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第百五十四話

アルージェは部屋に戻る途中で、シュークリームを七個買うのを忘れない。


「あれ?本当に七個って言ってたっけ?」

買い終わってからやっぱりおかしいと思ったアルージェがルーネに聞き直す。

七個で間違いないと、ルーネが何度も念を送る。


「そっか、なら良いけど」

部屋に戻るとミスティとエマは既に戻って来ていた。


「あっ、戻って来てたんですね。遅くなりました」


「いや、私たちもさっき戻ってきたところだ。」

ミスティは優雅に紅茶を飲む。


奥では秘密結社らびっといあーとマイアがセカセカと動き、夕食の用意をしているのが見える。


「なんか面白いとこありました?」

アルージェもミスティの座っているソファに近づき、隣に腰を下ろす。


「やっぱり王都の方が面白いところは多いよねって話してたんですよ」

ミスティの近くにある椅子に座っていた、エマも会話に参加する。


「うむ、フォルスタは狭いから、何日もいると観光する場所が無くなるな」


「あはは、まぁ王都見てたらそうなりますよね」


「それで、今日は一段と女性ものの香水の匂いがするが?」

ミスティがギロリとアルージェを睨む。


「えっと・・・、リリィさんに会って来たんですよ。婚約の報告もしました。結婚は諦めるそうですが、以前手紙で魔道具の話をしていたからか、商売なら任せて欲しいと言われました」

ミスティの視線に一瞬言葉を失ったが、今日の出来事を報告する。


「そうか、ちゃんと話してきたならいい」

ミスティは紅茶に口をつける。


「リリィさん、貴族は重婚出来るって知らなかったんじゃ?私ミスティさんに言われるまで知らなかったし・・・」


「いえ、知ってましたよ」

エマの言葉をアルージェが否定する。


「恐らく自分だけを見て欲しかったんだろう。普通はそうだからな。どちらかというと私達が少し特殊だ」


「そ、そうだったんですね・・・」


「お待たせしました。夕食が出来ました」

マイアと秘密結社らびっといあーがテーブルに食事を運んでくる。


「いつも助かるよ」


「あ、ありがとうございます」


「マイアさん、いつもありがとうございます!秘密結社らびっといあーのみんなもありがとうね!」


皆、感謝を述べてから食事に手をつける。


食事中に扉がノックされる。


アルージェが立ちあがろうとすると、マイアに手で制止される。

「私が出ますので、アルージェ様はごゆっくりお食事をお楽しみください」


「あっ、すいません」


マイアが扉を開くと、アインの声が聞こえてくる。


「あっ、マイアさんどうも。そろそろニツールに向かいたいから打ち合わせに来たんだけど、どうやら食事中みたいだね。また後でくるよ」


「はい、伝えておきます」


マイアが戻ってくる。


「後で来てくれるなら、慌てて食べる必要もないな」

会話が聞こえていたので、マイアが話す前にミスティが答える。


「そ、そうですね」


ゆっくりと食事を堪能した後、アイン達が再度訪ねて来て合流する。


「食事後にすまないね。そろそろニツールに出発したいと思うんだけど、どうかな?」


「僕達はいつでも問題ないですよ」

アルージェが代表して答える。


「ふむ、なら早速で悪いんだけど明日の朝に出発しようか、ちょっと厄介なことになりそうだからね。ニツール側の門で集合、いいかな?」


アルージェがミスティとエマに視線を送ると、二人は頷く。


「よし、なら決まりだね。用意する暇がないと思うけど、不足分は僕たちがどうにかするから気にしないでいいよ。それじゃあまた明日!」

アイン達が部屋から出ていく。


「厄介な事・・・」

アルージェは自分絡みのことではないかと思い、申し訳ない気持ちになる。


「アルージェ、アルージェ!」

ミスティが何度か呼びかけるがアルージェは反応が無い。


「はぁ、自分の世界に入り込んだか」

ミスティがアルージェの体を自分の方に寄せる。


「うわっ!」

アルージェは驚き少し体に力が入ったが、ミスティだと気付き抵抗せずに体を預ける。


「起きてしまったことを気にする必要はない。皆了承の上で同行しているんだ」

ミスティがアルージェの頭を撫でる。


「ちょっと!子供扱いやめてくださいよ!」

恥ずかしそうに手を払おうとするが、ミスティは撫でるのをやめない。


「君は一人で抱え込もうとしすぎだ。私達をもっと頼ってくれ」


「そ、そうですよ!」

エマも近づいて来て、アルージェの頭を撫で始める。


「うわっ、エマまで何するんですか!」

手を払おうとするが、秘密結社らびっといあー達がアルージェを抑え込む。


「うさぎさん!?」

秘密結社らびっといあー達に押さえつけられたので、黙ってミスティとエマに撫で続けられる。


「うぅ・・・」

恥ずかしさで、顔を赤くするアルージェ。


「ははは、可愛いところあるじゃないか。アルージェはまだまだ子供だな」


「そ、そうですよ!一番歳下なんだからもっと私達を頼ってください!」


「わ、わかったから、撫でるのやめてぇぇ!」


翌朝、鐘が鳴る前に冒険者ギルドに足を運ぶ。

二ツール近辺で依頼が無いかを探していると、二ツール村村長からゴブリンの討伐依頼が出ていた。


「あそこはいつもゴブリンの集落が出来て、大変だなぁ」

アルージェは受付に紙を持って行く。


「アル君、もうどっか行っちゃうの?」

フィーネさんが受付をしていた。


「あっ、フィーネさん。おはようございます。そうなんですよ、少し急ぎでニツールにいくことになりまして」


「そっか・・・。アル君折角帰って来たのに、ギルドに全然来てくれないから話す機会無くてお姉ちゃん少し寂しいな」

フィーネが手を目の下に当てて泣くふりをする。


「まだいろんな道を模索中なので、やりたいことが多すぎるんですよ。すいません」


「ううん、良いのよ。冒険者は危険な仕事だから、街中で出来る仕事の方がお姉ちゃん安心!」

そういって、受注書を見る。


「ゴブリン集落の破壊・・・」

フィーネがアルージェを睨む。


「あはは・・・、お願いします・・・」


「はぁ、アインさんからアル君がすごく強くなったの聞いたけど、気を抜かないように」

受注のハンコを押してアルージェに受注書を渡す。


「はい!気をつけます!それじゃあ行って来ます!」

ルーネに声を掛けてからギルドを出ていく。


「姉の心、弟知らず・・・。はぁ」

フィーネが呟き、ため息をつく。

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