早く起きるとしよう。マイア頼めるか?」
「はい、もちろんです。それとアルージェ様、エマ様、もう朝食の準備が出来てますので、先に召し上がりませんか?」
「本当ですか!短剣術は体をよく動かすのでお腹空いてたんです!」
アルージェは嬉しそうに野営地に戻っていく。
「ま、マイアさん!いつもありがとうございます!」
エマもマイアにお礼を言って野営地に戻る。
「いえ、これが仕事ですので」
マイアはお辞儀をして、エマとアルージェを見送る。
「お嬢様?」
マイアがミスティに声を掛ける。
「あぁ、私もスグに行く。アルージェ達の世話をしてやってくれ」
「かしこまりました」
ミスティは携えている緑色の刃を持った、漆黒の短剣を取り出す。
短剣を持って戦っていた過去の自分を思い出し、素振りを始める。