目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第百四十九話

約束通り、翌日はミスティと打ち合いをする。


ミスティは腰に携えている短剣を抜く。


アルージェもアイテムボックスから槍を取り出し、構える。


「ミスティさん、やっぱり強いですね」

アルージェは槍を握りしめる。


「ふふふ、お手柔らかに頼むぞ」

ミスティも短剣を握る手に力が入る。


ミスティがまず動き出す。

身体強化を自身に付与して、アルージェに接近する。


アルージェは目の前に何個も魔法陣を展開して、氷魔法で迎え撃つ。

ミスティは氷魔法の軌道をしっかりと見て躱す。

躱しきれないものは短剣をうまく使い軌道を変える。


「こんなものか?」

接敵に成功したミスティは、アルージェに挑発するように言う。


「いや、こんなものじゃ無いですよ!」

アルージェは更にミスティの周りに魔法陣を展開し、次は四方八方から時間差で魔法攻撃をする。


ミスティは飛んでくる氷塊を魔法陣の角度から軌道を予測し、全て躱す。

そして、アルージェに蹴りを入れる。


元々辺境伯家で鍛えられていた。

初めて会った時、あれだけ戦えたのだ。

当たり前だがかなり戦い慣れていた。


アルージェはミスティの蹴りを槍の持ち手で受け止めると、衝撃で後ろに少し滑る。


「あぶなっ!うわっ、折れてる『簡易付与テンポラリー=硬質化リジダイズ』してたら良かった・・・」

アルージェは折れた槍を見て呟く。


アルージェが持っていた槍の木製の柄が折れていた。


「よそ見している場合か?」

ミスティは更に加速し、体術と炎魔法を織り交ぜた短剣術でアルージェを攻める。


アルージェは折れた槍に咄嗟の判断で『簡易付与テンポラリー=硬質化リジダイズ』を施して、攻撃を逸らしながら武器を変える隙を伺っている。

だがミスティもアルージェの戦い方は分かっているので、攻めるのを止めない。


ミスティの嵐のような攻撃に、魔法を発動させるための思考も纏まらない。


「ぐぬぬ」

アルージェは苦虫を噛み潰したような顔をしながら攻撃をいなす。


その様子をラーニャに武器を持って戦う方法を教えていたアイン。

教わっていたラーニャ、そして仮想敵をイメージして訓練をしていたエマがいつの間にか視線をアルージェ達に向けていた


「あれはアルージェ厳しいだろうね」

アインが呟く。


エマはミスティの強さに驚き言葉を失う。

そして、二人の戦いの行方を眺める。


ラーニャには駆け引きなど難しいことはよく分かっていないが、ミスティが押し勝っているのは理解できる。


咄嗟の判断で簡易付与テンポラリー=硬質化リジダイズを施したので、折れた槍が壊れることはない。

だが、短槍では嵐のようなミスティの攻撃を全ての攻撃をいなすことは難しい。


アルージェは防戦一方となってしまう。


せめて短槍ではなく通常通りの長さであれば、アルージェは攻撃を受けながら閃く。


「『簡易付与テンポラリー=拡張化アームズエクステンド』」

アルージェは伸びるイメージを魔力に込める。

その魔力がアルージェの手を伝って折れた槍に伝わる。


「むっ」

ミスティがアルージェの魔力に気がつく。


折れた槍が魔力を纏い、折れた部分を補うように魔力が凝固する。

凝固した魔力をアルージェが握る。

どうやら、成功したようだ。


「ただ元に戻っただけだ。槍が接近に弱いことは分かっている!」

ミスティは攻撃の手を止めず、アルージェを攻め続ける。


「凄い」

遠くで見ていたエマが呟く。


「戻したんじゃない、魔力で拡張したんだよ」

アルージェは槍を回し、ミスティの短剣を弾く。


石突部でミスティの腹部を突く。


「ぐっ」

不意に腹部を突かれたミスティは一瞬顔を歪め、動きが止まる。


そして、石突部に魔力が集まり凝固する。

先程までただの何も無い石突部には動きを拘束する袖搦に変化していた。


動きが止まっている一瞬でミスティの衣服に袖搦を巻きつけて、ミスティを地面に倒す。


ミスティは何が起こっているのか分からないまま、地面に伏せていた。


アルージェは『簡易付与テンポラリー=拡張化アームズエクステンド』を解き、折れた槍に戻す。


「僕の勝ちです!」

折れた槍の穂先をミスティに向ける。


「くっ、私の負けだ」

ミスティは悔しそうに、短剣を腰の鞘に戻す。


「それにしてもミスティさん、昔戦った時よりも攻撃にキレがありましたね。魔法学校時代訓練とかしてなかったですよね?」

アルージェも折れた槍をアイテムボックスに戻す。


「あぁ、そうだな。全くしていなかったんだが、いざ戦い始めると体に染みついていたのだろう。体が勝手に動く感じだったな」


「ミスティさん天才肌タイプなんだ・・・、羨ましい」


「天才肌タイプ?よく分からんが小さい時、自分を守るために本気で取り組んでいたからな」


「いつも普通に忘れちゃうんですけど、ミスティさん壮絶な人生でしたね・・・」


「お疲れ!いやー、面白いものを見せてもらったよ」

アイン達はいつの間にか、こちらに来ていたようだ。


「あっ、お疲れ様です!アインさん達も終わりですか?」


「そうだね。そろそろカレンも起きる頃だろうし、今日はここまでかな」


アインの言葉でみんなで一緒に野営地に戻る。


野営地に戻ると、アインの予想通りカレンが眠そうに朝食を食べていた。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?