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第313話、リーリエ・レポート2


 あーしの見たところ、ヴィゴに明確な恋愛感情を抱いていて、かつくっつく可能性が高いのは、ルカ、シィラ、ヴィオの3人だと思う。


 あの自称、いや自嘲を込めてモテない男であるヴィゴは、クランメンバー内では、絶大な信頼と好意を寄せられている。


 イラも、ヴィゴへ圧倒的信頼を抱いているうちの一人だ。何で首輪をしているのって聞いたら、ヴィゴの『奴隷』だからという答えが返ってきた。……うん、よくわからん。


 クランでは後方支援タイプ。治癒魔法が使えるが、もっぱら射撃武器を使った遠距離型。だからというわけではないけど、よく見ているんだこの人。メンバー間で何か困っていたり、足りないことに気づくと率先して行動する。


 優しいし、よく気づくし、尽くしてくれるメイドさん……なんだけど、何というかなー、ちょーと陰を感じるんだよねぇ。ヴィゴにも好意的で、隙あらばサービスなんかしてくれちゃうんだけど、恋愛感情というよりは、今の自分の周りの環境を壊したくないって空気が強いかんじぃ?


 だから、シィラやヴィオが、ヴィゴへの好意を口にしてもニコニコしているんだ。もうね、恋愛競争からは身を引いてるとこがある。でも残る気は満々なの。メイドさん衣装は、もうそのための布石じゃないかって思った。


 一歩引いてるって言えばセラータもそう。新参なんだけど、前はヴィゴやイラと同じ冒険者パーティーにいて、色々あって複雑な関係らしい。


 ただ彼女、悪い錬金術師にアラクネに改造されちゃったんだよね……。下半身が蜘蛛にされちゃって、世間じゃ人間じゃなく魔物扱いなんだけど、ヴィゴはセラータが人間だったことを知っているし、仲間にも迎えた。やっさしぃっ!


 で、セラータは命の借りもあってか、ヴィゴに恋愛感情を抱いているんだけど、昔あったことの罪悪感と、アラクネの体になってしまったことで、自分の想いを口に出すことなく線を引いちゃってるんだ……。


 何で知っているかっていうと、セラータとイラが話しているのを聞いたから。あーしの偵察能力があれば、クランメンバーのあれこれ盗み聞きするなんて朝飯前ってねー。


 それはそれとして、セラータは、ヴィゴが好きだけど、陰ながら見守ることに徹してる。まー、蜘蛛の下半身じゃ、合体は――ケフンケフン。


 あの子は、精神的Mっていうか、悲劇のヒロインポジで、自分を哀れむことで、慰めているところがある。こじらせつつある、というか、たぶんそういう精神構造にならないと、アラクネ化した体に嫌悪感を抱いて、心が壊れちゃうんだと思う。


 自己防衛の結果、多重人格になるって話を聞いたことがあるけど、セラータもそれに近いかもしれないね。もし環境がより酷かったりしたら、そうなってたんじゃないかな? 環境って大事だよね。


 で、次は……ニニヤ! 最年少Sランク魔術師! 元から才能はあったんだろうけど、リベルタで経験を積んで、より開花した子。


 この子もヴィゴには好意的だけど、恋愛感情かというと、ちょっとわからない。思春期の娘だから、多少は恋愛感情を持っているかもしれないけど、そういうことは口にしたことがないんだよね。


 たぶんだけど、もう周りに、ルカとかシィラがいて、ヴィゴにはお付き合いする人がいるって考えているから、それ以上、ニニヤの中では発展しないんだと思う。


 英雄や騎士に憧れる生娘みたいな好き、という感情なんだと思う。あーし、ニニヤにヴィゴってどう?――って聞いたことがあるんだけど、その時の答えが。


『格好いいと思います。強いし、優しいです』


 頼りになるところはあるし、もしヴィゴの周りに女がいなければ、どうなっていたんだろうねぇ。ちょっと興味ある。ヒーローに憧れ、好きになって恋に発展したりとか? にししっ。


 アウラ。前世は伝説級の魔術師。天寿を全うしたはずなんだけど、精霊ドリアードに生まれ変わった。


 人間ではなくなったってこともあるんだろうけど、アウラのヴィゴへの好きも、恋愛感情じゃなくて、仲間として、お友達としての好きって感じ。


 2回目の人生を楽しむ方向で生きているみたいなんけど、結局のところ前世同様、研究好きは変わらないみたい。


 新しいことも挑戦しているようだけど、根本は変わってないんだろうね。


『んー? 恋愛? あー、パスパス』


 自身の恋愛には、あまり興味がないようです、っと!


 せっかく若返ったんだし、元は人間なんだから、気になる異性とかいないの? ドリアードって、美形や美少年を誘惑するって言うじゃん?


『かもね。……ディーは可愛いかも』


 アウラは屈託なく笑った。


『前世が人間だったからかな。あまりドリアードって感じもないのよね。もちろん、体は変わったし、能力も変わったけれど、心というのかな、そこは変わってないと思うのよ』


 人生は、楽しまなくっちゃね――と、アウラは言った。それには同感。


 彼女は手厳しいけど、割と寛容なんだよね。怒るんだけど、すぐ許してくれる。ルカも、アウラの寛容さを見習うべきだと思う。


 マルモ――ドワーフ娘。何やかんやあって、故郷を1年間追放され、リベルタクランに参加。鍛冶と武具メンテができるからと、サポート人員として採用されたって聞いている。


 お酒が絡まなくても明るい。基本、差別しないで人に接っするタイプ。ヴィゴに対しては、よき上司と部下の関係。


 というか、今のところ彼女には、恋愛感情のれの字もない。基本真面目で、仕事熱心。よく気づくところはイラと同じ。


 彼女にも、恋愛話を振ったんだけど――


『恋? それって食べられるんですかー?』


 あっはは、と冗談で返された。そんな明るいキャラで返されたけど、年頃の娘だからか、この手の話には興味津々みたい。


 誰かが恋愛に関係する話をしていると、聞き耳を立てていたり、場合によっては話に加わったりしているところを見ている。


 ただし、自分のことは言わない。あくまで人の話を聞く側。……まあ、単にお喋り好き、お話好きなだけかもしれないけど。


 ネム――ゴブリン娘。見た目より精神年齢が幼いのはトラウマのせいかもしれない。彼女の場合、過去の話は聞きたくないし、たぶん覚えていない。シィラにベッタリで、あーしとはイタズラ仲間。ヴィゴのことは『お兄さん』と呼んで慕ってはいるようだけど、恋愛感情ではないのは明らか。


 というか、ヴィゴ以外の異性には距離を取っている。同性には可愛い妹分なんだけど、異性には実にそっけなかったりする。


 そして、ファウナ。エルフの姫巫女。神聖剣の守護者に仕えるため、リベルタクランに参加。……なんだけど、この人が一番わからない。


 この人の場合、イラ同様、ヴィゴに対して従順で、奴隷ではないんだけど、ヴィゴが言うなら何でもやると公言して憚らない。


 その何でも、について、ヴィゴは言わないから、あーしが聞いたけど、それはエッチぃことも含まれるのかね?


『……守護者様が望まれるのならば、いつ、如何ようにも』


 ……これなのよねぇ。守護者様がー、ってやつ。


 自分からはまあ、言わないのよ。元から無口なんだけど。


 普段の生活で、言われなくても、これはしないといけないってわかることなら率先するけど、それ以外だと本当に動かない。動くのは、イラと違ってクラン全体ではなく、ヴィゴ中心の事柄に関してがほとんどなんだよね。


 好きなの、嫌いなの? どっちなんだい!?


 ルカやシィラ、ヴィオが、ヴィゴに好き好きって近づいても、ファウナは無反応。ヴィゴが望むならそれで、である。


 あなたねぇ、ヴィゴが自殺しろって言ったらするの!?――って、本人がしろって言ったら、本当にたぶんしちゃうんだろうなぁ。

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