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第百四十八話

王都を出発してから一週間が経った。


アインさんとは毎朝出発前に打ち合いをしている。

勝てたのは初めだけでずっと負けが続いている。


それでもいい勝負は出来るので、かなり剣術の腕が磨かれたんじゃ無いかと思う。


「そろそろみんなが起きてくる頃だ、終わりにしようか」


「はい!お疲れ様でした!」


野営地に戻る途中でエマが木の影から覗いていることに気付く。


「あれ?起きてたんだ。もしかして金属同士がぶつかる音で起こしちゃった?」

アルージェはエマに駆け寄る。


「い、いえ、そういうわけじゃ無いです」


「そっか!なら野営地戻ろ!」

エマの背中を押して野営地に戻ろうとすると、エマが突然立ち止まる。


「あ、アルージェ君!」


「うわっぷ!どうしたの?」

立ち止まったエマの背中にアルージェは激突して鼻を抑える。


「あっ、いきなり止まって、ごめん!」

エマはアルージェの方を向き、慌ててアルージェの様子を見る。


「あはは、大丈夫だよ。それでどうしたの?」

アルージェは鼻を抑えながら話す。


「あ、あのね。わ、私も明日から混ざってもいいかな・・・?」


「もちろんだよ!格闘技始めたって言ってたもんね!一緒にやろう!僕も剣術だけじゃなくて他の武器も使って訓練したいからさ!」


「ラーニャも誘っていいかな??」


「ラーニャさん??」

あまり戦いと縁が無さそうなラーニャの名前が出てきて一瞬戸惑う。


「そりゃ、もちろん大丈夫だけど。ラーニャさんってそんなゴリゴリの武闘派だっけ?」


「ううん、違う。けど一緒にやりたいから」


「ふーん。まぁラーニャさんがやるって言うなら全然僕は歓迎だよ!」


「あ、ありがとう!後で伝えてみるね!」


翌日からはラーニャとエマが混ざって朝から訓練する事になった。


「それじゃ、準備はいい?」

アルージェは短剣を構えてエマと対峙する。


「う、うん!いつでもいけます!」


アルージェは様子見の為、身体強化をせずにエマに向かって走り出す。


エマは両手に魔法陣を展開し、新魔法体系でアルージェに向かって空気球エアボールの魔法を行使する。


「やっぱり新魔法体系で魔法使えるんだ!」

アルージェは嬉しくなり笑顔になる。


エマから放たれた空気球エアボールは直線的な攻撃なので、アルージェは容易く躱す。


エマは更に魔法陣の数を増やし、空気球エアボールをアルージェに向かって行使する。

アルージェは難なく躱してエマに接敵。


逆手で両手に持った短剣でエマに攻撃を繰り出すと、エマは拳から肘に掛けてと足先から膝に掛けて障壁を展開する。


「障壁を籠手と脛当てにしてるのか!」

エマは短剣を障壁魔法で出来た籠手で弾き、蹴りを入れる。


なんとか躱すがエマは自身に身体強化を施し、拳と足で嵐のように攻撃を行う。


「籠手と脛当て維持したまま身体強化!?どんだけ繊細に魔法操るのさ!」

アルージェは短剣を使って拳をいなし、蹴りはなるべく受けないように躱す。


躱しきれないものは、短剣と盾として使い衝撃を和らげる。


「エマすごいよ!」

アルージェはエマの魔法の完成度の高さについ笑みが溢れる。


「けど」

アルージェも身体強化を自身に施す。


アルージェはエマの攻撃を躱し隙を見て、カウンターを入れる。

エマがカウンターに怯み、攻撃の手を緩める。


そこにアルージェがフェイントを交えた攻撃を出して、さらに後ろに退かせる。


そして、背中に木がぶつかる。

ここまで下がって来ていると、認識できていなかったエマは背中に意識を向けてしまう。


「ここまでだね!」

アルージェが短剣をエマの首に突きつける。


「うぅ・・・、行けると思ったんですけど・・・」

悔しそうにエマは魔法を解除して、両手を上げる。


「魔法の操作とか完成度は本当に凄いよ。多分僕よりもうまいと思う!けど格闘がやっぱりあんまり練度が高くないね。対人での戦闘じゃなくて無くて、あくまでもルール有りの試合に向けてるからだと思うけど。きっとこのまま続けて行けばもっと強くなれると思うよ!一緒にがんばろ!」

アルージェは短剣をアイテムボックスに片付ける。


「う、うん!一緒に頑張る!」


「ふむ、なんだか二人で楽しそうだな」

ミスティがいつの間に馬車から出てきて、アルージェとエマの組み手を近くで見ていた。


「う、うわ!び、びっくりしました!」

エマがミスティに気付き、慌ててアルージェから離れる。


「おっ、ミスティさん、おはよう!」

アルージェはいつも通りミスティに挨拶する。


「あぁ、おはよう、アルージェ。私も明日から混ぜてもらってもいいか?私も少し戦いの勘が鈍っているかもしれないのでな」


「もちろんですよ!ミスティさん昔戦った時、強かったですもんね!絶対今だって強いですよ!」


「ふふふ、どうだろうな。魔法ばかりで体をあまり動かしていなかったから、あの時ほど動ける自信はないよ」

ミスティは自嘲する。


「なら明日はミスティさんと組み手させてもらっていいですか!」


「あぁ、もちろんだ。明日から少し早く起きるとしよう。マイア頼めるか?」


「はい、もちろんです。それとアルージェ様、エマ様、もう朝食の準備が出来てますので、先に召し上がりませんか?」


「本当ですか!短剣術は体をよく動かすのでお腹空いてたんです!」

アルージェは嬉しそうに野営地に戻っていく。


「ま、マイアさん!いつもありがとうございます!」

エマもマイアにお礼を言って野営地に戻る。


「いえ、これが仕事ですので」

マイアはお辞儀をして、エマとアルージェを見送る。


「お嬢様?」

マイアがミスティに声を掛ける。


「あぁ、私もスグに行く。アルージェ達の世話をしてやってくれ」


「かしこまりました」


ミスティは携えている緑色の刃を持った、漆黒の短剣を取り出す。


短剣を持って戦っていた過去の自分を思い出し、素振りを始める。




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