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第百六十九話

翌日


アルージェはトボトボとグレンデの家に向かう。


まだ金属を叩く音は聞こえていない。

アルージェは昨日とは打って変わって、弱々しく扉を開く。


「師匠・・・。来ました・・・。」


「んあ?ようきたな。昨日は大変じゃったな」


「ほんと酷い目に遭いました・・・」


「カカカカカ、妻ができると大変じゃな!それで、やりたかったことは昨日で終わったんか?」


「はい!怒られた甲斐有って終わりました!」


「カカか!お主懲りとらんな。それじゃあ今日は儂の作業を手伝ってくれんか?ついでにお主に教えたいことが有るんじゃよ」


「おぉ!言ってたやつですね!なんですか?」

アルージェは目を輝かせる。


「鎧の作り方じゃ。今まで武器ばかりだったから教えていなかったが、そろそろ学んでもいいと思ってな」


「鎧・・・?僕には必要ないけどってことですよね?」


「そうじゃ、お主の戦い方では使わんかもしれんが、知っていて損はないじゃろ。武器と鎧の手入れも出来てようやく一流の鍛冶屋じゃよ」


「なるほど・・・、確かに興味あります!教えてください!」


「良かろう。では鍛冶場にいくとするか」


グレンデから懇切丁寧にヤジを飛ばされながら鎧の作り方を教わる。


武器と同じように叩くには変わりないが、人の体に形を合わせる必要があるため非常に繊細で緻密な動きが必要だった。


「ぐぬぬ、これはなかなか肩が凝りますね・・・」


「じゃな、儂も鎧を作るのは得意では無いが、鍛冶屋をしていると鎧を直してくれとも頼まれるでな」


「やっぱりそうですよね。まぁ確かに鎧を着ている人達からすればこれが命綱ですもんね」


「そうじゃな、人を守るものじゃから手を抜くでないぞ。まぁアルはそんなことせんとは思うが」


「あはは、確かに手を抜くって鍛冶してる時はないかもしれないです。自分の命かかってますからね」


カンカンと金属を叩き、初めての鎧を完成させる。


「なるほど。鎧のことは調べたことなかったので、武器作るより難しいかもしれないです。今後はもっと鎧のこと調べてみないとなぁ」



「カカカカカ、いい向上心じゃな。これが一般的な騎士なんかが使っている鎧じゃ。何かあれば直せるようになるじゃろ。さぁ今日出来るだけ作らんと大変なことになるぞ!明日もくるんじゃろ?」


「げっ・・・、もしかしてどっかからの依頼ですか・・・?」


「辺境伯からの依頼じゃわい。お主にも手伝ってもらうぞ」


「はぁ・・・、弟子使い荒すぎですよ・・・」


「弟子が文句言うでない!カカカカカ」


「ん?あれ?辺境伯様からの依頼ってことは師匠がここにいるって辺境伯様は知ってるんですか?」


「んあ?そりゃそうじゃろ。何か迷惑掛けたら困るから、ここに来た後で挨拶にいったからの」

グレンデは口を動かしながら作業のために手も動かす。


「はぇー、辺境伯様って本当に偉い人なんですね・・・。なんか家に押し掛けるのまずい気がしてきました・・・。絶対に今の僕だと迷惑かけちゃうし・・・」


「カカカカカ、大丈夫じゃよ。最近のあやつからは娘のことが大好きな雰囲気が伝わってくるからの。あのミスティってのは辺境伯の娘じゃろ?どことなく雰囲気が似ておるわ」


「辺境伯様、意外と親バカなんですね・・・」


「んあ?そういえば依頼を受けた時、娘を任せたいと思える人が出来たとも言っていたな。それもあやつに決闘で勝ったとかなんとか・・・。もしかしてアルのことか?」


「そういえば、辺境伯様と決闘しましたね。向こうも殺す気が無かったので、なんとか勝てたって感じですね」


「そうか、そうか!そりゃ傑作じゃ。鍛冶屋が軍師に勝つか。長生きしてみるもんじゃな」


「??」

アルージェは首を傾げる。


「いや、気にするでない。それより今日の分のノルマを終わらして、家に戻らないとまた辺境伯の娘にドヤされてしまうぞ!」


「うわっ、本当だ!」

アルージェは必死に鎧を作る。


そしてなんとか今日の分ノルマを達成して、家に帰る。

ミスティにちょっとだけ小言を言われたが、怒られたには入らないくらいなので問題ないだろう。


鎧を作り始めて、三日が経った。

グレンデの家に向かう途中、広場でサイラスに声をかけられる。


「お、おい!アルージェ!助けてくれ!」

何処から全力で走ってきたのだろう。

サイラスは息が上がっている。


「あれ?サイラスどうしたの?」


「どうしたもこうしたもねぇよ!あの女えげつねぇじゃねぇか!」


「えげつない?なんかあった?」


「強すぎる・・・。それにやたらと厳しい・・・。みんな農作業よりきついって嘆いてるぜ」

サイラス自身も思い出しながら震える。


「言ったじゃん!自分の心配した方がいいって!」


「助けてくれよぉ!」

サイラスがアルージェの脚に捕まる。


「サイラス、こんなところにいたのか。探したぞ」

サイラスは体をピクリと振るわせ、壊れた機械のように振り返る。


「あっ、ミスティさん。おはようございます!朝早いですね」


ミスティは初めて会った時と同じ服。

体のラインにぴたりと張り付くゴムのような素材の服を着ていた。


「あぁ、アルージェもいたのか。今日はアルージェも一緒に訓練か?」


「いえ、今日も師匠の所に行きます。サイラスとは会って話してただけですよ」


「そうか、ちゃんと今日も早く帰ってくるんだぞ」

ミスティは自分に出来ることが無いと嘆いていた時とは違い、表情も明るかった。


「善処します!それじゃ、サイラス頑張って!」


アルージェは脚に捕まっているサイラスを除けようとする。


「いやだぁぁぁぁぁ!もう勘弁してくれぇぇぇぇ!」

アルージェの脚に必死に捕まりながら、首をブンブンと横に振りサイラスは叫ぶ。


「それだけ元気があるんだ。訓練の強度をいつもの倍にしても耐えられそうだな」

ミスティが体に魔力を纏って、身体強化をする。

そして、アルージェの脚に引っ付いているサイラスを剥ぎ取り。

訓練場に引きずっていく。


「アルージェぇぇぇぇぇぇ!助けてぇぇぇぇ!助けてくれぇぇぇぇぇ!アルージェぇぇぇぇぇぇぇ!」

サイラスの叫び声は少し離れたグレンデの家に着くまで聞こえていた。



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