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第153話、ドリトルと仲間たち


 ドリトルと名乗ったハンターは、ラトゥンを同志に誘ってきた。


 その口ぶりからすれば、どうやら聖教会と敵対的な立ち位置にいるらしい。フィエブレ拠点と聖教会への関係を知り、かつ彼は悪魔であるという。


 孤立無援で聖教会に立ち向かおうとしているラトゥンたちである。数の上で圧倒的劣勢にあるのは間違いなく、そこで味方が増えるのは、悪い話ではない。

 問題は、ドリトルとその仲間を信用していいか、というところである。


「俺は、あんたらが何者か、どういう集まりなのか知らない。同志になれと言われて、はいそうですかと頷けるほど、正直者でもないんでね」

「そりゃそうだ。たった数人で、フィエブレ潰しをしてしまうような奴らだ。オレらがおたくらに匹敵するレベルになけりゃ、組むメリットがないもんなぁ」


 ドリトルはソファーから起き上がった。


「オーケー。互いにオープンできるところは明かして、理解を深めようじゃないか。じゃあまずは、オレらが何者かってことからだが――」


 彼は、周りのハンターたちをぐるりと見回した。


「オレも含めて、ここにいる奴らは、全員悪魔だ。ただ、生粋の悪魔は数えるほどしかいない」


 つまり?――ラトゥンが目で促すと、ドリトルは答えた。


「悪魔との契約で悪魔そのものになっちまった者。それと聖教会の実験で、無理やり悪魔にされちまった者……まあ、なりたくてなった奴ばかりじゃないってこった」

「実験……」


 これまで、教会に踏み込んだ時、地下で秘密の施設や工場を見てきた。

 生物を化け物に変える研究、自動人形兵を作る工場などなど、とても表社会で胸を張って公言できることではないそれら。


 どうやら聖教会は、化け物作りの一環で、契約とは別の方法で人間を悪魔に変える研究もしていたらしい。


「前者の契約というのは、まあわかる。神殿騎士も、契約によって知らず知らずのうちに悪魔になっていく例が多いからな。だが契約の場合、そのまま聖教会に馴染んでいくものだと思っていたが」

「世の中ってのは、そう単純じゃねえのさ」


 ドリトルは薄く笑った。


「人より勝る力を得て、その方がいいって割り切れる奴が多いってことなんだろうな。人間ってのは、一度力を得ると、手放したくなくなる。たとえ悪魔でも構いやしねえってことなんだろうよ。まあ、神殿騎士の場合は、組織の一員として周りと連帯感を持っちまって、そのままでいいやってなるんだろう」


 周囲がたとえ悪魔でも気心が知れれば、仲間意識も芽生える。


「で、後者の無理やり悪魔に、ってやつだけど。これは当然、改造しやがった聖教会に復讐してやろうって思っても不思議はねえだろう?」

「そうだろうな。……俺もその口だ」


 ラトゥンは告白した。暴食であることは言わなかったが、自分も無理やり悪魔にさせられた、と。

 周りにいたハンターの一人が口笛を吹いた。ドリトルもニヤリとする。


「やっぱりそうだったか。聖教会に楯突くんだ、そうだろうと思ってはいたが」

「純粋な悪魔もいると聞いたが? それはどうなんだ?」


 尋ねると、ドリトルは今度は苦笑した。


「まあ、十人十色。人間にも色々いるように、悪魔にも色々いるってことだ。悪魔だからといって、全員が聖教会に属しているわけじゃあない。多くの悪魔が所属しているってのはそうなんだが、野良だったり、派閥が違うってこともある」

「派閥ね……」


 そういえば、フィエブレに関係している者たちが、系列店が攻撃された時に、そのような敵対関係を口にしていたような気もする。


 ラトゥンは、取り込んだ者たちにその手の情報がないか記憶を掘り起こす。……あった。確かにドリトルが言ったことに間違いはないようだった。


 フィエブレ、そして聖教会に敵対する悪魔が、ラトゥン以外にもいるのは確定した。だがそこで次の問題は、その敵対しているドリトルらの目的である。


「俺に同志になれと言うということは、あんたらも聖教会を攻撃するということでいいのか?」


 そうではないと言われたら、そもそも同志になどなれないが。


「まあ、そうなるな。オレらとしても、やられたままってのは性に合わねえ。それに、この中にも、元の人間に戻りたいって奴らもいる。そいつらを人間に戻すためにも、聖教会をぶっ潰す必要がある」

「元に戻れるのか!?」

「そういや、お前さんも、その口だって言っていたな。そうだぜ、元に戻る方法はある」


 ドリトルは上半身を前に傾け、声を落とした。


「聖教会大聖堂の地下に、奇跡の石ってものがある」


 ドクリ、とラトゥンの心臓が跳ねた。何故それを知っているのか。緊張感が高まり、嫌な予感がしてきた。


「どんな願いも叶えるアーティファクトって言うんだがな、そいつに元の人間に戻りたいと願えば、悪魔から人間になるって寸法よ」

「本当なのか……?」


 魔女から聞いていたが、ラトゥンは知らないフリをする。そうとは知らずか、ドリトルは頷いた。


「本当さ。あれこれ調べ回ったからな。……とはいえ、さすがに現物は見たことがねえから、もしかしたら願いは叶わねえかもしれない」


 周りのハンターたちの何人かが俯いた。ドリトルは構わず続ける。


「だが、可能性があるなら、試してみるのが人間の生き方ってもんじゃないのかい」

「それは……そうだな」


 ラトゥンはその意見には同意した。魔女の情報だから間違いはないとは思うラトゥンだが、ドリトルの言う通り、実際は願いが叶わない可能性だってなくはないのだ。


「それで、大聖堂に仕掛けるのか?」

「そのつもりだぜ。ただ、大聖堂は聖教会の本拠地。神殿騎士団はもちろん、手強い上級悪魔どももウヨウヨしている。正直、オレたちだけじゃ戦力不足だ。……だから、フィエブレをぶっ潰したお前さんの力も借りたい。――どうか」


 そこでドリトルは深々と頭を下げた。


「手伝ってくれ。聖教会と一緒に戦ってくれ! この通りだ」


 ハンターたちも頭を下げる。ラトゥンは困惑する。こういう頼まれ方には弱いのだ。

 正直、まだどこまで信用していいかわからない。悪魔は狡猾だ。さも同情を誘い、しかし全てが嘘だったということだってある。


 まだ信用はできない。だが聖教会と戦うというのなら、協力するのも吝かではなかった。

 裏切られないよう、最悪でも利用できれば――くらいのスタンスで、当面付き合っていくのも手だと、ラトゥンは思った。

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