宿を脱したラトゥンとアリステリアは、別の路地に潜んでいたエキナと合流した。
これからのことを考えて、まずはギプスとクワンと合流すべきだという結論に達したものの、問題はある。
「どこに行けば、合流できるか?」
これである。ギプスはハンターギルドに行った。クワンはフィエブレの残党が残っているか、また聖教会についての情報収集に出ており、具体的にどこにいるのか見当もつかない。
「何かがあった時のために待ち合わせの場所を考えておくべきだった」
今さら言っても仕方がないが。
「わかっているハンターギルドに行ってみる?」
アリステリアが提案したが、エキナは首を横に振る。
「ハンターが手配書を持っていましたから。さすがに今もギルドにいるとしたら、捕まってますよ」
すでに逃れている――そう信じたいが、ギルドに入ったところで捕まっている可能性も考えれば。
「一度、様子を見に行ったほうがいいかもしれない」
「ですが、ラトゥン。行ってもわたしたち、独立傭兵ですし、そもそも手配されているので、ギルドの建物に入るのは危険過ぎませんか?」
「俺が顔を変えて、ハンターに新規登録する。それならギルドのフロア内を見回しても、怪しまれない」
「姿を変えられるって便利ね」
アリステリアが言った。エキナは口を開く。
「行っても、ギルドフロアにギプスさん、いないんじゃないですか?」
捕まっていたら、すでに神殿騎士に連れ出されていたり、あるいはギルドの奥、捕まえた賞金首を拘留しておく牢に入れられているかもしれない。しかしそれは、フロアからはわからない。
「なに、クエスト掲示板か、お尋ね者板を見ればわかるさ」
ラトゥンは手配書をヒラヒラと振ってみせる。
「ハンターギルドには、こういう賞金首の手配書が張り出されている掲示板がある。ギプスが捕まったなら、彼の手配書は取り除かれているはずだ。それが残っていれば、まだ捕まっていないということになる」
「なるほど!」
エキナが顔を綻ばせた。
「それで、ラトゥンはギルドに行くとして、わたしとアリスはどうしましょう? クワンさんが宿に戻ってくるかもしれないので、近くで見張っていたほうがいいですか?」
「あの宿の監視は増えるから、できれば離れたほうがいい」
現場近くに留まっているほうが、むしろ危険である。神殿騎士団も兵たちを隠れさせて見張ろうとすれば、場所が被って遭遇してしまうかもしれないのだ。
「様子を見たら迎えに行く。場所だけ決めておこう」
どこがいい、とラトゥンは、王都に詳しいだろうアリステリアを見た。
「あまり目立たない場所があれば理想だ。人が集まる酒場や店は危ない」
「そうね……」
「あの、いいですか?」
エキナが手を挙げた。
「昨晩、襲った武具店なんてどうです? 待ち合わせの場所」
アーチス武具店。フィエブレと関係がある店で、ラトゥンとアリステリアを、魔道具店へ導いた悪魔が店主をしていた。その店主を始末し、武器や道具を調達したのだが……。
「あそこは王都騎士団が、現場検証をして封鎖しているんじゃないか?」
強盗が入ったと近隣の家などから通報があれば、今頃封鎖はされている。
「いつまでも現場に残っている人はいないでしょうし、封鎖されていれば客が訪れることもありませんから、潜むなら打ってつけかもしれません。もちろん、駄目そうなら、その近くで隠れて待機していますから」
「……よし、それでいこう」
ラトゥンは同意した。
・ ・ ・
姿を変え、粗末な剣に革の鎧をまとったラトゥンは、王都ハンターギルドを訪れた。
入り口ですれ違ったハンターには、黙って脇にどく。新人は先輩を敬うものだ。おかげで特に絡まれることなく、ギルド一階のフロアへ。
――何だか懐かしいな。
かつてハンターだったラトゥンは、わいわいと騒がしいフロアの喧騒に、思わず頬が緩んだ。
王都ハンターギルドというだけあって、一階フロアはとても広く、またハンター、職員の数も多かった。清潔で、都会のありようをまざまざを見せつけられる。
フロアの一角に休憩所兼酒場が併設されていて、そこは昼間でもざわついている。左方向に目をやればクエスト掲示板があった。初めて来たのに、そうは感じさせない。ハンターギルドは、広さの違いはあれど、大体似たような作りになっているのだ。
ついキョロキョロしてしまう。田舎者丸出しだが、登録しにきた新人の演技としてもちょうどいいだろう。すでに数人の諸先輩方から、ぶしつけな視線を向けられている。新人の品定めというところだ。
複数あるカウンターには、すでに仕事を終えたハンターが受付に並んでいる。どのカウンターがいいのか、上にある看板と照らし合わせれば、新規登録専用カウンターがあるのに気づいた。唯一、空いていてすぐ受付できそうだ。
――できれば列に並びたかったんだが……。
その間、暇つぶしにフロアを見渡すことができるからだ。手配書の張り出された板が見つかれば、そこを眺めても不審がられない。
「ようこそ、ハンターギルドへ」
受付嬢が笑顔を向けてきた。何処の馬とも知れない新人に対して、ずいぶんと愛想がいいものだ。それとも新人のうちに良い印象を植えつけようという魂胆か。
「あー、えっと、ハンター登録にきたんだけど……」
田舎の少年過ぎるか、と思いつつ、ラトゥンは言った。受付嬢は丁寧にハンター登録を始める。書類作成には、字は読めるが書けないので、と代筆をお願いした。
なお『読める』と言っておかないと、受付嬢から注意される。クエスト掲示板にあるものを読めないと依頼を受けるのが大変なので、せめて読めるくらいは字や文章を覚えてください云々と……。前のハンターギルドではそうだった。
登録に関して、一度経験しているだけに新人感を出すのに苦労した。
「――はい、ご苦労様でした。書類での申請は受理いたしました。研修ハンターのランクであるFランクを発行致しますので、それが終わるまでハンターランクについての説明などさせていただきます」
田舎と違って、都会のハンターギルドの受付嬢は丁寧だった。好印象を抱かせて、以後の付き合いをよくしようということなのかもしれない。ランク説明について、もう知っているのだが、今日初めてハンターになる新人という体で来ているので、面倒だが説明を受けた。
研修ハンターから正式ハンターになるまで、講習をウン時間、ギルドが用意した依頼をウン件やってもらう等々。……正式ハンターになるつもりはないラトゥンは、聞いているフリだけして適当に流した。
受付での説明から解放された後、手配書掲示板を眺める。ラトゥン、エキナ、ギプス、クワン四人の手配書が張ったままだった。かつ懸賞金目当てのハンターに説明するクエスト担当受付嬢の説明を小耳に挟み、ギプスはまだ捕まっていないのを確認した。どうやら手配されているのに気づいて、姿をくらませているらしい。
それがわかっただけでも来た甲斐があった。ギルドを去ろうとするラトゥンだが――
「ちょーと、待ちな。若いの」
声をかけられた。