目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第百八十二話

風呂から上がりミスティに辺境伯様の書斎まで案内してもらう。

アルージェがノックすると中から「どうぞ」と返事が有ったので、部屋に入る。

「遅くなりました」


中に入ると、辺境伯とアイン達も待機していた。


「来てくれたか。待っていたよ。そこに掛けてくれ」

机で仕事をしていた辺境伯はアルージェに気付き、ソファに座るように促す


「あっ、ありがとうございます。失礼します」

「し、失礼します」

アルージェとエマは一言言ってからアイン達が座っている対面に腰を下ろす。

ミスティは何も言わずにアルージェの横に腰を下ろす。

ルーネはソファの横でお座りをして、マイアはソファの後ろに立つ。


「近くで見るとほんと大きな狼だね。それにアルージェ君を信頼してるのが伝わってくるよ」

辺境伯はルーネに視線を向けながら、近づいてくる。


「あはは、ルーネって言います。ニツールを出てから初めて出来た仲間なんですよ」

アルージェはルーネを撫でる。


「アルージェ君は二ツールの出身だったのか、また食事の時に話を聞かせてもらいたい所だな。さてとそれそれとして今回集まってもらった理由だが、少々重たい話なんだ」

辺境伯は言葉を区切ってから続きを話し出す。


「最近隣国の動向が怪しい。具体的に言うと聖国と呼ばれる宗教国家なのだが、物資などを移動させていて戦争を起こす準備をしている可能性がある。ただ戦うにしてもそれなりの理由があるはずなのだが目的がわからなくてどうしたものか悩んでいるところだ」


それを聞いたアルージェ達は苦笑いをする。


「せめて、狙いだけでも・・・。ん?なぜみんな苦笑いなのだ?何か知っているのか?」

辺境伯は皆が一斉に苦笑いしたので話を止める。


「実は・・・」

アルージェが魔法学校からニツール、そして辺境伯邸に来た理由を話す。


「ふむ、にわかには信じられない話だが、アルージェ君を殺すために聖国が動いている。こういう認識で間違いないかい?」


「はい・・・」

アルージェは事前にミスティが手紙を送ったと言ってたので、全て話しているものだと思っていた。


「アルージェ君の話が本当だとして、聖国はなんでアルージェ君を狙うんだろうか?」


「えと・・・」

アルージェは言葉に詰まる。

神様と直接話したなんて言っても信じてもらえるだろうか。


そっとミスティがアルージェの手を握る。

アルージェがミスティの方へ視線を移すとミスティが頷く。


「僕自身聖国には行ったことないので詳しくは分かりませんが、聖国には神子みこって人がいるんですよね?」


「ん?あぁ、私も直接は見たことないが聞いたことがあるな。神から神託を受けることが出来るとかどうとか」

辺境伯が聖国の神子について知っていることを思い出す。


「辺境伯様のおっしゃる通り、神子とは神からの神託を受けることが出来る人のことを言います。ですが、その神託は神から一方的に送られてくる物で且つ直接的な表現はほとんどないと言われています。なので、かなり遠回しにアルージェ君を殺せという神託が神子には降りているはずです」

ラーニャが神子について詳しいことを教えてくれる。


「僕もそういう風に聞いています。なので今まで時間がかかったんだと思います。学園に居た時に神託が出されて、すでに一年以上は経ってますから」


「なるほど、信憑性は薄いが、その線で早急に諜報部隊に調査を依頼してみるとしよう」

辺境伯がアイテムボックスから紙を出し、一筆認める。


出来た手紙を窓の外に放り投げると、隼のような鳥が現れて手紙を咥えて何処かに運んでいく。


「あの迷惑でしたよね・・・?」

辺境伯にアルージェが尋ねる。


「ん?迷惑な訳無いだろ。愛娘の婚約者が命を狙われているのなら、助けるのは当たり前だ。まさかアイン達も知っていたのか?」


「えぇ、アルージェと一緒に王都を出る前に何と無く話を聞いていたので」


「なるほど、ならアイン達も危険に巻き込まれることは承知の上ということだね」

辺境伯はなにやら物騒なことを話している。


「正直聖国の奴らがいつ攻めてくるかわからない。私の仕事はこの国が戦いの準備が終わるまで時間を稼ぎ、守ることだ。けど聖国の目的がここにいるなら王都にまで攻めていくことは無いだろうし、何より戦いやすい。戦いになったら皆には参戦してもらおうと考えている。アイン達も冒険者だからって拒否権はないぞ?」


「えぇ、僕達も逃げるつもりはありませんよ。俺達の可愛い後輩が命狙われてるんですから。な?」

アインがカレンとラーニャに視線を送る。


「んー。私としては戦いは避けたいけど、生徒だけで戦いに行かせるのもなんか違う気がするのよね」


「私も戦いには反対ですが、守るためなら仕方ないと思います」

カレンとラーニャは戦いには賛成ではないが、一緒に戦ってくれるようだ。


「ふむ、可愛い後輩か。そういえばアルージェはアイン達と一緒に来ていたね。その辺りも食事の時に聞かせてもらおうかな。それと遅くなったけど、こんな田舎でこんな時世だが我が家だと思ってゆっくりしていってくれ。皆を歓迎する」


「ありがとうございます!」

アイン一行とアルージェ一行は声をあわせて辺境伯に感謝を述べる。


その後少しだけ戦争になってしまった時の話や、使ってもいい施設の話があった。

いつの間に結構な時間が経っていたようでメイドが食事に呼びに来た。




この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?