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第314話、リーリエの報告


「ふむふむ、なーるほど、なっ!」


 真魔剣ダーク・インフェルノこと、ダイ様は頷いた。神聖剣オラクルセイバーこと、オラクルも腕を組む。


「ルカとシィラはわかっておったが、ヴィオもかー」


 少女姿の剣たちの前にいるのは、フェアリーであるリーリエ。頼まれていた彼女たちのご主人様であるヴィゴと、彼を取り巻く仲間たちの恋愛について、報告しているところだった。


「のう、妖精よ。ディーはどうなのじゃ? 主様をどう思っておる?」

「何でそこで獣っ子が出てくるんだ!?」


 ダイ様が突っ込んだ。オラクルは口をへの字に曲げた。


「何で、とは異なことを。獣人とはいえ、あれも女子おなごぞ」

「はぁ?」


 何を言っているんだ、とばかりの顔になるダイ様。


「ディーは男だぞ!?」

「はぁあ?」


 今度はオラクルが変顔で応酬した。


「何を寝ぼけておるのじゃ姉君よ。ディーは、どこからどう見ても女子じゃろうが?」

「見た目! 見た目で人を判断してはいけませんー! あの見た目で、ディーは男の子なんですぅー!」


 ダイ様とオラクルは顔を突き合わせる。


「おい、妖精よ、ディーは女子よな?」

「違いますぅー、ディーは男だ! なあ、リーリエ?」


 この人たちは、何を争っているのか――リーリエはおかしなものを見る目になって首を傾げる。


 どう言ったものか、しばし悩む妖精は、やがて肩をすくめた。


「どっちでもありません」

「「はあ!?」」


 ダイ様とオラクルで声がハモった。


「どっちでもないじゃと!?」

「あいつは自己申告で男だと言っていたぞ!?」


 うーん、とリーリエは腕を組む。背中の羽根を羽ばたかせて、ヒラヒラと空中を行ったり来たりする。


「ディーの性別は、ディーです」

「「……」」

「つまりね……」


 リーリエは自分の知る限りの情報を、真魔剣と神聖剣に披露した。


「――あー、これ、皆には内緒だし」


 そう注意をするリーリエ。話を聞き終わり、ダイ様とオラクルは顔を見合わせた。


「うーん、これは、風呂にどっち入るか悩みどころよのぅ」

「まあ、パッと見は、男湯だろうなぁ。本人にとっては難儀だろうが、だからといって差別はいかん」

「それを言うたら、わらわたちは剣じゃ。介入も口出しもすまい」


 ――口出しも介入はしないと言いながら、情報は仕入れるんだ……。


 リーリエは思ったが黙っていた。オラクルは真顔になる。


「まあ、それはそれとして、ディーは主様のことをどう思っておるのじゃ?」

「尊敬してるし、慕ってる」


 妖精は答えた。


「何て言うのかなー。好意は抱いているけど、そもそも種族が違うし、端っから恋愛感情は抱いてないと思う」

「なるほど、獣人と人間か」


 オラクルは納得したような顔になった。


「獣人といえば、カバーンのやつはどうじゃ? あれは男じゃが」

「何言ってんの、お前?」


 ダイ様が冷めた目になる。


「どう見ても、尊敬以外の何ものでもないだろう?」

「あーしも、それはないと思う」


 純粋に、強さへの憧れだと、リーリエも同意する。そこで、ダイ様が気づいた。


「そういえば、まだユーニの話を聞いておらんぞ」

「そうじゃったそうじゃった。ルカとシィラが、ヴィゴを好いておるのじゃろ。妹のユーニはどうじゃ?」

「んー、好きか嫌いかで言えば好き」


 リーリエは腕を組む。


「ルカとシィラが想いを寄せているのを知っているから、自分はそれより前に出ないって感じ。ただー」

「ただ?」

「あーしが見たところ、ユーニはムッツリ」


 おおっ、とオラクルが声を上げた。たぶん、そういう話が聞きたかったのだろう。


「根がすっごい真面目。でも男と女の関係にすっごく敏感」

「あやつもお年頃だからなぁ」


 ダイ様がニヤニヤする。


「真面目なヤツが、変態性癖を持っておることも多いからな」

「そーなの?」

「生き物ってのは、ストレスに影響されるんだよ。抑圧されると、その分反動も大きくなるもんだ」


 へぇー、と、リーリエとオラクルは、少しだけダイ様に感心した。


「まして、ユーニは自分に厳しいタイプだろ? 人前でだらしないところを見せない、恥ずかしいことは口にしない――そういうヤツに限って」

「確かに、ユーニって妄想癖なところあるわ」


 リーリエも思い出す。真面目にしているかと思ったら、考え込んでいたり、突然顔を赤らめたり。


「この前、いきなり鼻血出してた」

「さては、エロいことを考えておったな!」

「マセたガキなのじゃ」


 いや、お前も同類だぞ、神聖剣――ダイ様は黙っていた。


「よしよし、よくやってくれたぞ、リーリエ。では、ご褒美をくれてやる」


 ダイ様は自身の収納庫から、浮遊石を一つまみ。


「ほれ、約束の報酬だ」

「毎度ありー!」


 妖精は、小さな欠片――彼女からすれば相当な大きさのある浮かぶ石を受け取る。


 今回のクラン内における、ヴィゴに対する女性陣の評価調査の報酬である。


「しかし、そんな石、何に使うんじゃ?」


 オラクルが首を傾げるので、リーリエはニッコリ笑った。


「これであーしの専用椅子を作るんだー」


 鳥が翼を休めるように、止まり木ならぬ、空中浮遊椅子を作ろうという魂胆である。


「それより、お二人とも。クランの女の子たちの、ヴィゴへの感情を調べさせてどうしようっていうのさ?」


 リーリエは気になっていたことを聞いてみた。ダイ様とオラクルは同時に口元を緩めた。


「なに、領主町はすぐそこだ。ラーメ領の戦いもいよいよ大詰めだからねぇ」

「決戦の前の日に、主様のもとを訪ねそうなのがどれくらいいるか、知りたかったのじゃ」


 真魔剣と神聖剣の言い分に、リーリエは顔を引きつらせるのだった。


「えェェ……」

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