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第100話、つけられた目


 神殿騎士ケイルは、ワイバーンを操り、高空へと飛び上がった。離れていく蒸気自動車を尻目に、念話を繋ぐ。


「私です。例の独立傭兵らしき者たちと接触しました」

『そうか』


 念話の返事が帰ってくる。相手は、聖教会神殿騎士団、青の団長シデロスである。


『どんな様子だった?』

「人数は四人。一人はドワーフで、ハンター証を持っていました。が、二人は独立傭兵を名乗りました」

『最後の一人は?』

「不明です。幌の中で姿を直接見ておりませんが、魔力探知で反応がありましたから、搭乗していたのは間違いありません」


 ケイルは事務的に答えた。あまりジロジロ見て、怪しまれてはいけないと振る舞いには注意していたのだ。


『独立傭兵……。パトリの町にいたという者たちで間違いなさそうか』

「蒸気自動車という点だけで、ほぼ確定かと。ドワーフと男女、四人組……」

『一致しているということか』


 念話のシデロスは慎重な調子だった。

 パトリの町でのモリュブ・ドス卿の死と、同町の教会の壊滅。その犯人が悪魔であり、シデロスらが追っている暴食の可能性はかなり高かった。町での情報収集の結果、またも暴食の行くところに独立傭兵がおり、こうして目星をつけたのだが――


『それで、いま奴らは?』

「魔女の棲まう谷から戻ってきたところのようです。山道へ戻っていますので、そちらでも捕捉できるかと」

『ふむ……。魔女に遭ったか』

「あるいは、白の魔獣を前に引き返したか」


 紅の魔女が、霧の谷の奥深くに隠れ住んでいることは、神殿騎士団も把握している。だがそこへ行くためには、魔女の用意した白の魔獣が阻むため、神殿騎士といえど容易ではない。


「彼らは、谷の探索依頼のために来た、と言っていましたが……」

『嘘だろうな。そのような依頼はあれば目立つからな』


 紅の魔女に関わる依頼があれば、聖教会の耳にも入る。あの魔女を探ろうという者たちにろくな者はいない。聖教会の敵になる得る存在なので、それを炙り出す意味でも、ハンターギルドのそうした依頼には、神殿騎士団は目を光らせている。


『我々に嘘をついた』

「そうなります」


 ケイルは認めた。


「聖教会の神殿騎士を相手に嘘をついたのですから、程度の差はあれ、反社会的活動に身を置いている者として、逮捕できます」

『そうだ。我々の探す暴食でなかったとしても、取り調べをすることは可能だ』

「暴食かはわかりませんが、可能性は高いでしょう」

『というと?』

「奴――独立傭兵と名乗った男から、同族の臭いを感じました。人の姿をしていましたが、おそらく……」

『悪魔か』


 シデロスの念話は続けた。


『気づかれぬよう、奴らを見張れ。何か変化があれば、連絡せよ』

「承知しました、シデロス卿。交信終了」


 念話を切り、ケイルは視線を転じた。高高度より、移動する車を見下ろす。人が見えないほど小さいのだが、乗り物のおかげでその動きは追えた。


「さて」


 彼らの行き先には、シデロス率いる青の部隊が待ち構えている。果たしてどうなるのか。探している暴食か否か、見物だとケイルは思った。



  ・  ・  ・



「……尾行されているな」


 ラトゥンは、魔力の波を飛ばし、その反射でそれの存在に気づいた。見上げたところで、点以下にしか見えないそれは、先のワイバーンだろう。


「何じゃ?」


 運転席のギプスが聞いてきたので、ラトゥンは腕を組んだ。


「さっきの神殿騎士とワイバーンだ。あれが遥か上空で、俺たちを見張っている」

「バレたのか!?」


 後ろでクワンが毛布を被る。


「まだ、おれを追ってる?」

「さあな、追われているのはお前か、それとも俺か」


 神殿騎士団は、暴食を追っている。彼らは暴食の後を追いかけているだろうから、油断ならない。

 身バレするようなヘマをしたおぼえはない。だが、パトリの町の町長がベラベラ喋ったり、あるいは町の住民への聞き込みで、目をつけられる可能性はなくもない。


「わしには、まだ聖教会が敵か否かは、よくわからんのじゃがな」


 ギプスは言った。


「お主らが、奴らが悪魔とそのお仲間じゃというのなら、まあそうなんじゃろうて」

「信じてくれてありがとう」


 皮肉げにラトゥンは返した。


「だが、知らないほうがあんたには安全だったかもしれない」

「乗りかかった船じゃがらな。お主らの言うとおり、聖教会が悪魔の巣窟じゃとしたら、そのまま見て見ぬ振りもできんじゃろうて」

「まあ、もう巻き込んでしまったからな」


 空から監視されているとなれば、もうギプスも彼らにマークされていると見たほうがいい。バレたかどうかは関係なく、すでに睨まれているのだから、頭を切り替えないといけない。


「ワイバーンは偵察要員だろう。どこぞへ連絡の途中なら、当に去っているだろうからな」

「偵察ということは……本隊は別におるかのぅ」

「待ち伏せされているだろうな」


 ラトゥンは首をかたむける。


「この辺りは、道が限られているようだし、このまま行けば、時間の問題だろう」

「黙って捕まるつもりはないんじゃろ?」

「愚問だ」

「なら、一戦もやむなし、じゃな」

「だが戦えば、間違いなくお尋ね者だ。俺は姿を変えれば済むが、皆はそうはいかないだろう」


 ちら、と後ろのエキナを見た後、ラトゥンはギプスを見た。


「どうする? 俺たちとここで別れて、知らぬ存ぜぬで平和に生きていける道もあるぞ」

「お尋ね者は嫌じゃわい」


 ギプスは笑った。


「じゃが、生憎と未練もないんじゃなこれが。付き合うぞぃ」

「本心から言えば、本意ではないんだが、あんたの決めたことだ。尊重する」


 ラトゥンは正面を見据えた。


「とはいえ、待ち伏せされているのを、どう突破するか、なんだよな、問題は」

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