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第百五十三話

武器修理に三日程費やした。


アインさん達とはまだいつ出発するかは話していない。

だが、恐らくフォルスタの滞在は一週間程度で、すぐにニツールに出発だろう。


「婚約したこと、ラベックさんに報告に行こうかな」

ミスティとエマは既に出掛けていて、部屋にはルーネとアルージェしか居ない。


アルージェはチラリとルーネに視線を送ると、ルーネは目線を合わせないように丸まって目を瞑る。


「うわっ!ルーネ今絶対目を逸らしたでしょ!」

アルージェがルーネに近付くがルーネは目を瞑って開けようとしない。

だが、耳はピクピクと動いているので、アルージェの言葉を聞いているは間違いない。


「ねぇ、ルーネ!ラベックさんのとこ一緒に行こうよー」

アルージェがそう言うと、ルーネは顔を埋めて聞こえないふりをする。


「シュークリーム」

アルージェが呟くとルーネがピクリと体を震わす。


「三個」

ルーネの尻尾がパタパタと動き出す。


「五個」

ルーネは素早く立ち上がり、扉の方に移動する。


扉の前で尻尾をブンブン振りながら、いつまで待たせるんだ。早く行くぞ!と脳内に念が飛んでくる。


「もう!なんだよさっきまで全然動かなかったくせに!」

宿の外に移動してからルーネに跨り、ラベックの元に向かう。


倉庫に着くと、スムーズにラベックの元に案内された。


ドアをノックして、部屋に入るとラベックとリリィが居た。

何やら仕事の話をしていたみたいだ。

「あれ?もしかして、今は忙しいですか?」


「いや、そんなことねぇぞ!」

ラベックはここぞと席を立つ。


「あっ、まだお話は済んでいませんよ!」

リリィがラベックを止めようとするが、するりと躱してアルージェの元にやってくる。


「どうした?やっぱりフォルスタ永住か?」


「あはは、違います。実は報告がありまして」


アルージェは一呼吸置く。


「実は婚約しました」

アルージェの言葉に持っていた紙束をリリィが落とす。


「あっ、失礼しました」

慌ててリリィは落とした紙束を拾う。


「大丈夫?」

アルージェも紙を拾うのを手伝う。


「そうか、婚約か。めでたいな!んで相手は?」

ラベックは興味津々に聞く。


「相手はブレイブライン家の娘さんです。王都に行っている間、ずっと僕のこと面倒見てくれていて」


「なるほどな、貴族様か。こりゃリリィじゃ勝てねぇな。リリィ、あるアルージェは諦めて見合いでもどうだ?」

ラベックはまだ戸惑いを隠せないリリィに提案する。


「・・・。そうですねアルージェ様との結婚は諦めます。ですがお見合いは受ける気はありません。私、自分の商会を立ち上げたいと思います。アルージェ様と結婚は出来ませんが、他の方法で支えることは出来ると思います!」


「げっ、おい、リリィ本気か?」

ラベックは少し慌てる。


「はい、もちろん本気です。アルージェ様、私精一杯頑張りますので、商売で何かお困りのことがあれば私に相談してください!」

リリィはアルージェの手を握る。


「そこまで僕のこと思ってくれてるなんて・・・。気付いてなくてごめ」


「やめてください」

アルージェの言葉をリリィが遮る。


「謝るのはやめてください。私が悪いのです。王都に行くアルージェ様に父の反対を押し切ってでもついていくべきだったのに、最後は私の方へ向いてくれると思っていた自分がいました」


「・・・」

アルージェは黙ってリリィの言葉を聞く。


「貴族様と婚約すると言うことはアルージェ様も貴族になるんですよね?きっと重婚だってできると思いますが、私はアルージェ様の一番になりたかった。だから結婚は諦めます。その代わり別のところでアルージェ様の一番になります。そして絶対に私と結婚しておけば良かったって後悔させてみせます」

リリィは俯き少し沈黙するが、意を決したようでもう一度アルージェを見る。


「だけど、最初で最後のわがままです。少しだけこうさせてください」

リリィはアルージェに抱き付く。


アルージェはラベックがいるので、少し気まずくなる。

ラベックに視線を向けるが、ラベックは俺は何も見ていないと窓の外を見ている。


アルージェは抱き付くリリィを受け止めて、頭を撫でる。


一分だったか五分だったか、どれくらい時間が経ったかはわからない。


リリィがアルージェから離れる。


「もう大丈夫です。ありがとうございます。アルージェ様、物を売りたくなったら絶対に私に声掛けてくださいね」


「うん、わかった。僕付与魔法の勉強して来たから、魔道具とか色々作れるんだよね。だから辺境伯様から許可が出たら、すぐに声掛けに来るよ」


「はい、お待ちしております」

リリィは満面の笑みをアルージェに見せる。


「それじゃあ今日はもう帰るね。リリィさん、またね。」

ルーネに指示を出して、アルージェは部屋から出ていく。

リリィは満面の笑みでアルージェの姿が見えなくなるまで手を振り、見送る。


ラベックがリリィに視線を向ける。


「うぅ・・・、うぅぅぅう」

リリィは肩を振るわせ、嗚咽が聞こえてくる。


「よく耐えたな。リリィはお前は最高に良い女だよ。絶対あいつを後悔させてやろうぜ」

ラベックはリリィの肩に手を置いて励ます。


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