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第123話、廃墟の村を去って


 ランサの村は廃墟になったが、ラトゥンが教会で戦った炎の悪魔以外に、聖教会の武装神官や神殿騎士団などは見当たらなかった。


 あの悪魔が単独行動だったとは考え難い。小部隊でこの村にやってきたところを、教会に駐留していた頭巾の魔術師が全滅しているところを発見。さらに侵入者の形跡が見られたから、村の施設の放棄を決定。その処分を炎の悪魔に任せて、部隊は撤収した……と見るのが妥当だろう。


 炎の悪魔がいつまでも帰ってこないとなると、もしかしたらその部隊が戻ってくるかもしれない。だが少なくとも処分を待たず去ったところからして、異変に気づいたとしても、一日二日は余裕があるはずだった。


 その間に、ラトゥンたちは教会跡地、その地下を探って、魔力を蓄えていそうな触媒を探した。


「……駄目そうだな」


 クワンは、何とも言えない顔をして、教会地下の自動人形兵製造施設を眺める。こちらも灼熱の業火に焼かれ、形が整っていない。


 組み立て途中のものはおろか、完成した自動人形も部位のところどころを溶かし、使い物にならなくなっていた。

 機械に詳しいギプスも――


「これでは手の施しようがない」


 アイガーの魂を封入したエポドスもまた、金属が溶けてただの残骸となっていた。


「これは、どう弔うのがいいんだろうか」


 ラトゥンが言えば、アリステリアが小首をかしげる。


「このまま埋める、とか……?」

「金属じゃぞ」


 ギプスは眉をひそめた。


「それを墓に入れてものぅ……」


 果たして機械のままで埋葬するのが正しいのかもわからない。そもそも自動人形を埋葬するなんて事例は、前代未聞であろう。

 結局、ここで使えそうな、というより形が残っていたのは――


「魂を入れる透明ケースが二個」


 エキナがそれを持った。表面が多少煤けているが、無事だったものがこの二つ。


「駄目ね、触媒にはならなさそう」


 アリステリアは首を横に振った。ケースは所詮、魂を保存するためのものでしかない。


「自動人形兵!」


 ギプスが見つけたのは、置かれていた場所がよかったのか、運良く燃えなかった自動人形兵が一体。これもまた表面が多少焼けていたものの、中の機械部品は壊れていないようだった。


「こいつの隣にあった奴は、半分焦げておったが、その部分の部品は駄目じゃったが、焼けてない部分の部品は問題なさそうじゃった」

「魂は、まだ封入されていないようですね」


 アリステリアが、しげしげとその自動人形兵を見つめる。クワンは顔をしかめた。


「ギプスの旦那。こんなもの持ってきたって、おれたちが探している触媒にはならないんじゃねえの?」

「それは素人の意見じゃな」


 ギプスは舌を鳴らした。


「この自動人形をざっと見たところ、魂をエネルギーに変換するための魔石が組み込まれておってな。魂は入っとらんものでも、魔石は魔石じゃ。多少は魔力になるんじゃないか?」

「ええ、多少は」


 アリステリアは頷いた。


「でも、これは……必要とする分にはまだ足りないですね。使えはしますけど」

「それなら、その魔石、残っていないのか?」


 ラトゥンは口を開いた。


「自動人形兵に組み込まれるパーツなら、どこかにそのパーツが用意されているだろ」


 塵も積もれば山となる。一つ一つでは足りなくても、集めればそれなりになる。

 しかしギプスは眉を下げた。


「そう思って、もう探したんじゃがな。しっかり燃えて使えないようになっておったわい。魔石は魔力の塊じゃからのぅ。高温でよう燃えてしまっておった」

「駄目じゃん……」


 ガックリ肩を落とすクワン。ラトゥンは慰めた。


「ないよりマシだ。この一個が、のちの役に立つこともあるかもしれない」

「魔力はあればあるだけいいですからね」


 アリステリアもにっこり笑みを投げかけた。


「どんなものでも歓迎すべきですよ」

「……聖女様がそう言うんならね」


 クワンは肩をすくめた。



  ・  ・  ・



 他にめぼしいものはなく、クワンの体を戻す儀式を行うだけの魔力を見つけることはできなかった。

 聖教会が不審がる前に、ランサの村だった場所から立ち去る準備をするラトゥンたち。ギプスは目を回した。


「それを持っていくのか?」

「何かの役に立つかもしれないので」


 そう答えたエキナは、魂を入れる透明ケースを抱えていた。ギプスは鼻をならす。


「何の役に立つと言うんじゃ?」

「魂を扱う道具なんて、思い切り処刑用道具じゃないですか」


 エキナは答える。


「わたし、こういうのを一日持っていると自在に取り出せるようになるんですよ」


 いわゆる処刑技。それに用いる武器や道具を、エキナは魔法のように取り出す。断頭台の刃や銃、絞首刑用のロープなども、そうやって習得したのだ。


「それは魂を入れるためのケースじゃろ。そんなものが武器になるのか?」

「魂を閉じ込めておく道具に使えるんじゃないですか? ……生き物から取り出す術は知りませんけど」


 エキナは舌を出した。


「案外、ゴーストとか、実体のない化け物を捕まえられたりできないかなって思ってます。機会があったら、試したいですね」

「ほっ、それは確かに捕まえられたら、何かに使えるかもしれんのぅ」


 それで一応ギプスは納得した。

 蒸気自動車に全員が乗り、やがてランサの村だった廃墟から離れた。

 荷台ではアリステリアが小さくなっていく村に、神への祈りの言葉を送っていた。クワンは無感動に、エキナはかつての故郷を思い出し、村を見送った。

 ギプスは運転をしつつ、ラトゥンも振り返らなかった。


「お主は、平気か? ……知り合いがおったんじゃろう?」

「別に親しかったわけじゃない。名前以外、知らない奴だった」


 神殿騎士アイガーのことは、送り出した手前、若干の後ろめたさはある。だが悪いのは聖教会であり、報復のリストがまた長くなった。


「それより、前にも気をつけてくれ。聖教会の部隊とぶつかるかもしれないからな」


 炎の悪魔が合流しないことで、様子を見に戻ってくる可能性はある。

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