「ふむふむ、なーるほど、なっ!」
真魔剣ダーク・インフェルノこと、ダイ様は頷いた。神聖剣オラクルセイバーこと、オラクルも腕を組む。
「ルカとシィラはわかっておったが、ヴィオもかー」
少女姿の剣たちの前にいるのは、フェアリーであるリーリエ。頼まれていた彼女たちのご主人様であるヴィゴと、彼を取り巻く仲間たちの恋愛について、報告しているところだった。
「のう、妖精よ。ディーはどうなのじゃ? 主様をどう思っておる?」
「何でそこで獣っ子が出てくるんだ!?」
ダイ様が突っ込んだ。オラクルは口をへの字に曲げた。
「何で、とは異なことを。獣人とはいえ、あれも
「はぁ?」
何を言っているんだ、とばかりの顔になるダイ様。
「ディーは男だぞ!?」
「はぁあ?」
今度はオラクルが変顔で応酬した。
「何を寝ぼけておるのじゃ姉君よ。ディーは、どこからどう見ても女子じゃろうが?」
「見た目! 見た目で人を判断してはいけませんー! あの見た目で、ディーは男の子なんですぅー!」
ダイ様とオラクルは顔を突き合わせる。
「おい、妖精よ、ディーは女子よな?」
「違いますぅー、ディーは男だ! なあ、リーリエ?」
この人たちは、何を争っているのか――リーリエはおかしなものを見る目になって首を傾げる。
どう言ったものか、しばし悩む妖精は、やがて肩をすくめた。
「どっちでもありません」
「「はあ!?」」
ダイ様とオラクルで声がハモった。
「どっちでもないじゃと!?」
「あいつは自己申告で男だと言っていたぞ!?」
うーん、とリーリエは腕を組む。背中の羽根を羽ばたかせて、ヒラヒラと空中を行ったり来たりする。
「ディーの性別は、ディーです」
「「……」」
「つまりね……」
リーリエは自分の知る限りの情報を、真魔剣と神聖剣に披露した。
「――あー、これ、皆には内緒だし」
そう注意をするリーリエ。話を聞き終わり、ダイ様とオラクルは顔を見合わせた。
「うーん、これは、風呂にどっち入るか悩みどころよのぅ」
「まあ、パッと見は、男湯だろうなぁ。本人にとっては難儀だろうが、だからといって差別はいかん」
「それを言うたら、わらわたちは剣じゃ。介入も口出しもすまい」
――口出しも介入はしないと言いながら、情報は仕入れるんだ……。
リーリエは思ったが黙っていた。オラクルは真顔になる。
「まあ、それはそれとして、ディーは主様のことをどう思っておるのじゃ?」
「尊敬してるし、慕ってる」
妖精は答えた。
「何て言うのかなー。好意は抱いているけど、そもそも種族が違うし、端っから恋愛感情は抱いてないと思う」
「なるほど、獣人と人間か」
オラクルは納得したような顔になった。
「獣人といえば、カバーンのやつはどうじゃ? あれは男じゃが」
「何言ってんの、お前?」
ダイ様が冷めた目になる。
「どう見ても、尊敬以外の何ものでもないだろう?」
「あーしも、それはないと思う」
純粋に、強さへの憧れだと、リーリエも同意する。そこで、ダイ様が気づいた。
「そういえば、まだユーニの話を聞いておらんぞ」
「そうじゃったそうじゃった。ルカとシィラが、ヴィゴを好いておるのじゃろ。妹のユーニはどうじゃ?」
「んー、好きか嫌いかで言えば好き」
リーリエは腕を組む。
「ルカとシィラが想いを寄せているのを知っているから、自分はそれより前に出ないって感じ。ただー」
「ただ?」
「あーしが見たところ、ユーニはムッツリ」
おおっ、とオラクルが声を上げた。たぶん、そういう話が聞きたかったのだろう。
「根がすっごい真面目。でも男と女の関係にすっごく敏感」
「あやつもお年頃だからなぁ」
ダイ様がニヤニヤする。
「真面目なヤツが、変態性癖を持っておることも多いからな」
「そーなの?」
「生き物ってのは、ストレスに影響されるんだよ。抑圧されると、その分反動も大きくなるもんだ」
へぇー、と、リーリエとオラクルは、少しだけダイ様に感心した。
「まして、ユーニは自分に厳しいタイプだろ? 人前でだらしないところを見せない、恥ずかしいことは口にしない――そういうヤツに限って」
「確かに、ユーニって妄想癖なところあるわ」
リーリエも思い出す。真面目にしているかと思ったら、考え込んでいたり、突然顔を赤らめたり。
「この前、いきなり鼻血出してた」
「さては、エロいことを考えておったな!」
「マセたガキなのじゃ」
いや、お前も同類だぞ、神聖剣――ダイ様は黙っていた。
「よしよし、よくやってくれたぞ、リーリエ。では、ご褒美をくれてやる」
ダイ様は自身の収納庫から、浮遊石を一つまみ。
「ほれ、約束の報酬だ」
「毎度ありー!」
妖精は、小さな欠片――彼女からすれば相当な大きさのある浮かぶ石を受け取る。
今回のクラン内における、ヴィゴに対する女性陣の評価調査の報酬である。
「しかし、そんな石、何に使うんじゃ?」
オラクルが首を傾げるので、リーリエはニッコリ笑った。
「これであーしの専用椅子を作るんだー」
鳥が翼を休めるように、止まり木ならぬ、空中浮遊椅子を作ろうという魂胆である。
「それより、お二人とも。クランの女の子たちの、ヴィゴへの感情を調べさせてどうしようっていうのさ?」
リーリエは気になっていたことを聞いてみた。ダイ様とオラクルは同時に口元を緩めた。
「なに、領主町はすぐそこだ。ラーメ領の戦いもいよいよ大詰めだからねぇ」
「決戦の前の日に、主様のもとを訪ねそうなのがどれくらいいるか、知りたかったのじゃ」
真魔剣と神聖剣の言い分に、リーリエは顔を引きつらせるのだった。
「えェェ……」