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第130話、まずは調べること


 ギプスが宿を見つけ、ラトゥンたちもそちらへ移動した。

 宿につく前、一度クワンが町の裏へと消え、その後、宿の前で合流した。フェイスペイントを落としてきたのだ。泊まる前に、激烈な印象を店員に残さないためだ。


 いざ、敵に捜索されることになった時、あの目立つ姿では足がつきやすい。入った時と違う姿で活動するのは元々の想定。カモフラージュの一つである。

 二部屋を借りたが、五人は男たちの借りた部屋に集まった。


「さて、これからの行動だが……」


 ラトゥンが口を開けば、クワンが手を挙げた。


「まずは偵察だろう? 王都の最新の情報を仕入れる」

「こいつに同意じゃ」


 ギプスは言った。


「ここにおる者は、王都を離れて久しいじゃろう。これから何をするにしても、王都の状況や、聖教会のここ最近のことを知っておくのは役に立つじゃろう」

「隙が見つかるかもしれませんからね」


 エキナは頷いた。


「何か集会とかあれば、つけ込めるかもしれませんし」


 そう言われては、ラトゥンも認めないわけにはいかなかった。はやる気持ちを抑え、確実な行動を取る。こちらは多勢に無勢。大聖堂には上位悪魔もゴロゴロしているだろうから、暴食の力に頼らなくてはならない場面も多くなるかもしれない。その使用回数を減らしたいと考えているから、慎重に、的確に、やり遂げることが重要だった。


「情報を集めるのは、ハンターの基本でもあるからな」

「独立傭兵じゃろ?」


 ギプスの指摘に、元ハンターであるラトゥンは眉を動かした。


「何でも同じさ」


 まず情報を集めるということで、意見の一致を見た。次にどこを調べるか、だが――


「わしは、ハンターギルドを調べてこよう」


 ギプスは挙手した。


「王都にきたばかりのハンターが、顔を出さんのもおかしな話じゃしな。ギルドなら色々な噂話が入ってくるじゃろうて」


 酒場に並んで情報収集に向いているハンターギルド。特に物騒な話や、王都で起きている些細な問題、事件などもクエストを通じて推し量ることもできる。


 元ハンターだが、今は独立傭兵であるラトゥンにはギルドでの調査はできない。ハンターは独立傭兵を嫌っているからだ。

 エキナが口を開いた。


「聞き込みはクワンさんに任せるとして、わたしは教会関係の施設を、遠巻きに観察してこようと思います」


 かつて王都で処刑人をしていたエキナである。場所は知っているし、以前との違いもわかるだろう。おあつらえ向きに、当時の彼女は処刑人の仮面をしていて、顔がバレていない。


「それじゃ、俺は――」

「ラトゥンは、アリスと一緒に、クワンさんの呪い解除に使える魔力のある触媒探しをしてください」


 エキナは遮ると、そう告げた。


「だって、ラトゥンは教会と見ると情報探るより、飛び込んでしまいそうですもの」

「それは――」

「嬢ちゃんの言うとおりじゃぞ、ラトゥン」


 ギプスは真顔だった。


「お主、少し目を離すと自分だけで突っ込む癖があるからのぅ。ある程度情報が集まるまでは自重せい」


 先日のランサの村の夜間潜入の件もあって、ラトゥンには、ギプスらの指摘を否定できなかった。


「じゃあ、わたくしもラトゥンと一緒に行動?」


 アリステリアが確認すれば、エキナは頷いた。


「はい。あなたも王都では有名人ですから。何かあった時、腕っ節の強いラトゥンがいたほうがいいと思います」


 ちら、とエキナはクワンを見た。不躾な視線に感じて、クワンが「何だよ?」と聞くが、エキナは何でもないと首を振った。


 大方、クワンに触媒探しをやらせるとそちらばかりやって、王都の情報収集の手を抜くのではないか、とラトゥンはエキナの考えを推測した。


 ――互いに信用されていないな。


 本人が一番やりたいことをやらせないことで、勝手な行動を押さえようという魂胆だろう。ラトゥンが大聖堂へ突撃してしまうのではないか、という危惧と同様、クワンが呪い解除の触媒を早々に手に入れたら、教会関係の情報収集をやらないかもしれないという推測である。


 歯がゆくはあるが、ラトゥンはその方針に乗る。暴食についてその力に頼ることに危険な兆候を感じている今、慎重になる必要があった。



 ・  ・  ・



「――ということで、お出かけね、ラトゥン」


 アリステリアは体の後ろに手を組んで、上目遣い。


「これって、巷で言うところのデートってやつなのかしら?」

「デート……?」


 そうなのか――ラトゥンは戸惑った。若い男女が付き合って、交際する。親密になっていく行動……。それはわかるのだが――


「異性と出かけることを、デートというのであれば、そうかもしれない」


 デートと明言したわけではないが、異性と買い物に出かけたり、遊びに付き合ったことは、あまり多くない。

 それもデートに入れていいなら、ラトゥンは素人ではない。強く意識していない時点で、デートではないというのなら、残念ながらラトゥンは素人になるが。


「じゃあ、エスコートしてくださる? わたくし、デートは経験がないの」


 アリステリアはラトゥンの腕に手を回した。こういうところをエキナに見られたら渋い顔をするのだろうな――とラトゥンは思う。


「護衛という名のエスコートなら喜んで。ただ、俺は王都は初めてで、どこに何があるか知らない。リードという名のエスコートは、残念ながら期待されても困る」

「わたくしも言うほど詳しくないのよね」


 基本、教会関係の施設にいたことの方が多く、外に出ても行事や仕事ばかり。自由に出歩いたり、好きなところに出かけたというのはほとんどないアリステリアである。


「適当にぶらつこっか」


 屈託なく笑うアリステリアである。だが何の目的もなく歩くというわけにもいかない。


「儀式に使えそうな触媒となると……魔術師用の杖とか、魔石とかそういうのがある場所になるか?」

「そうね……。町でそういうのを取り扱っているお店とかあるのかしら?」

「武具屋なら、市販レベルだが魔術師用の杖はあるだろう。……いや、魔術師装備関係だから、そういう店じゃないとないか」


 普通の武具屋の扱う武器や防具は、普通の戦士やハンターが行くもので、魔術師や魔法戦士向けの品はあまり多くない。掘り出し物がある可能性もあるが、期待はしないほうがよい――というのが、ラトゥンのこれまでの経験である。

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